4-18.木の仮面
翌朝。
「気持ち悪い……なんで酒飲むとこうなるんだ……」
「お酒は基本的に毒なのよ。それを体の中で分解すると、そうなるの」
「毒なのに、なんでこんなに飲みたくなるんだろうな」
「そういう毒なのよ」
「なんでみんな、毒を喜んで飲んでるんだろうな」
「あなたが一番喜んで飲んでるでしょう? 自分で考えてよ」
「わかんないんだよなー。ゾーラだって酒は飲むだろ?」
「少しだけね。酔うと気持ちいいから飲んでるの」
「じゃ、アタシが飲む理由もそれでいいか。でも今は気持ち悪い……」
「度を越して飲むからよ。ほらお水」
「ありがとな。飲んでる間は気持ちいいけど、後で気持ち悪くなる。不思議なもんだよなあ」
「不思議でもなんでもないわよ。気持ち悪くならない量を覚えて、そこでやめるようにしなさい」
「うへーい。でも飲んじゃうんだよな。毒ってわかってても」
朝からキアとゾーラが中身のない話をしている。酒を飲む年齢じゃない僕たちには、さっぱりだ。
「わたしたちも大人になれば、ああなるのかしら」
「わからないよ。けど、伝説の英雄ってお酒を好む豪快なイメージもあるよ」
「! アンリーシャもそうだったりするのかしら!? だったら、わたしもお酒いっぱい飲むわ!」
「そうだね」
何年も後のことだ。今から考えることじゃないから、軽く受け流す。
宿屋の食堂で、シンプルながら美味しい朝食を頂いてから、ザサール商会と合流。夫婦と娘と、何人かの護衛たち。彼らと共に街の中心部へと向かう。
城に続く大通りを歩きながら街の雰囲気を見る。なんとなく、人々は高揚した雰囲気にある様子だ。
「お祭りが近いからね。あと数日だったかしら」
「はい。間に合って良かったです」
もふもふの上のアンリとソノレナが、今も仲良さそうに話している。人見知りするアルレナもまた、僕たちには慣れたのだろう。母の陰に隠れることなく、大きな馬とアンリに目を向けていた。
豊穣の男神に感謝を捧げる祭りだっけ。秋の実りが多く手に入るこの季節は、各地で収穫祭が行われる傾向にある。王都でも、この一ヶ月後くらいに行われるんだったかな。
この街の場合は独自の神を崇めている点で、普通の収穫祭とは性格が異なるのだろうけれど。
「なんか、仮面を売ってる店が多くないですか? それも、ちょっと不気味な……」
ティナに言われて気づく。確かに店先で、奇妙な仮面を売ってるのが目立つ。常にこれを商品としているわけではなく、この時期は売れるから急遽入手したという感じだ。
顔全体を覆うタイプの仮面。薄い木製で、絵の具によって色とりどりに彩色されている。形はどれも似たようなものだけれど、彩色パターンは様々で、同じ物はひとつとして無い。
無地の仮面が売られているのは、自分で彩色するためのものなんだろうな。
あれはなんなのだろう。
「セイホラン様の眷属らしいです」
ソノレナが答えを教えてくれた。
「お祭りの際、街中の男性、特に未婚の方があれを被るそうですよ」
「そうなの? なんのために?」
「これから詳しい人に会うので、そこで教えてもらいましょう」
詳しい人? 誰だろう。
なんとなく予想はつくけど。お祭りの関係者なんだろう。ザサール商会は祭りに必要なものを運びに、この街に来たのだから。
まずは王都の中心部にある冒険者ギルドへ行き、僕たちの仕事を事後で申請する。街の兵士が動いた村の事件のことはギルドも把握していたから、噂の商隊が来たと少しだけざわついた。
けれど事情は伝わってるってことだから、手続き自体はすんなり行った。僕たちには結構な額の報酬が与えられて、それから。
「おそらく、皆さんの等級が上がることになると思います。数日後に、ギルドへ来てください」
受付からそんなことを言われた。
そうなんだ。等級って上がるんだ。身分証としてしか使ってこなかった登録証だし、上がってなんの意味があるのかって思ったけれど。
「良かったですねヨナ様! 頑張りが認められました!」
ティナが自分のことのように喜んでいた。いや、ティナの等級も上がるから自分のことで間違いないのか。けど僕の手を握って笑顔を向ける彼女は、明らかに僕のことを祝っていて。
だったら素直に喜ぶべきだな。その方がティナも幸せだろう。
「そうだね。ありがとう。ティナのおかげだ」
「えへへっ。みんなで手に入れた昇格です。キアさんたちも……キアさん?」
その姿が見えないと思って周りを見回すと、街の冒険者に囲まれていた。
「なあ、あんたなのか。例の村に関わった冒険者ってのは」
「何十人もの村人を撃退したって本当か!?」
「俺は悪魔の儀式をぶち壊したって聞いたぜ! カラスの生き血を捧げて悪魔を呼び出すってよ!」
「村が飼っていた魔物を返り討ちにしたらしいな!」
噂に興味津々な冒険者たちが質問攻めをしていた。ちょっと話が盛られている上に、全然知らない話題まで出てくる。なんだよ悪魔の儀式って。魔物を飼ってるってのも意味がわからない。あんな小さな村で魔物を隠し持つなんて無理でしょ。
「まあまあみんな落ち着けって。アタシがちゃんと、本当のこと話してやるから。でも酒が飲みたくなってきたなー」
「はいそこまでー! キア、この後用事があるでしょー? 商人たちと一緒に、荷物を送り届けないと」
「いやもういいだろ! その仕事は終わり! 街は安全で護衛は必要ない! 痛っ! やめろ離せ!」
朝の話を完全に忘れて酒に走ろうとするキアと、奢る気満々な冒険者たち。昼間から酔わせるわけにもいかず、ゾーラはキアの耳を引っ張って離していく。




