4-16.セイホレハの街
まあいいだろう。兵士が夜通し守ってくれるそうだから、安心して寝られる。村の真ん中で焚き火を焚いて、その近くで眠ることにした。
一晩中、ティナの膝枕を受けるかどうかは、わからない。ティナも途中で寝て、正座が崩れるだろうし。
いやそれよりも。
「ホラン様が潜んでいた建物にも兵士が向かったらしいわ。戻ってこないのを見るに、よほど入念に中を探しているのね」
ゾーラが横になって、僕に背中から抱きつきながら言う。
「探しているって、なにをよ?」
アンリは僕の前に座って、頭を撫でた。
「わからないわ。けど明らかに、兵士たちは何かを探している。あの建物、さっさと燃やして森の木の栄養にしてほしいのに。じゃないとまた狼の寝床になってしまうわ」
「兵士が中にいる限りは狼も寄り付かないと思うけどね」
「探しものが見つからなくて、とりあえず入口を封鎖しただけでいなくなるかもしれないわ。すると狼はそれを突破して入ってくる」
「ありそうねー」
「何を探しているのかしらね。兵士の意図が読めないわ」
「アタシはお前らのやってることも読めねぇけどな」
本当にね。なんでみんな、僕が寝るのにそんなに構いたいのかな。
「そうですよ! ヨナ様に抱きついたり撫でたりしないでください! お休みの邪魔です!」
「あなたの膝枕はどうなのよ」
「わたしは邪魔になっていません!」
「ティナ、気持ちは嬉しいけど、僕の頭を乗せてちゃティナが寝られないよね」
「ああっ! ヨナ様なんてお優しい!」
「なんでそんな考えになるんだ」
「ヨナ様の近衛兵として、一晩中起きてお守りします!」
「無理だと思うけどなあ」
そして少し後。
「ぐー」
案の定、ティナは気持ち良さそうに眠った。膝枕は中断して、僕の前で横になって向かい合うようにして寝顔を見せていた。
僕のために世話を焼いてくれるのは嬉しいけれど、こっちの方がかわいいな。
翌朝。兵士からは、もう取り調べることはないと言われた。邪魔だから、さっさと村から出ていけって感じだ。
僕たちを襲った老婆を始めとした村人たちは、縛られて街まで連行されていった。ホイも同じく。さすがに罪人ではないと判断されて縛られてはいないけれど、兵士がどこかに連れて行った。
彼がどうなるかは、僕の知ったことではない。どこかの家で引き取られるのかな。
そして兵士の多くは村に残って何かを探している。何なのかは知らない。
関わらない方がいいかもしれないしね。
「じゃあ、あたしたちは行きましょうか。セイホレハへの道のり、思ったより大変なものになったけど。無事に着けそうで良かったわ」
「うん。そうだね。行こう。一応、まだザサール商会の護衛の仕事はあるんだよね」
「ええ。残りもしっかり守ってあげましょう」
幸いにして、セイホレハへの残りの行程で問題は起きなかった。
狼は出なかったし、正規の道への復帰も簡単にできた。村をひとつ通り越して、その日の夜にはセイホレハの街にたどり着けた。
森の中に存在する城塞都市。森をぶった切るように城壁を作っていて、城壁内の土地の三割くらいを占める豊かな森が、街の北部に広がっている。人々は城壁の中にいながらにして、森で狩りをしたり木材を手に入れたりできる。
この森はセイホランの神のいる神聖な場所でもあり、木々の伐採を行う数は管理されているとのことだ。定期的な植林も行われている。
森に入って木の実をとるくらいならいいけれど、認可されてない人間が森の木を伐採したら罪に問われる。
それだけ、街に森の存在は根付いているということだ。
とにかく、ここまで来ればもう安心だ。
「本当にありがとうございました。皆さんのおかげで助かりました。明日、ギルドへ行って依頼を認可して、報酬を渡します。今夜はゆっくり休んでください。宿代は出しますので」
ザサール夫妻が僕らの手を握って丁寧なお礼を言った。
ようやくまともな宿で寝ることができる。しかも、それなりに良いところだ。
夜に着いたから、僕たちがいるのは街の中心ではなく南にある城門付近。他の多くの都市と同じように、城門入ってすぐの箇所は栄えているもの。この辺りではかなりグレードの高い宿だ。
「よっしゃ! 酒飲もうぜ酒!」
「キアさんひとりで飲んでください」
「なんでだよ!?」
「絡まれると面倒なので。あ、でも食事は美味しそうですね。ヨナ様あとで行きましょう。キアさんが酔いつぶれた頃を見計らって」
「なんで別々に食わなきゃいけないんだよ! ほら食堂行くぞ!」
みんなで揃って食べた方がいいのは、その通りなんだけど。
「それでアタシは動いたんだ。迫ってくる狼を、このナイフでバッサバッサと斬り捨てた。そしたらボスらしい、こんな大きな狼がいた」
既に酒を何杯も飲んで出来上がったキアが、他の客に武勇伝を話している。
話せば客たちが囃したてて、酒を奢ってくれるらしい。だからキアも盛り上げるために、過分に脚色された話をしている。
なんだよ、こっちの身長よりでかい狼と取っ組み合いしたって。過去に遡ればそんな人食い狼と戦ったことはあるから、完全な嘘とも言い切れないのが問題だ。
他の客たちは、全部が真実ではないとは察していながらも熱心に聞いていた。




