4-8.家が倒れる
村人たちが大騒ぎしながら荷物を扱っているため、もふもふは起きていた。けれどこちらに何かしてこないから、大人しく状況を見守るだけ。頭がいいな。
アンリに呼ばれたら沈黙はおしまい。大きな声で嘶いて返事をした。
「その人たちを蹴散らして! 悪い人たちなの!」
そう言われれば、もふもふは村人たちに突進して、突き飛ばしたり蹴飛ばしたりした。アンリもそちらに走っていって合流。
「あなたたち! よくわからないけど! やめなさい! この英雄アンリーシャが許さないわ!」
もふもふの上に乗ったアンリが、村人たちへと矢を射掛ける。よく見れば男よりも女の方が多かった。男は宿屋の襲撃に使っているから、安全そうなこっちの仕事は女がやるのか。
まあ、関係ないけど! 悪人は殺すだけ!
「とりゃー! もふもふ! やっちゃって!」
「アンリちゃん! ヨナくんたちの方へ合流しましょう! はっきり言ってこいつらは雑魚で相手するものじゃないわ!」
「そうねわかった! 行くわ!」
一応、一通りもふもふをぶつけて多少なりとも痛みと傷を与えて、すぐには起き上がれないようにしてから宿屋へと向かっていった。ゾーラが、少しため息をつきながら追いかける。
――――
背中から壁に激突した僕は、一瞬意識を失っていたようだ。目を覚ますと喉元に剣が突きつけられていた。
不用意に動けば攻撃される。だから目覚めてないフリをしつつ、膠着状態に陥っていた戦況を見ていた。キアと老婆の話しを聞きながら、泣き叫んでいるアルレナの方へ目を動かす。
まずは彼女を助けないと。
捧げ物か。生きた人間の場合、それは生贄って言うんじゃないかな。なにか神様のようなものに捧げるらしいけれど、それは実在するのか?
それについて考えている場合じゃないな。もふもふの声で全員の動きが止まった瞬間に、僕は斧を持った男へと飛びかかった。
武器が手元にないから、掴みかかるしかない。
「その子を! 離せ!」
「ちっ! やめろ!」
アルレナを抱えているその男は、とてつもない巨漢だった。腕も太く力が強そう。斧で扉を砕いてアルレナを引きずり出せたのも納得だ。
小さな女の子など片手で抱えて動きを封じられる。そして、片手で大きな斧を自在に振り回す膂力を持っていた。
僕に向けて振り下ろされる斧を回避して、その腕を押さえつけようとする。けど、一瞬だけ触って無理だとわかった。こいつの片手の方が僕の全力より強い。
慌てて身を引いた僕の前で、男の腕が振りあげられる。その瞬間、彼の全意識が僕を殺すことに向いていた。
彼は知らない。僕を助けることに全力を向ける者がいることを。
「喰らえっ!」
キアが天井から降ってきて、男の横っ面を蹴飛ばした。正確には近くの壁を登って飛びかかったと言うべきだけれど。
反射的に耳を押さえた男の腕から、アルレナが解放される。彼女は泣きながら、商人の護衛と村人たちが混戦を繰り広げている中を母の下へと走っていった。
母娘が必死に抱き合い無事を喜んでいるのを見ながら、僕は再度男の腕に掴みかかる。キアが巨漢の肩に乗って頭を押さえつけていて、彼はそれの排除からやりたがるだろう。
だから斧を持つ手を必死に押さえる。大丈夫、一瞬だけ、キアに斧が刺さるまでの時間を伸ばせればいいだけだから。
キアに視界を防がれている男は、自由な方の腕をそっちにやって剥がそうとした。その間に、剣を腰だめに構えたティナが迫っていることに気づかなかった。
男の腕を剣が貫き、その向こうにあった腹にも刺さる。ぎゃあと悲鳴が上がった。
しかし腕で勢いが削がれて腹には深くは刺さらず、致命傷には至らなかった。
「ごふっ!? ふざけ、やがって!!」
「うおっ!?」
「うわぁっ!?」
手負いにも関わらず、男は体をよじってキアと僕を振るい落とした。ティナもまた、刺さったままの剣を手放してしまう。
男はそのまま、斧をめちゃくちゃに振り回した。必死の抵抗というか、怒りに身を任せているというか。一応、僕を追いかけてはいるようだった。
僕はといえば、手元に武器がないために逃げることしかできない。誰かが落とした武器か木の棒を探すけれど、見つからない。
回避した一撃が、建物の柱を砕いた。別の一撃は、壁に大きな穴を作った。
「ちょこまかと! ふざけんな!」
「うわっ!?」
斧を振り上げて突進してきた男。回避すれば、太い柱に激突して破壊しながら、建物全体を大きく揺らした。
元々かなり古い建物だ。しかも村人たちと護衛たちが暴れている。
建物全体がグラグラと揺れた。そして、木が割れて砕ける音があちこちからした。
「みんな逃げて! この家壊れる!」
周りに呼びかけて、僕も逃げようとした。
しかし、巨漢に足を捕まれて止められた。
ああもう。怪我してるならそのまま大人しく死ねばいいのに。既に起き上がる気力はなさそうだけれど。
「ヨナ!」
「ヨナ様!」
ティナが駆け寄って、男の指を剥がそうとする。キアは男の腕をザクザクと刺していた。
「よし外れた! ヨナ様走れますか!?」
「いける! 痛みとかはない!」
男の腕に力が入らなくなるほどの傷が入ってから、ようやく僕の足首は解放された。急いで立ち上がり、三人で窓に向かって走ってそこから飛び出た。
直後に、建物が屋根を支えきれないようになって、倒壊した。
「よ、良かった……死ぬかと思った……」
「ヨナ! 無事!? なにがあったの!?」
「戻ってみたら大変なことになってるわね。建物壊すって、どういうことよ」
「アンリ、ゾーラ。村人たちを拘束して。事情を聞きたい」
見れば、建物の倒壊で戦闘は中断になったとはいえ、護衛側が圧倒的に優勢で村人たちを制圧する寸前だったようだ。




