第19話_呼び捨ての、始まり
車内でのキスのあと、私たちは誠二のマンションに向かった。
エレベーターの中で、彼は私の手を握ったまま離さない。
指が絡み合ったまま、熱が伝わってくる。
部屋に入ると、誠二はすぐに私を壁に優しく押し付けた。
「香織……」
低く、熱を帯びた声で名前を呼ばれ、私は息を呑んだ。
彼の唇が私の唇に重なる。
今夜のキスは、車内のときよりさらに深く、欲情が絡みついていた。
私は彼のシャツを強く掴みながら、必死に応えた。
舌が絡み、息が混ざる。
彼の手が私の腰を引き寄せ、身体を密着させる。
「ん……っ」
キスが長く続いたあと、誠二は私の唇を離して、額を私の額にくっつけた。
荒い息を吐きながら、彼が静かに言った。
「香織。お前が他の男に笑顔を向けるのを見ると、ほんとに胸が痛くなる。
もう我慢できない」
私は彼の胸に顔を埋めながら、小さく息を吐いた。
「……仕事だから、しょうがないじゃない」
「わかってる。でも、俺はお前が俺のものだって、もっと強く実感したいんだ」
彼は私の首筋に唇を寄せ、熱い息を吹きかける。
「香織……お前、俺のことどう呼んでる?」
私は一瞬、動きを止めた。
「……誠二さん、だよ」
誠二は私の首筋に軽く歯を立ててから、耳元で囁いた。
「もう……『さん』はいらない。
お前が俺の名前を、素直に呼んでくれたら嬉しい」
その言葉に、胸の奥がざわついた。
私は彼のシャツを握ったまま、顔を上げて彼を見つめた。
誠二の瞳は、熱くて、切なくて、でも優しい。
「……誠二」
私は、初めて「さん」を付けずに彼の名前を呼んだ。
声が少し震えていた。
誠二の目が、大きく見開かれる。
次の瞬間、彼は私の唇を激しく奪った。
今までのキスとは違う、もっと激しく、もっと感情が溢れたキス。
私は彼の首に腕を回し、応えるように抱きついた。
「誠二……誠二……」
名前を呼ぶたびに、彼の腕に力がこもる。
「香織……」
彼は私の名前を低く呟きながら、私をソファに優しく押し倒した。
身体が重なり、熱が混ざり合う。
私は彼の胸に顔を埋めながら、息を整えながら、そっと囁いた。
「誠二……大好き」
誠二は私の髪を優しく撫でながら、甘く微笑んだ。
「俺もだ。
お前が俺の名前を呼んでくれるだけで、こんなに嬉しいなんてな」
私は彼の胸に頰を寄せながら、静かに目を閉じた。
(これが……本当の始まり)
呼び捨てにした瞬間から、もう後戻りはできない。
でも、私はもう、その温もりから離れたくなかった。
(第20話へ続く)
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