第17話_オフィスの、危うい瞬間
火曜日の午後、プロジェクトの進捗確認ミーティングが終わった。
私は資料をまとめながら、ふと視線を感じて顔を上げた。
誠二が、会議室の反対側からこちらを見ていた。
表向きはいつもの爽やかな笑顔。
でも、目が合うと、瞳の奥が少し熱を帯びる。
(……また、あの目)
私は慌てて視線を逸らした。
ミーティングが終わり、社員たちがぞろぞろと部屋を出ていく。
そのとき、後輩の男性社員が私に声をかけてきた。
「佐藤主任、さっきの資料の部分で少し質問いいですか?」
「ええ、いいわよ」
私は笑顔で応じた。
後輩は資料を広げて、熱心に説明を始めた。
普通の仕事の会話だ。
でも、誠二が少し離れた位置で私たちを見ているのがわかった。
彼の視線が、じっとこちらに注がれている。
(……大丈夫。仕事の話だもの)
私はそう自分に言い聞かせながら、後輩の質問に答えていた。
数分後、後輩が「ありがとうございます!」と言って部屋を出ていった。
その瞬間、誠二がゆっくりと近づいてきた。
「佐藤さん」
声は普通だったが、目が少し細められている。
「はい?」
私は資料をまとめながら、平静を装った。
誠二は私のすぐ隣まで来て、小声で言った。
「……あいつと話してるとき、笑顔が多すぎ」
「え……?」
「仕事の話でも、お前が他の男に笑顔を向けるのを見ると、イラつく」
彼の声は低くて、少し苛立っているように聞こえた。
私は慌てて周囲を確認した。
幸い、誰もいない。
「誠二さん……仕事よ」
「わかってる」
彼は私の手首をそっと掴み、会議室の死角になる位置に私を引き寄せた。
「でも、俺はもう我慢が利かない。
お前は俺のものだろ?」
熱い視線に、胸がどきりと鳴る。
私は彼のシャツを軽く掴みながら、小声で返した。
「……ここでそんなこと言ったら、本当に危ないわ」
誠二は私の唇に指を当てて、甘く微笑んだ。
「わかってる。
だから、夜にちゃんと話そう」
彼は私の手首を離すと、いつもの王子様スマイルに戻った。
「じゃあ、また後で」
そう言い残して、誠二は部屋を出ていった。
私は壁に背中を預けて、そっと息を吐いた。
(本当に……危うい関係)
オフィスではまだ、普通の同僚。
でも、二人の間には、もう隠しきれない熱が広がり始めていた。
(第18話へ続く)
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