第12話_ランチタイムの、ちょっとした変化
12時15分。
私はお弁当を持って、地下の備品・休憩室に向かった。
ドアを開けると、薄暗い部屋の長椅子に、すでに誠二が座っていた。
彼は私が入ってきたことに気づくと、スマホから目を離し、足を組んだままこちらを見上げた。
「遅い」
いつもの気だるげな口調だったが、目が少しだけ細められている。
「15分ずらせって言ったのはそっちでしょう」
(前もこんなやり取りしたような···?)
私が文句を言いながら対面に座ると、誠二はフッと鼻で笑った。
「まあな」
少しの沈黙のあと、彼が唐突に言った。
「……昨日、ちゃんと眠れたか?」
私はお弁当の蓋を開けながら、視線を逸らした。
「まあまあ、です」
「嘘つけ。俺は一睡もしてねえよ」
誠二は自分のサンドイッチの袋をガサガサと開きながら、じっと私の顔を見つめてきた。
「ずっとお前のこと考えてた。
香織が本当に俺のことを受け止めてくれたのか、夢だったんじゃないかって」
私は動きを止めた。
彼の言葉は、昨日までの「ゲームをしていた男」とは明らかに違っていた。
もっと素直で、もっと……脆い。
「……誠二さん」
私は彼の名前を呼んでから、少し照れくさくなって視線を落とした。
「急にそんなこと言われても……困ります」
「困る?」
「だって……まだ、仕事中ですし」
誠二はサンドイッチを持つ手を止めて、ゆっくりと笑った。
「仕事中でも、俺はお前が欲しいって思ってるよ」
その言葉に、顔が一気に熱くなった。
私は慌ててお弁当の蓋を閉め直しながら、小声で抗議した。
「そんなこと、休憩室で言わないでください……!」
「なんで? 誰もいないし」
「いるかもしれないでしょう……」
誠二はこちらに体を乗り出すようにして、テーブルの上で私の手をそっと覆った。
「だったら、もっと人がいないところで会おうか?」
私は彼の手に視線を落としたまま、小さく息を吐いた。
(……本当に、ずるい)
ゲームのときは、からかい半分で近づいてきたのに。
今は、ただ純粋に「会いたい」と言っているように聞こえる。
それが、妙に胸をくすぐる。
「……今週の金曜日は、大丈夫です」
私が小さく呟くと、誠二の指が私の手に少し力を込めた。
「金曜の夜、いいのか?」
「ええ……ただし、仕事が終わってからにしてください」
誠二は満足そうに微笑んだ。
「わかった。じゃあ、金曜の夜は俺が全部決める」
私は彼の笑顔を見て、ふと昔のことを思い出した。
あの階段で出会ったときの、彼の疲れた目と汚い言葉。
そして今、目の前にいるこの男は、同じ人物なのに、まるで別人のように優しい。
(……本当に、本気なんだ)
私は自分の胸の奥が、じんわりと温かくなるのを感じながら、そっと頷いた。
「よろしくお願いします、誠二さん」
(第13話へ続く)
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