第9話 音速の血管――ウサミチの物流革命と見えない壁
まいど!Q8の正解は
③異世界間の関税をゼロにする『異空間・自由貿易同盟(仮)』だ。
メッキーの狙いは単なる金儲けじゃない。
商流で魔界の「壁」をぶち壊し、物理的な国境を無意味にすることなんだ。
さて、第8話で「赤い眼」に狙われた聖域。オープン直前の不穏な空気を、
あの男が「掃除」するところから始めるぜ。
【♪ 昭和歌謡(重厚なベースラインと、夜の静寂を切り裂くサックスの音色) ♪】
「……時計の針は、止まってくれねぇんだ。行くぜ、大将」
「聖域」の建設現場を囲む深い霧の中。
そこには、ミノたちが造り上げた黄金の城を「獲物」として見定める、血走った眼
があった。
地元のならず者集団、ゴブリンとオークの地上げ屋『強欲上等会』のスカウトたちだ。
「金力至上」:金がすべて。
「不従皆死」:恐怖がすべて。
「即刻立退」:拳がすべて。
がモットーの不法集団だ。
「ヒヒッ……いいハコ造りやがって。
あのお玉持ちのババアを追い出しちまえば、ここは俺たちのシマだ……。
まずは夜露死苦代わり、資材に火でも付けてやるか」
オークが松明を掲げようとした、その瞬間。
……スッ。
風さえも動かない、絶対的な静寂が背後から彼らを包み込んだ。
「……15点。無駄口が多すぎる。
あと、タバコの臭いも。
現場の養生を汚すな」
闇の中から響いたのは、硬質な、それでいて底冷えするほど落ち着いた声。
ジッジーだ。彼は漆黒のタクティカル・ウェアに身を包み、夜の闇と、周囲の
コンクリートの影に完全に同化していた。
「なっ、貴様いつの間に……ッ!」
オークが巨大な斧を振り回そうとしたが、ジッジーの動きはその数倍速かった。
彼は戦わない。ただ、敵の「戦意」と「重心」を折るだけだ。
シュッ。シュシュッ。
という短い音。
ジッジーの指先に仕込まれた極細の魔力ワイヤーが、月光を反射して一瞬だけ銀色に輝く。
ゴブリンが弓矢を放とうとした瞬間のしなる弓と、オークが振りかざした斧とが、後方の
巨岩、さらには逃げ道となる地面の杭が瞬時に連結された。
「な、なんだこの糸は!?
動け……ぬわい。ぐわぁっ!」
オークが力を込めるほど、自身の筋力がワイヤーを介して自分に跳ね返る。
自らの膂力による反動で、500キロを超える巨体が無様に地面へ叩き
つけられた。ズドンッ! という重苦しい音が、霧の中に響き渡る。
ジッジーは動揺するオークたちの眉間に、冷たい「魔石」を押し当てた。
……チィィン。
魔石が共鳴し、不気味な高音を発する。
「殺しはしない。だが、次にあの一線を越えたら……
あんたたちの『過去の悪事』の証拠を、魔界の憲兵局に一括送信する。
サトルの構築したネットワークを舐めないことだ。……消えろ」
ジッジーの放つ圧倒的な「プロの重圧」。
その氷のような殺気に、ならず者たちは腰を抜かし、泥まみれになりながら逃げ出して
いった。
「抑止」完了。
ジッジーは魔力板に細い指を添えた。
ピポッ、ピポポッ。という電子音が、深夜の建設現場に規則正しく響く。
「……こちらジッジー。
外周の不純物除去、完了した。
メッキー、予定通り『次のフェーズ』へ移行しろ。
……時間は一秒も待ってくれないぞ」
翌朝。「聖域」の食堂前には、一台の奇妙な「乗り物」が止まっていた。
それは、ミノが造り上げた頑丈な台車に、シュンの魔力糸を編み込んだ超軽量の
カーボン調コンテナが積まれたものだった。
ガシャリ。カチッ。
コンテナを固定するラチェットバックルが、小気味よい金属音を立てる。
そこへ、目にも留まらぬ速さで駆け寄ってきた人影がある。
長くしなやかな四肢に、ピンと立った長い耳。
ウサギの獣人、ウサミチだ。
彼は前世、実業団で「日本代表」を争うほどのトップ・スプリンターであり、同時に
大手物流企業の運行管理部門で、全国のトラックの動線を一秒単位で制御していた
ロジスティクスの鬼だった。
「遅いですよ、メッキーさん!
予定より0.04秒、コンテナの積載準備が遅れています!
このタイムラグが積み重なれば、商圏の末端では大きなロスになる!」
ウサミチは自身の魔力板に表示されたストップウォッチを睨みつけ、
苛立ちを隠さずにメッキーへ詰め寄った。
「ちゅ、ちゅわっ! ウサミチさん、相変わらずせっかちだちゅね……。
でも、準備は万端だちゅよ。
ペンジさんの造った『保冷・保温鋳物コンテナ』に、
マリアンおばちゃんのポークジンジャーが詰まってるだちゅ!」
ウサミチはコンテナの重量バランスを瞬時に見極める。左側0.2ミリの傾きを修正し、
自身の脚に装着された魔力増幅用のレガースを締め直した。
ギュ、ギュゥ……ッ。
革と金属が擦れる音が、彼の覚悟を物語る。
「いいですか、メッキーさん。マリアンさんの料理は、
焼き上がりから30分以内に届けてこそ100%の価値がある。
31分経てば、それはもう『別の食べ物』、だから全額返金なのです。
私は、マリアンさんの真心を『鮮度』という付加価値で
守るために走る。……物流は、国家の血管なんですよ。
滞れば死ぬ。それだけの話だ」
ウサミチの言葉に、メッキーは深く頷いた。
商社のバイヤーとして世界を飛び回っていた前世、
彼は「どれほど良い商品も、届かなければゴミと同じ」という残酷な現実を何度も見てきた。
「ウサミチさん、君に任せるのは単なる『配達』じゃないだちゅ。
この聖域を中心とした、魔界全土への超速物流網のテスト・ランだちゅ!」
その時。
……ガララッ!
食堂の重厚な引き戸が開き、中からマリアンが顔を出した。
湯気と共に漂ってくるのは、醤油と生姜、そしてどこか懐かしい竹の皮の香り。
「ウサミチさん、これ。道中お腹が空いた時に食べなさい。
栄養満点の中華チマキだよ。……気をつけてね、転んじゃダメだよ?」
差し出されたのは、丁寧に竹の皮で包まれ、太い紐で結ばれた大きなチマキだ。
パチパチ……ッ。
まだ蒸したての熱気が、ウサミチの鼻先を掠める。
「……はい、マリアンさん! 行ってきます!」
ウサミチがスタート・ライン(食堂の敷居)に立つ。
彼の脳内には、サトルが作成した「魔界高低差マップ」と、シュンが張り巡らせた
「魔力糸の空中回廊」の最短ルートが、青いレーザーのように完璧に投影されていた。
「……位置について。よーい……」
ウサミチの全身から、青いマナの火花が散る。パチッ、バチチッ!
「ドンッ!!」
爆音と共に、ウサミチの姿が消えた。
いや、消えたのではない。あまりの加速に、周囲の空気が遅れて震え、ドォォォンッ!
という「ソニックブーム」を巻き起こしたのだ。
その圧倒的な加速に、現世のモニター越しには大勢の視聴者から
『いけえええ!』『最高速のデリバリーだ!』
と地鳴りのような歓喜のコメントが叩き込まれ、興奮は一気に沸点へと達していた。
ウサミチは目にも止まらぬ速度で走っている。
ただ走るのではない。シュンが空中に張り巡らせた「不可視の糸」を足場にし、
三次元的な軌道を描いて荒野を跳ぶ。
ピュンッ、ピュンッ、ピュンッ!
空気を切り裂く音が、連続して鳴り響く。
「……右方向、魔風の乱気流を確認。
ベクトル修正。……次の結節点まで、残り3秒!」
彼の走りは、もはや「スポーツ」ではなく「計算された精密機械」だった。
前世で培った「バトンパスの効率化」と「最短走行ラインの追求」。
それを、魔力というブースターで極限まで引き上げているのだ。
道中、地上げ屋の残党が槍を構えて立ち塞がろうとしたが、彼らが「何か」が通り
過ぎた衝撃波でなぎ倒された時には、すでにウサミチは数キロ先、地平線の彼方を
走っていた。
「……見えた! 第1中継ポイント、獣人たちの集落!」
ウサミチは減速することなく、ミノが事前に設置していた「魔力投石機」
の台座へ飛び込んだ。
グォォォ……ッ! と糸が引き絞られ、
バチンッ!!
シュンの糸が彼を優しく受け止め、その弾性を利用してさらに遠くへと弾き飛ばす。
「ロジスティクスを止めるな!
マリアンの熱を、一滴も逃すな!!」
彼が叫ぶと、背後のコンテナから、ポークジンジャーの芳醇な香りが煙となってたなびき、
魔界の荒野に「文明の匂い」を刻んでいった。
数十分後。
聖域から遥か離れた、物資の乏しい獣人の村。
そこで飢えと戦っていた村人たちの前に、雷鳴と共に一人の男が舞い降りた。
……ドォォッ!
着地の衝撃で土埃が舞う。
「……お届けものです。
マリアン食堂特製、ポークジンジャー100人前。
……焼き上がりから、23分12秒です」
ウサミチは、一滴の汗も流さず、完璧な笑顔でコンテナを開いた。
プシュゥゥゥ……ッ!
中からは、まだジュウジュウと音を立てる肉と、黄金色のタレが輝く料理が現れた。
「……な、なんだ、このいい匂いは……」
「温かい……。魔界で、こんなに温かくて
『優しい』メシが食べられるのか……?」
村人たちが涙を流してポークジンジャーを頬張り、竹の皮を剥いて中華チマキの
モチモチした食感に悶絶する様子を、ウサミチは自身の魔力板に冷静に記録した。
「……配送完了。顧客満足度、計測不能なほど上昇中。
……メッキーさん、聞こえますか? 『血管』は繋がりました。
……さあ、次は『心臓』をさらに大きく動かす番ですよ」
聖域の現場事務所。
サトルのホログラム・マップに、ウサミチが走った軌跡が「光の線」となって刻まれる。
「フン、見事な走りだ。……ミノ、見てみろ。
ウサミチが走った道に沿って、周辺の集落の経済活動が活性化し始めている。
物流が動けば、富が動く。富が動けば、俺たちの
『無限連結国家群』は、もはや誰も止められない」
ミノは、満足げに鼻を鳴らした。
「……当たり前だ。俺たちが造った道と、ペンジが造ったコンロ。
そしてマリアンさんのメシに、ウサミチの脚だ。
……負ける要素がどこにある?」
だが、その時。
メッキーの魔力板に、緊急の通信が入った。
ビィィィーッ! ビィィィーッ!
という警告音。
発信元は……魔界の関税と物流を統括する、保守派の重鎮『関門大公』。
『……五色商会といったか。
勝手に「血管」を広げるのは、既存の秩序への宣戦布告と受け取るぞ。
……貴様らの「物流網」、魔界の法(関税)によって差し押さえさせてもらう』
メッキーは、不敵な笑みを浮かべた。
「ちゅっ。……待ってたんだちゅ、その言葉。
……ミノさん、ペンジさん。いよいよ、本格的な『商戦』の始まりだちゅ!」
食堂オープンを目前にして、魔界の既得権益という巨大な「壁」が、彼らの前に
立ちはだかろうとしていた。
ウサミチの爆走、最高にキレてたねぇ!
前世の陸上の知見を「物流の最適化」に転用するなんて、さすがはメッキーの選んだ
プロだちゅ。
ジッジーの「見えない警護」もあって、お店の守りは鉄壁!
……と思いきや、今度は「関税」という法律の壁が立ちはだかる!?
さて、第10話はいよいよ「マリアン食堂」のプレオープン! でも、その前にこの難問を
解いてみてちょうだい!
システム(閻魔)からの出題【Q9:ウサミチの物流哲学】
ウサミチがデリバリーにおいて最も恐れている「物流の死」とは、次のうちどれかな?
① 荷物が魔物に食べられること
② 届いた瞬間に料理が冷めている「鮮度ロス」
③ 配送ルートで迷子になること
「ヒントは、彼がストップウォッチを片時も離さない理由にあるよ。
大将なら、プロのこだわりが分かるよねぇ?」
さあ、あんたたち! 物理の壁も法律の壁も、美味いメシでぶち壊すために、
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あんたたちの応援が、ウサミチの脚をさらに加速させるんだからね!




