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『転生国物語 〜下町中華のおばちゃん、丸虫から人類の始祖(オカン)になる〜』全48話  作者: 稲盛 皆藤
第1章:爆走・丸虫食堂編

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第5話 不眠不休の糸使い(スパイダー)と、黄金の肉汁

 いらっしゃい! 荒野の青空食堂『(あん)』へようこそ!

 まずは前回のクイズの答え合わせからいこうかね。

 孤独だったミクちゃんの心を溶かした「音」は、


 ②の「氷を削る音と果実を刻むリズム」だったよ。


 自分を必要としてくれる誰かが立てる包丁の音……それが、あの子にとっては

何よりの応援歌だったのさ。

 さて、店も賑やかになってきたけど、客が増えるってことは注文をさばく「手」

が必要になる。

 今日は、荒野のど真ん中でネットも繋がらないのに、必死で「糸」を繋ぎ直そう

とした、一匹のクモの話をしようかね。

 画面の向こう側で心を削り、ついに「0点」と判定されちまった男の、再起動(リブート)の物語さ。

 現世におけるシュンの人生は、10インチの四角い窓から漏れる、冷たい青色の

光の中にあった。

 32歳。職業、バックエンド・エンジニア。

 彼の世界は、静寂と、カタカタと鳴り続けるキーボードの打鍵音、ファンが

吐き出す乾いた排気、そしてカフェインが飽和したエナジードリンクの金属味

だけで構成されていた。


「……あと、300行。これをマージすれば、今夜のデバッグは終わる」


 午前3時。静まり返ったオフィスで、彼は独り、文字列(コード)の海を泳いでいた。

 彼が書いたプログラムは、日本中の物流を動かし、何百万という注文を瞬時に捌く。

 だが、そのシステムを利用する人間たちの「顔」を、彼は一度も見たことがなかった。

 シュンにとって、世界とは論理(ロジック)の集積であり、感情はエラー(バグ)に

過ぎなかったのだ。


 食事は、片手で流し込めるゼリー飲料のみ。会話は、チャットツールでの業務連絡のみ。

 最後に誰かと目を合わせたのは、いつだったか。

 最後に誰かが作った「温かいもの」を口にしたのは、いつだったか。

 彼の心は、いつの間にか乾燥しきったシリコンのように、熱を失っていた。

 彼が構築するシステムは完璧だった。無駄がなく、効率的で、決して止まらない。

 しかし、その美しさは孤独そのものだった。

 画面に並ぶ美しいコードの羅列は、彼にとって世界のすべてだったが、その裏側にある

「生活の温度」を彼は知らない。


「……保存(Ctrl+S)。これで、いい……」


 その瞬間、胸の奥が、ショートした回路のように火花を散らした。

 視界がホワイトアウトする。倒れゆく意識の中で彼が見たのは、自分の部屋の天井

ではない。

 完成させた美しいプログラムが、主を失った後も何事もなかったかのように物流を

動かし続け、彼という存在を瞬時に「欠番」として処理していく、冷徹なログ画面だった。


 ≫≫ [CRITICAL_ERROR] -------------------------

【 転生判定結果:0点(NULL_VALUE) 】

 ■ 理由コード:

 貴公が構築した文字列(システム)に『体温』は検知されず、

 貴公の32年間のログに『他者との交流』は記録されていない。

 ■ 処置:

 実社会から孤立した「欠番」と定義。

 存在のリファクタリング(再デバッグ)を強制執行する。

 ------------------------- [LOG_CLOSED] ≪≪



 次に目が覚めた時、シュンの視界は、赤茶けた土の広がる荒野を捉えていた。

 しかも、視点が異常に低い。おまけに視界が多角的に割れている。


「……なんだ、これは。

 視覚情報の解像度が……多角的に……?」


 彼が動かそうとした足は、二本ではなく八本あった。

 銀色の硬質な毛に覆われた、鋭い節足。種族、工匠(アーキテクト)蜘蛛(スパイダー)

 シュンは即座に「適応」を選択した。

 彼にとって身体が蜘蛛になることは、新しいOSをインストールすることと大差なかったのだ。


 彼は本能に抗い、蜘蛛の巣を「罠」ではなく「広域振動感知回路」として構築し始めた。

 荒野の街道を塞ぐように、一本一本に「効率化」のロジックを叩き込んだ銀色の格子を

編み上げる。

 風の強さ、獲物の重さ、大気の湿度。すべてを0と1の信号に変換し、脳内で管理する。

 彼は蜘蛛になってまで、ひとりぼっちで「完璧なシステム」を組もうとしていた。


 不眠不休で糸を紡ぎ続けること数日。

 彼の銀色の回路が、かつてない「巨大な質量」と「圧倒的な熱量」を感知した。


「……バグだ。

 計算にない、巨大な熱源が接近している」


 それは、地響きと共に荒野を爆走する一台の屋台、爆走食堂『(あん)』だった。


 シュンの複眼が、その屋台をスキャンする。


(……異常だ。あの構造体、外見は廃材の寄せ集めだが、

 内部の気密性が極限まで高められている。熱損失がゼロに近い……いや、それだけじゃない)


 屋台の上空を舞うハーピー、エルザが放つ青白い魔力が、屋台を球状に包み込んでいた。


(……高密度の滅菌結界。外部の砂塵や細菌を100%遮断している。

 かつて、この店が「汚い」と酷評された過去があるというログが、

 エルザの殺気だった魔力から読み取れる。

 ……その反動か。今のこの屋台は、地上で最も清潔な「爆走する無菌室」

 として最適化されている……!)


 キキィィィィィッ!!

 銀色の網の寸前で停止した屋台から、エプロン姿の丸虫――マリアンが飛び出す。


「あっぶねー、もう少しで罠に引っかかっちまうところだったよ。

 おやおや、よく見れば綺麗な網だねぇ!

 でも、こんなところで店開きされたら通りにくいじゃないか!」


「……退いてください。あなた何者ですか?

 これは僕の……完璧なドメインだ。

 不純な熱量は、システムの精度を下げます……」


「理屈はいいから、まずはこれを食べな。

 アンタの編んでるその糸は、ちっとも美味しそうじゃないよ!」


 マリアンの40本の足が、爆速で動く。鉄板に油が弾ける、野太い音。

 今日のメニューは、スタミナ抜群の『ジャンボ焼き餃子』だ。

 わーしは、焼き立ての、火傷しそうなほど熱い一皿を、シュンの網の上へダイレクトに

置いた。

 シュンは、震える足で餃子を掴んだ。

 一口噛んだ瞬間、カリッとした皮の中から、熱々のスープが噴き出した。


「……あ……っ、つ……っ!?」


 熱い。痛いほどに、熱い。だが、その熱さと共に、濃厚な肉の旨味とニラの香りが、

彼の凍りついていた感覚を強制的に呼び覚ましていく。

 前世で飲んでいた冷たいゼリー飲料とは正反対の、喉を焼くような「生」の温度。


「……美味しい。

 ……僕のコードには、こんな……『熱』はなかった……」


 涙を流すシュンに、わーしは高笑いしながら提案した。


「おほほ! あんた、その便利な糸で、わーしの店を手伝いな!

 客は荒野のあちこちに潜んでるんだよ!」


 シュンは複眼を輝かせた。


「……僕一人ではリソースが足りませんが、

 野良蜘蛛たちを『エッジデバイス』として同期させれば

 ……広域ネットワークが構築できます」


 わーしが調理場で余りまくっていた試作餃子を、山盛りに荒野へぶちまけた。


 刹那――砂塵の彼方から、数千、数万の『サワサワ』という草木が擦れるような音と、

混じり合う『カサカサ』という乾いた足音が荒野を埋め尽くした。

 ……壮観だねぇ。見渡す限りの銀色の海だよ。

 最初は威嚇していた蜘蛛たちも、鼻をくすぐる餃子の肉汁の香りに、牙を鳴らして涎を垂らす。


「食え食え! 今日は食い放題だよ!」


 わーしの号令とともに、荒野の蜘蛛軍団が一斉に餃子へとダイブする。

 ……シュールだ。完璧に、シュールだよ。

 銀色の蜘蛛たちが、人間みたいに必死で皮を割って肉汁を啜っている。


 その中に一匹、周囲とは一線を画す「真っ白な蜘蛛」がいた。

 他がガツガツ食う中、そいつだけは餃子を『鑑定』するようにじっと見つめ、

次の瞬間――凄まじいキレのダンスを披露した。


 (……美味い! この皮の弾力、この肉汁の粘度、完璧なバランサーだ!)


 とでも言いたげな自己主張の激しい白い蜘蛛。

 こいつ、どうやら『一番乗り』の権利をダンスで主張しているらしい。


 食い終わった蜘蛛たちが、一斉にシュンの足元へ膝をつく(蜘蛛だけど)。

 シュンはその光景を見ながら、淡々と銀色の波長を放射する。


「……個体識別番号(ID)を付与。

 胃袋に『杏』の成分を検知。

 ……これより、すべての蜘蛛を当店の『末端配送ノード』として統合します。

 ……半径5キロ以内の空腹反応をスキャン。

 すべての注文、待機状態に入りました」



 だが、その直後。サトルが抱えていた魔力板(ダッシュボード)が、激しく点滅して

煙を吹いた。


「くっ……! 店主、ダメだ!

 注文の流入量が多すぎて、処理が追いつかない!

 UIがフリーズした!」


 CEOとして理想を詰め込みすぎたサトルのプログラムは、現場の膨大すぎる

データ負荷に耐えられなかったのだ。

 それを見たシュンが、八本の足でキーボードを叩くような速さでサトルの背後に回る。


「……退いてください。

 経営層の考える『理想』は、現場の『実測値』には勝てません」


「なんだと? これは私が最高級の魔導回路を……」


「無駄なオブジェクトが多すぎます。リファクタリングが必要です」


 シュンは糸を魔力板(ダッシュボード)に直接接続した。

 銀色の糸が回路を駆け巡り、スパゲッティ状態だった命令文を一瞬で書き換えていく。


「……UIを軽量化。不要なエフェクトを削除。

 ……店主の『勘』を、優先度高の特権プロセスに昇格」


 次の瞬間、画面は劇的に整理され、わーしが次に何を焼くべきかが、直感的な矢印

となって空中にホログラム投影された。


「……おほほ! なんだいこれ、

 体が勝手に動くくらい分かりやすいじゃないか!」


 それを見たペンジが、巨体を揺らして笑う。


「ガハハ! 自分の研ぎ澄ました包丁の動きまで、

 この『矢印』が先読みしとるわ!

 職人の阿吽の呼吸をコードにするとは、ええ腕やな、クモ坊!」


 空からはエルザが厳しい声を飛ばす。


「シュン、その糸に付着した有機物、0.3秒以内に分解しなさい!

 データのクリーンアップと厨房のクリーンアップは同義よ!」


「……了解しました、衛生管理責任者。

 滅菌プロトコル、常時実行します」


 看板娘のミクも、虹色に光りながら跳ねる。


「すごーい! 私のダンスのタイミングまで最適化されてる!

  これで現世のサイリウムの波も完璧に捌けるね!」


 シュンは少しだけ照れくさそうに、複眼を逸らした。


「……あなたの料理が、一番温かいうちに客へ届く。

 ……そのための、バックエンド・サポートです」


 最強の「ロジック」と「ネットワーク」を手に入れた屋台は、さらに加速して荒野を突き進む。

 シュンちゃんが来てから、屋台の効率が爆上がりだよ!

 あんなに不気味だった蜘蛛たちも、今じゃ立派な「配達員」さ。

 一匹、真っ白で変な踊りをしてる子が混ざってるけど……まあ、よく働くから良しと

しようかね!

 さて、ここであんたたちに問題だよ。


【システム(閻魔)からの挑戦状:Q5】

 荒野に群がった数千の蜘蛛の中に混ざっていた、異質な「真っ白な蜘蛛」。

 彼女(?)の正体……その「異世界あるある」的な推測として、最もニヤリと

できる選択肢はどれだい?


 ① この荒野の管理者(閻魔)が派遣した、

  料理の味を詳細にレポートするために送り込まれた『潜入捜査官スパイ』。

 ② シュンが構築したシステムにバグが混入し、

  料理への執着をパラメータとして暴走した『自己進化したデバッグ・プログラム』。

 ③ 「蜘蛛ですが、何か?」と問いかけたくなるような、

  前世の記憶を色濃く残した『高難易度・転生者』。


【おばちゃんからのヒント】

 あの子のダンス、どう見ても「スキル」を使ってる動きだよねぇ……。

あんたたちの「推し」がどれなのか、コメント欄で教えておくれよ!


【おばちゃんからのお願い】

 ダッシュボードの改修が見事だと思ったなら、

その指で『ブックマーク』と『★評価』をポチポチっと叩いておくれ!

あんたたちの「1クリック」が、この爆速屋台のニトロになるんだからね。

よろしく頼んだよ!

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