第40話 飢えた魔王軍! 剣を包丁に! 魔界巨獣の豪快中華風ちゃんこ鍋!
まいど! Q39の正解は「① 魔法の力で大根の分子構造を無理やり広げた」からの、おばちゃんの究極能力【概念調理】による上書きコンボだったねぇ!
忙しいお母さんの「冷凍大根」の知恵も素晴らしいけれど、世界の理を味付けし直すおばちゃんの魔法にかかれば、大容量の大根が一瞬で旨味の塊に変わっちまうのさね。
さて、黒鉄鉱山からの資源ルートを確保してモールの骨組みは完璧になったけれど、今度は「安全保障」の問題さね。
管理都市のシステムに食料供給を止められ、飢えに狂った魔王軍のレスラー級の猛者たちが、ウチの国を狙って進軍してきたんだよ。
武器を構える強者たちを前に、今日はどんな料理ができるかな?
【♪ どすこい大殺陣(重厚な和太鼓の地響きに、エレキギターの激しい歪みが絡み合う、お祭り騒ぎの和風ロック) ♪】
「……地政学的リスクが極限まで跳ね上がってるだちゅ! このままだとウチの国は、物理的にペチャンコにされちゃうだちゅよ!」
メガロモールステーツ二階、中央モール事務所。
ネズミ獣人のメッキーが、血走った目で魔導板の魔力波形モニタを力いっぱい叩いていた。画面に表示された真っ赤な警告アラートが、ビーッ、ビーッとけたたましい音を立てて事務所内に鳴り響いている。
彼の尻尾は恐怖でピーンと直立し、普段はピンと張っているヒゲもブルブルと震えていた。
「どうしたんすか、メッキーさん。せっかく黒鉄鉱山からの鉄鉱石ルートが繋がって、ミノさんの拡張工事もノリノリだってのに。またシステムが何か嫌がらせでも仕掛けてきたんすか?」
元IT社長のゴブリン、サトルが、お気に入りのマグカップになみなみと注がれたコーヒーをすすりながら首を傾げる。バウの農園で採れた豆の香りが、緊迫した空気をわずかに和らげていた。
しかし、メッキーの言葉を聞いた瞬間、サトルの緑色の肌からサァッと血の気が引いた。
「これを見るだちゅ! モールの南方に、とんでもない密度の魔力反応が集結しつつあるだちゅよ。……魔王軍の主力軍団『魁皇大嶽師団』だちゅ! 奴ら、まっすぐこのメガロモールステーツを目指して進軍してきてるだちゅ!」
「……魔王軍っすか!? 冗談キツいっすよ!」
サトルが椅子から跳び起き、コーヒーをこぼしそうになりながら魔導板を奪い取るように見つめた。
画面には、赤く不吉な輝きを放つ数万のドットが、怒涛の勢いでこちらへ迫ってくる様子がはっきりと映し出されていた。その一つ一つのドットが放つ魔力量は、そこら辺の野盗や魔物とは次元が違う。
「……システムの奴ら、ウチへの対抗措置として、ついに武力行使に出たってことっすか。でも、なんで魔王軍が? 奴らも管理都市にポイントを管理されてるはずじゃ……」
「システムはウチを直接叩くのではなく、魔王軍への食料配給を完全に遮断したんだちゅ。」
メッキーは身振り手振りを交えながら続ける。
「あっちの兵士たちは、前世で言えば命懸けで戦うアスリート並みの大食漢ばかり。飢え死にする前に、最も物資が豊富だと噂されているウチを略奪しにくる腹積もりだちゅよ!」
サトルの冷静な分析に、事務所の空気が一気に凍りついた。
魔王軍の猛者たち。それはオークやトロールの巨漢の中でも、一騎当千の戦闘能力を持つレスラー級の怪物たちだ。まともに激突すれば、自警団を立ち上げたばかりのこのモールが、ひとたまりもなく血の海に沈みかねない。
「……フム。システムによる安全保障の意図的な崩壊、すなわち『飢餓誘発プロトコル』か。自分たちは手を下さず、飢えた猛獣をけしかけて潰し合いをさせる。実に陰湿で冷酷なマニュアルだな」
警備室からインカムを通じて、猫獣人のジッジーの渋い声が響いた。彼の声にも、かつてない緊張感が滲んでいる。
「迎撃は不可能ではないが、こちらの防犯シールドにも限界がある。長期戦になれば、モールの各テナントや、ようやく笑顔を取り戻した子供たちにも深刻な影響が出るだろう。サトル、どう動く?」
バァァァンッ!!
重厚な雰囲気漂う応接室の、金色装飾のドアが、勢いよく開け放たれた。
「だったらさ、戦う前に腹いっぱい食わせて、戦う気を無くさせちまえばいいじゃないのさ!」
背中に神々しい黄金の後光を背負い、ふっくらとした聖母の姿となった第四形態【慈愛の始祖】のマリアンが、愛用の巨大な金属製のお玉を肩に担いで仁王立ちしていた。純白のエプロンは、これから始まる「大戦」に向けてビシッとアイロンがけされている。
「マ、大女将……! でも相手は魔王軍っすよ!? まともに会話が通じる相手じゃ……」
「お腹を空かせた魔王軍だって? いいじゃないの。汗を流して体を張る力士みたいな連中だろ。そんなはらぺこ共を、おばちゃんが放っておけるわけないじゃないか! 神崎さん、もうスープの仕込みは始まってるかい?」
「御意、大女将。すでに最高の状態に仕上げております」
マリアンの背後から、白い割烹着の袖をキリリとまくり上げた元・宮廷料理長、神崎玲二が静かに一歩を踏み出した。
かつてシステムの洗脳によって味覚と誇りを奪われかけていた彼は、マリアンのラーメンによって魂を救われ、ついにこの厨房へと完全復帰を果たしたのだ。その瞳には「料理の神」と呼ばれた頃の鋭い眼光と、熱い料理人魂が赤々と燃え上がっていた。
「サトル、メッキー! 倉庫にある魔界巨獣の肉と、コボルトたちが循環農業で育ててくれた極上のシイタケ、白菜、根菜をありったけ運び出しな!」
マリアンがお玉を振りかざし、高らかに号令をかける。
「今日は南門前の広大なトラックヤードに、ミノさんの特製コンロを並べて、世界一巨大な『中華風ちゃんこ鍋』を仕込むよ!」
「ちゃんこ鍋……っすか!? 力士が食べる、あの栄養と旨味の塊っすね!」
「そうさ! 剣を包丁に持ち替えさせて、はらぺこ共を全員ウチの常連に引き入れてやるさね!」
メガロモールステーツの南門。元一級建築士のミノが、黒鉄鉱山の鉄を使って鉄の意志で造り上げた『絶対防壁』の前に、地響きと共にその軍団は姿を現した。
身長三メートルを超える巨漢ばかりで構成された『魁皇大嶽師団』。
先頭に立つのは、魔王軍の横綱と恐れられる巨漢オーク、ガノン・ドスコイだ。筋肉の鎧に覆われた彼の巨躯は、一歩歩くごとに大地を揺らしている。しかし、その背後に続く数千の兵士たち共々、彼らの顔には生気がなかった。
飢えで理性を失いかけ、ギラギラとした死んだ目で、ただ本能のままに重厚な武器を引きずっている。
「……おい。この防壁の向こうに、美味い飯の匂いと、膨大な物資が眠っているんだな」
ガノン・ドスコイが、ひび割れた唇から血を滲ませながら低く唸った。
「システムにポイントを止められ、ゴミのように捨てられた俺たちが生き残るには、ここを奪うしかない! どんな手を使っても、門をぶち破って食料を根こそぎ奪い取れぇぇっ!!」
「待ちな、はらぺこ共!」
ガノンの悲痛な咆哮を遮るように、可動式防壁の上から凛とした快活な声が響き渡った。
黄金の光を背負ったマリアンが、巨大なお玉をビシッと魔王軍の軍勢に向けて突き立てる。
「武器を振り回す前に、これを見てからにしな! わーしらの国じゃ、飯を食うのに血を流す必要なんてないんだよ!」
ゴゴゴゴゴ……ッ!!
防壁の門が重々しい音を立てて開き、そこから何台もの巨大な台車に乗せられて、南門前の広大なトラックヤードに運び出されたのは、ミノの土建ギルドが突貫工事で鋳造した、直径十メートルはあろうかという超特大の『魔導鋳鉄石鍋』だった。
その巨大な鍋の中では、神崎玲二が付きっきりでアクを取り続け、魔界巨鳥の大量の鶏ガラを強火で限界まで乳化させた、濁りなき濃厚白湯スープが、マグマのようにボコボコと沸き立っている。
「さあて、本番の仕込みはここからさね!」
マリアンの持つお玉から、神聖な黄金の魔力光が溢れ出す。
≪♪ ピキィィィィン! 荘厳にして不可侵な『天の声』が響き渡る ♪≫
『 告。究極能力【概念調理】起動。
――対象:お鍋。定義を「単なる食事」から「すべての種族の闘争を融和させる平和のスープ」へ書き換え 』
ジュワァァァァァァァッッッ!!!
神崎玲二の神業とも言える超高速の包丁さばきで刻まれた『慈愛の肉厚シイタケ』と、新鮮な大量の白菜、そして魔界巨獣の霜降り肉が、沸き立つスープの中へと一気に投入された。
さらに神崎は、巨大なボウルに入ったひき肉の餡を取り出した。豚と鶏の合い挽き肉に、食感のアクセントとなる砕いた軟骨、すりおろした生姜、そしてごま油と秘伝の中華スパイスが練り込まれた特製の肉餡だ。
彼は目にも留まらぬ手際でお玉を使い、一口サイズの特大肉団子を次々と丸めては、沸騰するスープへ放り込んでいく。
トントン、ポン、ポン、ポチャンッ!!!
巨獣の肉から溶け出す上質な脂の甘み、すりおろし生姜の清涼感、そして鶏の命そのものが溶け出した濃厚なスープの香りが、風に乗って魔王軍の鼻腔を暴力的に突き刺した。
それは、空腹の限界を迎えている者にとっては、どんな強力な魔法よりも抗いがたい、致死量の『飯テロ』だった。
「ぐ、グォォォッ!? なんだ、この匂いは……! 胃袋が、魂が、ちぎれそうなほど訴えかけてくる!」
ガノン・ドスコイが、自慢の巨体をガタガタと震わせ、握りしめていた巨大な戦斧を思わず地面に取り落とした。
システムにポイントを絞られ、味のしない合成栄養ブロックだけで胃袋を誤魔化してきた彼らの本能が、この香りを嗅いだ瞬間に完全に限界を迎えていた。武器を構える腕の力など、もう一ミリも残っていなかった。
「ほら、突っ立ってないで、あんたらも器を持って並びなさい! わーしらの国じゃ、はらぺこを飢えさせたまま帰すような野暮な真似は、絶対にさせないからねぇ!」
マリアンが豪快に笑い、特大のお玉を振るう。
白濁した熱々のスープと、ホロホロになるまで煮込まれた巨獣の肉、ふっくらとスープの旨味を限界まで吸い込んだ極厚のシイタケ、そして旨味の塊であるジューシーなつくねが、最高の状態でスタンバイされていた。
「待て!おめーら!毒見がまだだ!!!」
我先に食い物に群がる巨漢の魔王軍兵士たちをガノンは一喝した。
ガノンは震える両手で、自身の背中から巨大な木彫りの盾を外し、顔を埋めるようにしてスープを一口すすった。
ズズッ、ズルルルルッ……!
「…………っっっ!!!!」
言葉にならない衝撃が、魔王軍の横綱の巨躯を激しく揺さぶった。ガノンの瞳孔がカッと開き、全身の筋肉が歓喜に粟立つ。
「……美味い。美味すぎる……ッ! スープの濃厚なコクと生姜のキレが、冷え切った内臓をカッと熱く燃やしやがる!」
ガノンは熱々のつくねを頬張りながら続ける。
「このつくね、噛んだ瞬間に中から鶏とスパイスの肉汁が爆発しやがるぞ! シイタケは全ての旨味を吸い込んだ黄金のスポンジだ!」
ガノンは泣いていた。
かつて前世の地球で、死に物狂いで土俵に上がり、勝敗の数字(白星)だけを求められていた日々。怪我を抱えながらも、孤独にプロテインと味のしない減量食を喉に押し込んでいた過酷な記憶が蘇る。
(……俺はただ、強くなるためだけに心を殺していた。勝たなければ飯が食えない。システムに管理される今も、あの頃と同じだ……。だけど……!)
彼の冷え切った魂の奥底へ、マリアンの作った温かいちゃんこ鍋が、血流となってドクドクと流れ込んでいく。誰かと争うためではない、誰かを笑顔にするために作られた「お袋の味」。
「ごっつぁんです……! ごっつぁんです、大女将……っ!!」
魔王軍の横綱が、子供のように大粒の涙をボロボロと流し、巨大な盾を抱えて大声で泣きじゃくった。
「よし、いいぞ、おめーらも食え!」
『待て』を食らって我慢していた兵士たちが、手に持っていた巨大な木彫りの盾をお椀代わりに、次々と料理人たちに差し出し、滝のように豪快に盛り付けていく。
「「「「ごっつぁんです!!! マザー・マリアン!!!」」」」
数千人の飢えた巨漢の兵士たちが、次々と武器を投げ捨てた。
彼らは泣き叫びながら、咽び泣きながら、巨大なちゃんこ鍋を囲んで狂ったように貪り食う。死んでいた彼らの瞳に、温かい命の灯火が、そして「いただきます」という感謝の炎が赤々と宿っていくのが見えた。
「俺たち……ただ戦うためだけの道具として、数字のためだけにシステムに管理されてきた……! なのに、こんなに温かくて、美味い飯を……腹いっぱい食わせてくれるなんて……!」
「ガハハ! 美味いだろ! 遠慮せずにガッツリ食いな! その熱いちゃんこは、あんたたちの明日の誇りさね!」
マリアンがお玉を天高く掲げると、城壁の上でモニタリングしていたサトルの魔導板のグラフが、あり得ない角度で天を突いた。
「サトル社長! 現世からの『ブクマ』と『評価(☆)』のシンクロバフが再び臨界点を突破してるだちゅ! 魔王軍の安全保障加盟、完了だちゅよ!」
「最高っすね、メッキーさん! システムの軍事封鎖、たった一皿……いや、一鍋のちゃんこで完全連結っす!」
サトルとメッキーがハイタッチを交わす。
その眼下で、ガノンは涙と油で顔をぐしゃぐしゃにしながら乱暴に顔を拭うと、マリアンの前に両膝をつき、深く頭を下げた。
「マザー・マリアン。俺たちの世界最強の武力、今日からあんたの国の『最強の剣』として使ってくれ!盾はお皿になっちまったからな。ガハハハハ!」
ガノンの声には、かつての覇気と、新たな主への絶対の忠誠が込められていた。
「システムのクソみたいなルールなんか知るか! 俺たちの『いただきます』は、このちゃんこ鍋の味だ!」
メガロモールステーツの南門に、今、魔王軍との「給食和平条約」が締結された。
最強の武力を『連結』した人情のショッピングモール国家は、システムの脅威を撥ね退ける、不沈の絶対障壁を手に入れたのだった。
最後まで読んでくれてありがとねぇ!
魔王軍の男たち、見てて気持ちがいいくらいの「ごっつぁん」っぷりだったねぇ。
管理都市の連中は「戦うためだけにポイントを稼げ」なんて冷たいこと言うけど、お腹を空かせた猛者たちに必要なのは、数字の白星じゃなくて、みんなで笑顔で囲む「温かいちゃんこ鍋」さね!
これで魔王軍もウチの『常連』、最強の家族(自警団の剣)になってくれたよ。
さて、安全保障もバッチリ固まったウチの国だけど、次なる変革は「自由貿易」さね!
メッキーちゃんが前世から夢見ていた、関税のない『ゼロ関税の翼』を広げにいくよ!
システム(閻魔)からの出題【Q40:ちゃんこ鍋の旨味の秘密】
今回、マリアンと復帰した神崎さんが、魔王軍を胃袋から懐柔した『豪快中華風ちゃんこ鍋』。そのスープの旨味を極限まで引き出すために、神崎玲二が付きっきりで施した「中華の基本(下処理)」は何だったかな?
① 鶏ガラを事前に油通しして、余分な臭みを完全に焼き飛ばした
② スープが白濁するまで強火で炊き出しつつ、雑味が出ないよう徹底的に『アク』を取り続けた
③ 魔法の調味料『味の素風パウダー』を、隠し味として大さじ十杯投入した
「ヒントはねぇ、かつて神崎さんが特製ワンタン麺でも見せてくれた、職人の『付きっきりでの徹底した手間暇』さね。
さあ、あんた達ならもう、どれが本当の正解かバッチリ分かってるよねぇ?
応援の評価☆☆☆☆☆とブックマークのバフ、今日も全開でよろしく頼むよ! おかわり、特盛りのつくねも追加して待ってるからね!」




