第37話:経済の波濤と始祖のまかない! 謎の結晶と新事業の種!
まいど! Q36の正解は「② 概念調理」だねぇ!
世界の理を「いただきます」の精神で煮込み直す、わーしの究極の権能さね。
さて、ド派手に宣戦布告しちまった無限連結国家群だけど、案の定、システムの親玉が黙っちゃいないよ。
管理都市からの物流は完全停止。ポイント決済も凍結。まさに「経済の兵糧攻め」さね。
でもね、うちらの辞書に「屈服」なんて文字はないんだよ。
今日は、絶望的な封鎖を「希望の味」に変える、新しい戦いの始まり!
さあて、冷え切った魔界の経済も、わーしの鉄鍋でアッツアツに熱してやろうかねぇ!
【♪ 黎明のファンファーレ(勇壮なストリングスが新たな時代の幕開けを告げる、希望に満ちたオーケストラ) ♪】
『警告。対象エリア「メガロモールステーツ」への全物理ゲートを封鎖しました』
『警告。対象エリアとの全通信パケット、およびポイント決済ネットワークの切断を完了。対象エリアを経済圏から【完全除外】しました』
無機質で冷酷なシステムのアナウンスが、無限連結国家群の灰色の空に木霊する。
同時に、上空を取り囲んでいた数千の漆黒のドローンが、一斉に赤い光学兵器の照準をモールへと向けた。
威嚇ではない。一歩でも外へ出れば、文字通り塵一つ残さず消滅させるという絶対的な意思表示だった。
無限連結国家群二階、中央モール事務所。
かつては活気に満ちていたこの場所は今、一面の赤紫色のエマージェンシー・アラートに染まり、けたたましい警告音が鳴り響いていた。
「……ダメっす。完全にやられたっす。管理都市側との全ゲートが物理的にロックされました。それどころか、あっちのポイントシステムからウチの経済圏が完全に切断されたっす!」
ゴブリンの姿をした元IT社長のサトルが、パチパチと音を立てて火花を散らす魔導板を前に、普段から青っぽい顔をさらに青くして叫んだ。
彼の目の前に展開されたホログラムモニターには、広大な魔界の地図が映し出されている。しかし、メガロモールステーツを中心とした一帯だけが、まるで虫食いのように真っ黒に塗り潰され、その周囲を真っ赤な「遮断ライン」が幾重にも覆い尽くしていく絶望的な光景が広がっていた。
「ちゅ、ちゅわああああああっ! こんなのあり得ないだちゅ! 商社マンだった僕の勘が、これは単なる通信障害じゃないって、全力で危険信号を出してるだちゅ! システムの親玉が、本気でウチを『無かったこと』にしようとしてるだちゅよ!」
ネズミ獣人であるメッキーが、自身の長い髭を恐怖でビリビリと震わせながら、An-Padの在庫データを弾き飛ばすように操作する。
画面に表示される数字は、どれも絶望的なものばかりだった。
「見てほしいだちゅ! 管理都市側からの高級食材、燃料、そして生活物資の供給が完全にゼロになっただちゅ! うちは今、数万人というスラムからの避難民を抱え込んでいる状態だちゅよ!? このままだと、彼らの胃袋を支える『セントラルキッチン』の備蓄すら、一週間で完全に底を突くだちゅ……!」
メッキーの悲痛な叫びが、事務所内に重く響く。
数万人。その数字の重みが、サトルの肩に重くのしかかった。
前回の決戦で、マリアンの究極能力によって物理的な「削除」は免れた。しかし、システムはすぐさま次の一手を打ってきたのだ。
それは、武力による制圧ではなく、古典的な「兵糧攻め」という最も陰湿で、最も確実な国家への死刑宣告だった。
「フム。我が自警団が構築した防犯プロトコルによれば、外壁周辺にはすでに管理都市の『執行ドローン』が数千機、すき間なく展開している。アリ一匹、外へ出入りさせるつもりはないようだな」
窓際に立つ猫獣人のジッジーが、愛用のパイプをギリリと噛み締めながら、忌々しげに外の景色を睨みつけた。
彼の鋭い眼光の先には、モールをドーム状に囲む半透明のエネルギーフィールドと、その外側で不気味に滞空する無数のドローン群が見える。
「物理的な攻撃なら、俺たち冒険者ギルドが体を張って押し返せる。だが……経済と物流を絶たれるというのは、真綿で首を絞められるのと同じだ。……なんと卑劣な真似を」
腕組みをしたジッジーの尻尾が、怒りでバシン、バシンと床を叩いている。
事務所内は、かつてない重苦しい沈黙と焦燥に支配されていた。
巨大な火鍋でシステムの理を煮崩し、独立国家を宣言するという最高のカタルシス。その直後に待っていたのは、世界からの完全な「孤立」という、冷酷すぎる現実だった。
金もない、物資もない、助けを呼ぶ通信網すらない。
このままでは、マリアンが命懸けで救った家族たちが、飢えと絶望の中で共倒れになってしまう。サトルは唇を噛み切り、悔しさに拳を強く握りしめた。
「……サトル社長。皆さんに、一つ提案があります」
重苦しい静寂を破ったのは、これまで黙々と端末に向かっていた、情報統括を担うシュンだった。
インフラを統括する『コア・ルーター』としての進化により、八つへと増殖した複眼を血走らせながら、彼は自らの背中から伸びる無数の光の糸を、中央サーバーに直接接続し続けている。
「提案? シュン、こんな四面楚歌の状況で、何か打つ手があるっていうんっすか!?」
サトルが藁にもすがる思いで身を乗り出す。
「はい。現在、システムは我々を外部から完全に遮断していますが、それは裏を返せば、彼ら自身が『強固な壁』を構築するために、莫大なリソースをこの境界線に集中させているということです。システムの干渉を逆手に取り、管理都市のネットワークそのものに『ノイズ』を紛れ込ませることは論理的に可能です。……しかし、それには膨大な計算資源と、システムの中枢に直接干渉できるだけの強力な『鍵』が必要です」
シュンの冷静な分析に、サトルは再び肩を落とした。
「鍵って……そんな都合のいいものが、この隔離されたモールの中にあるわけ……」
「またんかい、われー、その鍵やったら、ここにあるで!!」
ダアァァァンッ!!
サトルの言葉を遮るように、事務所の頑丈な扉が蹴り開けられた。
ドシン、ドシンと地響きのような重厚な足音を立てて入ってきたのは、ドワーフたちを束ねるオークの鍛冶師、ペンジだった。
彼の極太の腕には、煤で汚れきった重機用の台車が握られている。
「ペ、ペンジさん!? なんだそのバカでかい台車は……って、うおっ!?」
サトルが台車の中央を見て、素っ頓狂な声を上げた。
台車の上に鎮座していたのは、メロンほどの大きさがある、多面体の結晶だった。
それは淡く、しかし不気味なほどに強く脈打つように発光しており、周囲の空気を歪ませるほどの高密度の魔力を放っている。
「前回の決戦でな、マリアンの女将さんがぶっ飛ばした漆黒の魔導ドローンがあったやろ? アレの残骸の中に、ひときわヤバい魔力を放ってるコアが転がっとったんや。東大阪で培ったワイの職人の勘がビンビンに反応してな、こっそり懐に入れて持ち帰ったんやで」
ペンジが自慢げに鼻を鳴らし、巨大な結晶をポンポンと叩く。
「これ、閻魔の奴らが全ドローンを制御し、通信の要にしてた超高純度のパーツや。名付けるなら『中枢結晶』ってとこやな。ワイの解析によれば、こいつの中にはシステム本局と直接繋がるバックドアの痕跡が残っとる。これにシュンの光の糸を直接ブチ込んで、サトルのダッシュボードの演算能力をフル回転させれば……魔界のポイント制そのものを、ウチらの『人情』で上書きできる、新しい回路が造れるはずや!」
ペンジの熱弁に、シュンの八つの複眼が驚愕に見開かれた。
「……信じられません。システムの最重要機密である制御コアを、物理的に引っこ抜いてきたというのですか。ですが……これなら、いけます。この結晶をゲートウェイとして利用すれば、システムのファイアウォールを内側から突破できる確率が、飛躍的に上昇します!」
「それっす! その結晶があれば、システムの理を物理的にハックできる……! ペンジさん、あんたマジで神、いや最高の職人っすよ!」
サトルの目に、元IT社長としての野心的な光が再び猛烈な勢いで灯った。
絶望の淵に立たされていた彼らの前に、一筋の光明が差し込んだ瞬間だった。
しかし、彼らの熱狂に水を差すように、ぐうぅぅぅぅ……という間の抜けた音が事務所に響き渡った。
音の出処は、サトル、メッキー、そしてシュンの腹の虫だった。安心したせいだろうか。
徹夜での防衛作業がたたり、彼らの体力と気力はすでに限界を突破していたのだ。
「あわわ……い、いけると思った途端に、急にお腹が減ってきただちゅ……」
「頭脳労働は糖分を消費しますからね……。思考速度が低下しています」
「はいはいはい! どんなに素晴らしいアイディアも、お腹が空いてちゃ『煮詰まらない』さね!」
バァァァンッ!!
応接室に通じる金色の装飾が施されたドアが、勢いよく開け放たれた。
その場にいた全員が、弾かれたように扉の方を振り向く。
そこに立っていたのは、神々しい後光を背負い、ふっくらとした慈愛に満ちた完全な人間の姿となった、第四形態【慈愛の始祖】のマリアンだった。
世界の理すら書き換えるその美しさは、もはや神話の女神そのもの。しかし、彼女の右手には今までと変わらない巨大な金属製のお玉が握られ、その身には見慣れた純白の割烹着がしっかりと結ばれている。
圧倒的な神性と、下町の中華屋の女将という凄まじいギャップが、不思議な安心感を放っていた。
「お、大女将……!」
「マリアンおばちゃん! 起きてきて大丈夫なのかだちゅ!?」
「当たり前さね! あんたたちが徹夜で難しい顔してるのに、わーしだけ寝てられるわけないだろう? 経済の封鎖? ゲートのロック? だからなんだってんだい!」
マリアンはドスドスと力強い足取りで部屋の中央まで進み出ると、呆然とするサトルたちに向かって腰に手を当て、豪快に笑い飛ばした。
「胃袋はシステムじゃロックできないし、人情に『関税』なんてかけられないのさ! ほら、ごちゃごちゃ理屈をこねる前に、まずはこれを食べて、カチカチになった脳みそをしっかりと解しな!」
マリアンがドスンとガラステーブルに置いたのは、巨大な土鍋だった。
フタを開けた瞬間、ぶわぁぁっと真っ白な湯気が立ち上り、言葉にできないほど芳醇で、それでいて胃袋の奥底を直接鷲掴みにするような、優しく甘い香りが部屋中に充満した。
一人ひとりのどんぶりに手際よく注がれていくのは、とろとろに煮込まれた真っ白なスープ。
いや、それはスープではない。
「これは……お粥、っすか?」
「ただのお粥じゃないよ。その名も、『概念調理・白銀の融合粥』さね! 熱いうちにお食べ!」
マリアンが振るう大玉から、一人ひとりの器へと「白銀の融合粥」が注がれていく。その湯気が立ち上るテーブルを囲んだのは、メガロモールステーツの誇る最高のプロフェッショナルたち――うちらの「家族」だった。
サトルは震える手でレンゲを持ち、その真っ白なお粥をそっと口に運んだ。
とろりとした舌触り。しかし次の瞬間、サトルは両目を見開き、全身を電流が駆け抜けたような衝撃に襲われた。
「な、なんだこれ……!? 一口すするだけで、全身の細胞一つ一つに熱が浸透して、バラバラだった疲れが一本の線で『連結』されていく感覚だっす……!」
「ハフッ、ハフッ!!」
メッキーが大粒の涙をポロポロとこぼしながら、ズズッ、ズズッと音を立ててお粥を掻き込む。
「だちゅ……美味すぎるだちゅ……。砂漠のアブダビで飲んだどんな冷たい水より、この一杯が喉と心に染みるだちゅよ……」
ジッジーもまた、黙ってレンゲを動かしながら、その口元に確かな笑みを浮かべていた。
「……フム。我が防犯プロトコルが、『完全な安寧』を検知した。この味の前では、管理都市の監視などノイズに過ぎんな」
「……あかん、これや。この絶妙な『粘度』と『火加減』……ワイの鋳物でも再現できへん究極の機能美やわ」
ペンジがオークの太い指で器を大事そうに抱え、東大阪の職人魂を震わせて粥を啜る。
隣では、インフラを統括する『コア・ルーター』へと進化したシュンが、八つの複眼を穏やかに細めていた。
「……脳内のオーバーフローが、優しく最適化されていくようです。これなら、どんな経済封鎖の暗号も解読できますよ」
「バイタルサイン、オールクリア。……やっぱり、アンタの飯は最高の処方箋ね」
エルザがナース服の羽を休め、慈愛に満ちた表情でお粥の滋味を噛み締める。
その横で、吟遊詩人ギルド長のミクがぷるぷると身体を弾ませて大喜びしていた。
「わあ! 私のダンスのキレも、このお粥で10,000%アップしちゃうかも! 現世のみんなにもこの温かさを配信したいな!」
その輪の端で、特級内部監査官のアレンと、同じく内部監査室(戦略参謀)のセリアも、おそるおそるレンゲを動かしていた 。
「……数字でお腹は膨らまない。マリアンさん、貴女に教わった言葉の意味が、今ようやく、魂の底で理解できました」
アレンの震える言葉に、セリアが静かに頷く。
「ええ……システムの裏帳簿を暴いて数字を差し押さえるより、この一杯の『真実』を分かち合う方が、ずっと……贅沢なことなのですね」
かつては管理都市の冷酷なエリートとして恐れられた二人。だが今、その瞳にはかつての「死んだ目」ではなく、温かい粥の湯気と、家族として受け入れられた喜びの光が宿っていた。
バラバラだった種族、バラバラだった前世。
それが今、マリアンの【概念調理】によって、レゴブロックの如き強固な「国家」として、完璧に連結された瞬間だった。
腹の底から、底知れぬ活力が湧き上がってくる。
システムに切り離された絶望感など、この一杯の温もりの前では、冷や水ほどの意味も持たなかった。
「要するにさ!」
全員がどんぶりを空にしたのを見計らい、マリアンがお玉をビシッとシステム地図が映るモニターに向けた。
「システムがウチを切り離したってんなら、こっちで新しい『理』を煮込めばいいだけの話さ。シュンちゃん、ペンジが持ってきたその結晶を『隠し味』にして、魔界全土の食卓をウチの常連にしちまいな! わーしらの飯の味を、通信の電波に乗せて世界中に配達してやるんだよ!」
マリアンの言葉に、サトルとシュンは顔を見合わせ、ニヤリと小悪魔のような、いや、最強の商人としての笑みを浮かべた。
「……了解しました、マザー。これより、中枢結晶をメインノードとした、全人類強制眷属化プロトコル――『いただきます通貨』の発行プロセスを開始します」
シュンの八つの目が一斉に黄金色に輝き、背中から伸びる光の糸が、ペンジの持ってきた『中枢結晶』へと突き刺さる。
キュィィィィィン!!
激しい駆動音と共に、不気味だった結晶の光が、温かく力強い黄金色へと変色していく。
サトルが猛烈なスピードで魔導板を叩き、システムのファイアウォールを食い破る新しい経済圏のプログラムを構築していく。
「いっけええええええっす! これぞ、ウチらの人情がそのまま価値になる、新しい経済圏の誕生っす!」
マリアンが両手で持った巨大なお玉を、天高く掲げた。
その瞬間、メガロモールステーツの中央広場から、分厚い魔界の暗雲を突き抜けて、虹色の巨大な光の柱が真っ直ぐに立ち上った。
それは、システムの妨害電波すらも蹴散らし、魔界全土の端末へと『杏』のまかないの匂いを届ける、希望の電波塔だった。
「聞きな、システム! 冷たい数字の鎖で、うちらの胃袋は縛れないのさね! 今日、この瞬間からここは、あんたたちの管理下じゃない。わーしの作った飯を食べた者全員が家族で、誰一人見捨てない、新しい世界の中心さねッ!!」
マリアンの声が、魔界中に響き渡る。
それは、孤立という最大の絶望を、世界をひっくり返す「新事業」へと昇華させる、マリアンたちの最高に美味くて痛快な、逆転の狼煙だった。
無限連結国家群の反撃が、今、始まる。
まいど! 最後まで読んでくれてありがとねぇ!
システムの陰湿な兵糧攻めと経済封鎖なんて、わーしらのお粥一杯の温もりでドロドロに煮崩してやったよ!カロリー不足なんじゃなかって?そんなこたぁないのさね。空きっ腹には丁度いいのさ。
ペンジが戦場で拾ってきたあのクリスタル、どうやらとんでもない化け物サーバーになりそうだねぇ。
次回からは、ウチの国独自のポイント――『いただきます』の感謝の気持ちが、そのまま通貨の価値になる、人情経済圏の爆発的拡大さ!
あんたたちがいつも送ってくれる「評価(☆)」と「ブクマ」が、魔界全土を『杏』の常連にするための、この魔導サーバーを動かす最大のエネルギーになるんだよ。
いよいよ第4部・世界変革編、ガツンと盛り上がっていくから、これからも全力の応援よろしく頼むよ!
システム(閻魔)からの出題【Q37:新事業の要】
今回、システム側のドローンから回収され、新しい経済圏の心臓部となった「中枢結晶」。
このヤバいお宝を見つけて拾い上げた、東大阪の技術を誇るペンジは何を拾ったんだっけ?
① スイカの中身をくりぬいて顔にした、ランタン
② 外はカリカリ、中はジューシーな、たこ焼き
③ メロンほどの大きさがある、多面体の結晶
「思わず、何でやねーんって言った人も居るかな。ヒントはねぇ、敵の中枢に殴り込みをかけるための鍵はなんだったかな? さあ、正解して特盛りのまかない、ゲットしなさいな!」




