第34話 勇者の仮面、社畜の涙! 深夜のあっさり塩ラーメン!
まいど! Q33の正解は「② 「美味しい」と感じ、心から笑い合う「感情」」だねぇ!
システムに最適化されて、点数ばかり追いかけているうちに、あいつらは人間にとって一番
大事なものを失っちまったんだ。
笑って、泣いて、美味い飯を食う。それが生きるってことなのにねぇ。
さて、今回はそんなエリート勇者様の内緒のお話さ。
昼間のカツ丼の匂いにやられて、すっかり腹の虫を鳴らしてたアレン。夜になって、
彼の被っていた立派な「仮面」の下にある、本当の素顔が見えてくるよ。
誰だって、独りぼっちの夜は腹が減るし、心も冷え切るもんさ。
【♪ 深夜のノクターン(静かなピアノがポツリポツリと、夜の孤独に寄り添うように響く旋律) ♪】
「さあて、冷たい点数に縛られた社畜の心も、あっさり塩ラーメンで優しく解きほぐして
やろうかねぇ!」
メガロモールステーツの来賓用宿泊施設。ミノ率いる土建ギルドが気を利かせて建てたその
一室で、システムから派遣されたエリート勇者、アレンは一人、ベッドの上で頭を抱えていた。
時刻は深夜二時。魔界の冷たい月明かりだけが、無機質な部屋を照らしている。
昼間、彼は最大の失態を犯した。
視察と称して乗り込んだ下町中華『杏』。そこで出された「極上カツ丼」の圧倒的な香り
と熱量に、あろうことか彼の腹の虫が盛大に鳴り響いてしまったのだ。
同行していた他の監査官たちの手前、アレンは震える手で箸を叩きつけ、「こ、こんな非効率で
野蛮な食い物は、システムへの反逆だ!」と叫んで逃げるようにこの部屋へ戻ってきた。
だが、あの時の匂い。ラードが弾け、出汁の染みた卵と豚肉が織りなす暴力的なまでの香ばしさ
が、今も鼻腔から離れない。
「……くそっ。私は、選ばれた勇者だぞ。あんなバグのような連中のメシに……!」
アレンは手元の魔導端末を開き、支給された『ニュートリ・ブロック』を口に放り込もうと
した。しかし、無味乾燥な消しゴムのようなそれを噛んだ瞬間、強烈な吐き気が込み上げ、
思わずゴミ箱へ吐き出してしまった。
もう、身体がこの「完璧な食事」を受け付けなくなっていたのだ。
アレンは薄暗い部屋の中で、自らの前世を思い返していた。
前世の名は、阿久津蓮。大手ITコンサルティングファームで、若くして役員候補にまで
上り詰めた男。
だが、その華々しい経歴の裏側は、虚無そのものだった。
前世では「仕事ができる」と言われる人間は、総じて嘘で塗り固められていた。彼らは他人の
手柄を平気で横取りし、使えないと判断した部下を平気で切り捨てた。己のキャリアのために
平気で家族との時間を犠牲にし、口を開けばコンプライアンスや社会貢献といった偽善ばかりを
アピールする。自分の成績(数字)を上げるためなら、直接的な殺人以外は何でもした。
アレンもまた、その一人だった。
誰も読まない分厚い資料を作り、会議のための会議を重ね、社会の役に立っているふりをして
数字をいじり回すだけの『ブルシット・ジョブ(クソどうでもいい仕事)』の頂点。
「効率」と「数字」だけを信じ、評価を上げるためならどんな冷酷な決断も下した。
だが、その実態は、上司の顔色を常に窺い、同期に蹴落とされる恐怖に怯えながら、心に何重
もの仮面を被って生きる、惨めな「社畜」でしかなかった。
(転生式で高得点を叩き出し、この魔界でもエリート勇者として選ばれた時は、これで今までの
苦労が報われると思ったのに……)
しかし、現実は違った。
システムが支配する『管理都市』は、前世以上のブラック企業だった。
常に「徳ポイント」で監視され、少しでもシステムの理に反すれば即座に減点される。
感情を殺し、ただ効率的にシステムに奉仕する「いい子ちゃん」を演じ続けなければ、明日に
は不要なリソースとしてスラムへ放逐されてしまう。
怪我をしても「痛覚」を麻痺させられ、休む間もなく働き続ける日々。心から「美味しい」と
感じて笑い合ったことなど、この世界に来てから一度もなかった。
「……疲れた。もう、疲れたんだ……」
アレンの口から、システムの勇者としては絶対に吐いてはならない弱音が漏れた。
ポイントを稼ぐために裏で足を引っ張り合い、常に誰かの目を気にして生きる息苦しさ。
虚業を積み重ねてきたツケなのか、胃がキリキリと痛み、冷たい汗が背中を伝う。
腹が減っている。だが、ニュートリ・ブロックは食べたくない。
あの一杯が、あの温かい湯気が、恋しくてたまらなかった。
アレンはフラフラと立ち上がり、部屋を抜け出した。
システムの監視の目を盗み、影に隠れながらメガロモールステーツの夜の道を歩く。
行き着いた先は、月明かりに照らされた新店舗『杏』の裏口だった。
「……こんな夜更けに、何やってるんだ、私は……」
自嘲気味に笑い、踵を返そうとしたその時。
「おや。昼間のエリートさんじゃないか。こんな時間にウロウロして、迷子にでもなったのかい?」
ビクッと肩を震わせたアレンが振り返ると、勝手口の開いた扉の向こうに、マリアンが立って
いた。背中には美しく大きな翠色の羽根。第3形態【極楽厨房の饗食天使】
へと進化したグラマラスな美女でありながら、白い割烹着姿で巨大なお玉を肩に担いでいる。
彼女は、明日の仕込みのために一人厨房に残っていたのだ。
「ち、違う! 私はただ、この施設の夜間警備体制を監査していて……」
必死に勇者の仮面を被り、言い訳を並べ立てるアレン。
だが、その言葉は「きゅるるるぅぅぅ……」という、悲しいほどに大きな腹の音によって見事
に遮られた。
アレンは顔を真っ赤にして俯いた。今すぐこの場から消え去りたかった。
しかし、マリアンはフッと優しく微笑み、お玉で厨房のカウンターを指し示した。
「監査、お疲れ様。……まあ、いいから座りな。今、ちょうどお湯が沸いてるところさね」
「私に、あの毒のような食事を食わせる気か! 私は勇者だぞ!」
「勇者だろうがエリートだろうが、腹が減ってりゃただの『可哀想なはらぺこ』さね。
いいから、黙って座ってなさい」
マリアンの有無を言わさぬ迫力に、アレンは抗うことができず、ふらふらとカウンターの丸椅子
に腰を下ろした。
マリアンは手際よく麺を茹で、熱した中華鍋で鶏肉と香味野菜を軽く炒める。
「あんた、昼間の顔色からして、胃も心も相当疲れ切ってるね。
そういう時は、コッテリしたもんじゃなくて、胃の腑に優しく染み渡るやつがいいのさね」
数分後。アレンの目の前に、一杯の丼がコトリと置かれた。
「さあ、お食べ。『深夜のあっさり塩ラーメン』さね」
透き通るような黄金色のスープ。細くしなやかな麺。その上には、丁寧に低温調理された
柔らかな鶏チャーシューと、白髪ネギ、そして微かに香る柚子の皮が乗っている。
派手さはない。だが、その器からは、彼がずっと求めていた「本物の温もり」が立ち上っていた。
「……何かの罠か? 私はお前にポイントなど払えんぞ」
「バカ言ってるんじゃないよ。
腹を空かせた子に飯を食わせるのに、理屈もポイントも要るもんかね。さっさと食いな!」
アレンは震える手で割り箸を割り、スープを一口、口に含んだ。
「……っ!」
その瞬間、彼の目から大粒の涙がボロボロとこぼれ落ちた。
鶏の優しい出汁と、角の取れたまろやかな塩の旨味が、荒れ果てた胃袋と、凍りついていた心に
ジンワリと染み渡っていく。柚子の爽やかな香りが、張り詰めていた神経を優しく解きほぐす。
「う、う、ううっ……」
アレンは、麺をすすりながら、子供のように声を上げて泣き始めた。
ずっと押し殺していた感情が、熱いスープと共に決壊したのだ。
嘘をつき、誰かを蹴落とし、数字を積み上げるためだけに生きてきた。
評価されるためだけに、自分さえも騙して偽りの自分を演じ続けた日々。
本当は、ただ誰かに「よく頑張ったね」と認めてほしかっただけなのに。
ただ、誰かと一緒に美味しいご飯を食べたかっただけなのに。
「美味い……美味いよぉ……っ。
こんなに温かくて、美味しいもの……食べたの、いつ以来だろう……っ」
涙と鼻水で顔をグシャグシャにしながら、アレンは一心不乱に塩ラーメンをすすり続けた。
そこにはもう、偉そうなエリート勇者の姿はなかった。ただ一杯のラーメンに救われた、一人
の疲れ果てた社畜の姿があった。
「ゆっくり食べな。誰もあんたから奪いやしないよ」
マリアンは翠色の羽根を優しく揺らしながら、温かいお茶を差し出した。
「人間、泣きながら飯を食えるうちは大丈夫さね。
涙と一緒に、心の中の溜まった毒を全部流しちまいな」
アレンは最後の一滴までスープを飲み干し、空になった丼を見つめた。
腹の底から湧き上がってくる、ポカポカとした熱量。それはシステムが与える冷たいポイント
などではなく、確かな「生」の温もりだった。
「……ごちそうさまでした。本当に……ごちそうさまでした」
アレンは立ち上がり、深く、深く頭を下げた。
彼が被っていた「勇者の仮面」は、この深夜の厨房で完全に剥がれ落ちていた。
管理都市の冷酷な歯車の一つだった男が、マリアンの泥臭い人情の味によって、
本当の「感情」を取り戻した瞬間だった。
「泣きながらラーメンを完食したなら、もうあんたはウチの『常連』さね!
そのエリート様自慢の『監査の目』、これからは管理都市を喜ばせるためじゃなく、
ウチのみんなが笑って暮らせるように使いな!
今日からあんたをウチの『特級内部監査官』に任命するよ!」
最後まで読んでくれてありがとねぇ!
昼間はあんなにツンケンしてたエリート勇者のアレンだけど、深夜の塩ラーメンの前じゃ、
ただの疲れ切ったサラリーマン……阿久津蓮に戻っちゃったねぇ。
前世でも今でも、ポイントや評価ばっかり気にして、本当に大事な「自分の心」をすり減らし
ちゃってたんだ。
でも、一杯のラーメンで思いっきり泣けたんだから、あいつもきっとやり直せるさね!
泣きながら完食したアレンは、もう立派なウチの『常連』さ!
さっそくわーしが、奴の監査の目を「みんなが笑って暮らすため」に使う『特級内部監査官』
に任命してやったよ!
さて、勇者の仮面が剥がれたことで、いよいよシステムとの関係も決定的なものになりそう
だねぇ。
システム(閻魔)からの出題【Q34:内部監査室、期待の新人】
アレンと共に内部監査室(戦略参謀)に加わることになった、勇者パーティの『聖女』。
彼女もまたアレンと同じく、数字の奴隷として感情を殺してきた過去があるのさ。
さて、アレンが「あいつの計算能力は光ファイバー並みだ」と太鼓判を押す彼女の、
前世の職業は何かな?
① 企業の不正を暴く「公認会計士」難関資格の女
② 1円のズレも許さない「銀行員」 AIもどきの女
③ 厳しい取り立てで恐れられた「国税局員」マルサの女
「ヒントはねぇ、アレンが『あいつなら管理都市の裏帳簿を数秒でハックできる』
って言ってたよ。本文にはまだ出てこないけど、これからの反撃には欠かせない相棒になる
はずさね! 応援の評価☆☆☆☆☆とブックマークのバフ、今日もよろしく頼むよ!」




