第24話 焦土の炊き出しと、鬼神の目覚め!
まいど! Q23の正解は「① 生前の善行(徳ポイント)をシステムから前借りした力」だねぇ!
システムの連中がひけらかす薄っぺらい数字の力で、わーしらの家族の居場所をぶっ壊すなんて、
本当に胸糞悪いさね。
前回は、圧倒的なチートの前に為す術もなく、わーしらの『杏』は半壊しちまった。
ミノさんが造った壁も、ペンジの工場も、ミクちゃんたちの手作り看板も、みんな瓦礫の下さ。
だけどね、下町のおばちゃんは、ちょっと店が壊れたくらいじゃ絶対にヘコたれないのさね!
泣いてる暇があったら、へこんだ鍋を叩き直して火を起こす!
今回は、絶望の底から立ち上がる「再起」の熱いエピソードだよ。ハンカチの準備はいいかい?
【♪ 焦土のレクイエム(悲痛なストリングスと静かなピアノが、残酷な朝を告げるBGM) ♪】
勇者アレンたち「大規模粛清部隊」の圧倒的な暴力が嵐のように去り、マリアンの聖域には、
建物の崩壊した壁の隙間から、吹きざらしの風が吹き抜けていた。容赦なく照り付ける太陽の光
も痛かった。
かつて活気に満ちていたメガロモールステーツの面影はない。そこにあるのは、立ち上る
黒煙と、目を覆うような惨状だけだった。
「……ひどい、っす。俺たちの、城が……みんなの場所が……」
ゴブリンのサトルは、画面がバキバキにひび割れた魔導板を両手で握りしめた
まま、瓦礫の山となった正面玄関の前にへたり込んでいた。涙が煤まみれの頬を濡らし、
地面に落ちる。
「……ちゅっ。地下倉庫の在庫も、七割がパーだちゅ。
五色商会の本部機能も、完全に沈黙しただちゅ……。
もう、おしまいだちゅ……」
ネズミ獣人のメッキーが、力なく長い耳を垂らし、天井が崩落した二階の事務所を見上げて
いた。
「クソッ……! ワイの溶接がしょぼかったんか……
もっと、もっと強度があれば、あんな奴らの攻撃くらい……!」
「違う、ペンジ。俺の設計が甘かったんだ……。
あんなデタラメなシステム補正の魔力砲なんて、
俺の計算式には入ってなかった……!」
オークのペンジとミノタウルスのミノが、血の滲むほど拳を握りしめ、己の無力さを呪う
ように交互に吐き捨てた。
一階の広場では、エルザ率いる医療部隊が、血まみれになった仲間たちの手当てに奔走して
いた。声を枯らし、必死に指示を飛ばす。
「そっちの止血帯をきつく締めて!
治癒魔法の光、まだ途切れさせないで!
ジッジーさん、神崎さん、しっかりして、意識を保って!」
ハーピーのエルザは、自らも羽をボロボロに傷つけながら、緑色の治癒光を放ち続けていた。
その光の中に横たわるのは、防音魔法隔壁ごと吹き飛ばされた猫獣人のジッジーと、マリアン
を庇って背中に深い斬り傷を負った特級調理師・神崎玲二だ。
「……フム。我が誇る防犯プロトコルが、こうも脆く破られるとはな。
……計算外、いや、認識が甘かったと言わざるを得ん……」
「……面目、次第もありません……。
女将をお守りするどころか、厨房すら死守できず……っ」
幸いにも二人とも命に別状はなかったが、その声は掠れ、プライドは足元の瓦礫と同じように
粉々に砕け散っていた。
昨日まで、あんなに温かくて、美味そうな匂いと笑い声に満ちていた場所。それがたった一夜
にして、冷たい焦土へと変えられてしまったのだ。
「……もう、終わりなのかよ。結局、0点はシステムには勝てないのか……?」
誰かがぽつりと漏らした絶望の言葉。それが伝染するように、重苦しい沈黙が全員の心を押し
潰そうとした。
その時だった。
――ガンッ! ガシャ! カァァァィィンッ!! ――ガンッ! ガシャ! カァァァィィンッ!!
静まり返った瓦礫の奥から、けたたましくも力強い金属音が響き渡った。
「……え? この音、どこから……?」
サトルが涙を拭い、顔を上げる。音が響いてくるのは、かつて下町中華『杏』があった
厨房の跡地だった。
そこには、真っ黒な煤にまみれた、小さな背中があった。
額に包帯を巻き、ボロボロになったグレーのランドセルを背負ったちび女将――マリアンが、
特技『お玉の舞』を発動し、無数の魔法の手を操りながら、不格好にひしゃげた鉄鍋を瓦礫の
頑丈な石で力いっぱい叩き直していたのだ。
「ち、ちび女将!? 何をしてるんすか!
怪我人なんすから、無理しちゃダメっすよ!」
サトルが慌てて駆け寄ろうとしたが、マリアンは叩く手を止めず、鋭い火花を散らしながら、
ふいと振り返った。
その真っ直ぐな瞳。絶望の涙など、一滴すら浮かんでいなかった。
「……何ボサッとしてるんだい、サトル!
突っ立ってる暇があるなら、そこらの使えそうな薪を集めておくれ!」
「え、あ、でも……店が……」
「店が壊れた? 壁が崩れた? だからなんだってんだい!
看板がなくなったって、わーしらの商売は終わっちゃいないよ!
下向いて泣いてたって、お腹は膨れないさね!」
カァァァンッ!!
最後の一撃と共に、ひしゃげていた中華鍋が見事な丸みを取り戻した。
「「「ちび女将!」」」
近くにいたマリアンの部下たちは、マリアンが見せる元気な姿に勇気づけられた。
次の瞬間、マリアンの身体から溢れ出る魔力の「質」が、爆発的に変化した。
「な、なんだ……!? この魔力、ただの『大衆包摂聖域』じゃないっす……!」
サトルが息を呑む。
マリアンの周囲の空間が、陽炎のようにゆらゆらと揺らめき始めた。
それは単なる物理的な熱ではない。極限の怒りと、仲間を思う深い慈愛――その二つの感情が
火花を散らし、マリアンの魂に眠る真の権能を呼び覚ましたのだ。
《♪ システム音停止 ―― 荘厳な「天の声」が脳内に響き渡る ♪》
〓〓〓〓〓【 緊急:シンクロレート上昇!! 】〓〓〓〓〓
【 現世からの「おばちゃん負けるな!」という祈りが臨界点を突破 】
【 シンクロバフ:『再起の火種』が強制発動します 】
〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
『 告。個体名:マリアンの「不屈の熱量」が、聖域の崩壊をエネルギー源として再点火。
固有能力の再定義を実行します。 』
『 究極能力【大衆包摂聖域】は、万物の命を繋ぎ止める業火――
【万物調和の竈】へと進化しました。 』
【♪ 命の鼓動(力強い和太鼓とアコースティックギターの重低音) ♪】
彼女の小さな指先から、見たこともないほど澄んだ、青白く輝く微かな熱が溢れ出す。
その熱が触れた瞬間、煤けた鉄鍋はまるで意思を持つ生き物のようにしなやかに分子構造を
再構築し、新品以上の鈍い輝きを放ち始めた。
「バウの爺さんたちが、命懸けで守ってくれた根菜がある。
瓦礫の下から引っ張り出した肉もある……。
これだけあれば、わーしらの料理は作れるさね!」
マリアンは形を取り戻した鉄鍋を瓦礫で組んだ即席の竈に乗せ、残っていた木材に手を
かざした。
ゴォォォッッ!!
彼女の意志を吸い込んだ炎は、通常の火力を遥かに凌駕し、神聖さすら感じさせる青白い劫火
となって燃え上がる。
「あんたたち! 泣いてる暇があったら手を動かしな!
腹が減っちゃ、悲しむことも、怒ることもできやしないさね!!」
マリアンは、特技『お玉の舞』を発動し、ランドセルから出る魔力の腕をフル展開した。四本、
五本、六本――覚醒した魔力によって、腕はより鮮明に、力強く物質化している。
彼女は巨大なお玉を同時に操り、瓦礫の山から救い出した食材を次々と宙に放り投げ、目にも
留まらぬ速さで刻んでいく。
「今日は『焦土の熱々ネギ味噌雑炊』さね!
奴らに冷やされた五臓六腑を、芯からスープで満たしてやるよ!」
ジュワァァァァァァッッッ!!!
細切れにした豚肉の脂と、瑞々しいネギが鉄鍋に投入され、強烈な熱線の中で踊る。続いて、
特製の味噌が鍋肌に触れた瞬間、圧倒的に香ばしい、甘辛い匂いが爆風のように焦土へと広が
っていった。
それは、絶望に支配されていた人々の鼻腔を強引に突き抜ける『生命の匂い』だった。
「ほら、出汁を入れるよ! 冷や飯も全部ぶち込みな!」
グツグツと沸き立つ黄金色のスープ。マリアンの放つ『万物調和の竈』のオーラは、
周囲の瓦礫や塵の不純物を完全に遮断し、純粋な食のエネルギーへと還元していく。
「ほら、あんたら、そんなとこでぼぉーっと見てないで、
器がないなら、そこらの綺麗な葉っぱでも何でも持って、こっちへ来な!
できたてさね、早く食べちまいな!」
マリアンは煤だらけの顔でニカッと笑い、熱々の雑炊をすくい上げては、呆然とする仲間たち
に次々と手渡していった。
「……いただきます、っす」
サトルが震える手で、大きな葉っぱに盛られた雑炊を受け取り、口元へ運ぶ。ふうふうと
息を吹きかけ、一口すすった。
「――っ!!!」
その瞬間、サトルの身体が激しく震えた。
口いっぱいに広がる豚肉の濃厚なコク、焦がし味噌の奥深い風味。そして、じっくり煮込まれ
た大根やニンジンの、じんわりとした優しい甘み。
冷え切り、恐怖で強張っていた胃袋が、内側からカッと熱くなる。それは単なる栄養じゃない。
「生きろ、負けるな」という、マリアンの魂そのものが注ぎ込まれたスープだった。
「美味い……美味いっすよ、ちび女将……っ! あったかいっす……!」
サトルの目から、大粒の涙がボロリとこぼれ落ち、雑炊に混ざった。
ジッジーも、神崎も、エルザも、ペンジも、ミノも。誰もが何も言わず、ただ貪るように雑炊
を掻き込んでいた。その圧倒的な「生命の熱量」を受け取り、誰もが肩を震わせて泣いていた。
「うおぉぉぉぉん……っ! おばちゃん、うめぇよぉぉぉ……っ!」
広場の片隅で、誰よりも大声で、地面を叩きながら泣きじゃくっている集団があった。
昨日まで、一階のカウンターで「極旨天津飯」を美味そうに食べていた、赤い肌や青い肌を
持つ鬼人族の荒くれ者たちだ。彼らはシステムから「素行不良の0点」と烙印を押され、魔界の
底でゴミのように扱われてきたはぐれ者たちだった。
「俺たち……ずっとクソシステムに0点だって言われて、
どこに行っても忌み嫌われて、居場所なんてなかったんだ……。
でも、ここだけは違ったんだよ……っ!」
一人の巨漢の鬼人が、涙と鼻水で顔をグシャグシャにしながら、雑炊の器を両手で壊れそうな
ほど強く握りしめた。
「いつ来ても、おばちゃんは『よく来たねぇ、おかえり!』って言って、
腹いっぱいに美味ぇ飯を食わせてくれた……! 0点の俺たちを、
ちゃんと『生きてる人間』として見てくれたんだ……っ!」
男の涙が止まり、その瞳の奥に、猛烈な「鬼の怒火」が宿る。
「俺たちの……俺たちの大事な、たった一つの『帰る場所』を……!
よくもあんな薄っぺらい数字のチート野郎どもが……
よくも踏みにじってくれたな、おいぃぃぃぃっ!!」
バァァァンッ!!!
男は瓦礫の上に飛び乗り、仁王立ちになって咆哮した。その背中から、鬼人族特有の凄まじい
闘気が爆発する。
「おい、野郎ども!! このままあのシステム野郎どもに怯えて、
泣き寝入りしてていいのかよ!?」
周りの鬼人たちが、一斉に顔を上げた。その目はすでに死んでいない。
「システムがなんだ! 勇者がなんだ!
おばちゃんが命懸けで作ってくれたこの場所を、俺たちに初めてできた『居場所』を……
次は絶対に俺たちの命に代えても守り抜こうじゃねぇか!!」
「「「おおおおおおおッッッ!!!!」」」
鬼人族の荒くれ者たちが、折れた斧や壊れた工場の鉄パイプ、瓦礫の破片を武器として天に
掲げ、一斉に雄叫びを上げた。その圧倒的な熱量は、絶望に沈んでいた聖域の暗雲を、一瞬に
して消し飛ばした。
【♪ 荒野の用心棒ブルース
(雄叫びのようなサックスと熱いベースラインが、反逆の狼煙を上げるBGM) ♪】
「……ちゅっ。ただの常連のクレーマーたちが、
一瞬で命懸けの自警団に化けただちゅ……!」
メッキーが呆然と目を丸くする。マリアンは満足げに頷くと、包帯を巻いたジッジーの前に
歩み寄った。
「ジッジーさん。あんたの出番さね。この血の気の多い荒くれ者どもをガチッとまとめて、
二度とあんなチート野郎どもに指一本触れさせない、鉄壁の防衛網を作りな!」
ジッジーは、葉っぱの器に残った最後の一滴まで雑炊を舐めとると、ゆっくりと立ち上がった。
その背筋が、現役時代の伝説のSPのそれへと伸びていく。鋭い老猫獣人の眼光がギラリと光った。
「……フム。我が防犯プロトコルに、新たに『軍隊』の指揮・統率シミュレーションを追加しよう。
ちび女将、あんたのその熱い雑炊が、私への最高の契約金だ。……おい、鬼人族の若造ども!
私のシゴキは閻魔システムより厳しいぞ。覚悟はできているな?」
「「「しゃあああっ! よろしくお願いします、総司令官!!」」」
ここに、メガロモールステーツを守る最強の軍隊機構、『自警団』が正式に誕生した。
「ワイらも負けてられへんで!
ミノ、すぐに防衛用の外壁の設計図を引き直すで! 東大阪の技術、なめんなや!」
「フン、当たり前だ! 今度はあのアレンとかいうガキの魔力砲すら、
傷一つつけずに跳ね返す『対システム用絶対城塞』を組み上げてやるぜ!」
ペンジとミノが、互いの煤けた拳を激しくぶつけ合う。
ウサミチもシュンも、決意に満ちた目で力強く頷いた。
その泥臭くも熱い再起の光景は、シュンの張り巡らせた蜘蛛糸ネットワークを通じて、現世の
閻魔モニターにすべてリアルタイムで中継されていた。
『すげぇ……あの状態から、飯一杯で立ち上がるのかよ……!
あの飯うまいだけじゃなくて、何かやばいもの入ってんじゃねーの!』
『ポイントだのチートだの、そんなの関係ねぇ! これが本物の人情、絆だろ!』
『おばちゃん、負けるな! 俺たちのシンクロ応援バフを全部持っていけえええっ!』
現世の視聴者たちの熱狂が、物理的な光の粒子――「応援バフ」となって魔界の空から降り
注ぎ、瓦礫の聖域を黄金色に照らし出していく。マリアンの『万物調和の竈』が、その応援
の熱すらもエネルギーとして吸収していくのが分かった。
「さあて、準備運動はここまでさね!」
マリアンが巨大なお玉を天に突き上げ、不敵に笑う。
「ここからが、わーしら下町中華の本当の『反逆』の始まりだよ!
叩き直した鉄鍋の威力、たっぷり味わわせてやるさね!」
カン、カン、カァァァンッ!!
モールの再建を告げる力強い槌音が、魔界の空に向かって高く、高く鳴り響き始めた。
最後まで読んでくれてありがとねぇ!
勇者アレンの野郎にはひどい目に遭わされたけど、わーしらの心までは折れやしないさね!
鬼人族のあんたたち、いつも大飯食らいで騒がしいと思ってたけど、今日ばかりは本当に
頼もしかったよ。ジッジーさんの下でしっかり訓練して、最高の自警団を作っておくれね!
そして現世のあんたたち、熱い応援バフを本当にありがとね! みんなの力で、この瓦礫から
最高の『国』を再建してみせるからねぇ!
システム(閻魔)からの出題【Q24:自警団の初訓練】
ジッジーさんが総司令官となった防衛ギルド。彼が鬼人族の荒くれ者たちに、最初に課した
「過酷なシゴキ(訓練)」とは何だと思うかい?
① 魔獣の巣窟でのサバイバル走
② 徹底した挨拶と、靴を揃える生活規律のプロトコル
③ 閻魔システムへのハッキング講習
「ヒントはねぇ、ジッジーさんは伝説のSPさね。腕っぷしや暴力の前に、まずは基本の『型』と
『心』を作るのが本物のプロってもんさ。……さあ、あんた達なら、どれが本当の正解か、もう
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