第13話 ちび女将誕生! 杏の新装開店大宴会セレモニー!
まいど! Q12の正解は
「② 仲間たちの絆と、目の前の人を『お腹いっぱいにしたい』という泥臭い熱量」だ!
みんなの熱い想いがぎっしり詰まったピカピカのランドセルを背負って、
わーしも無事に『ちび女将』へと脱皮進化を遂げたよ。
身体は小さくなったけど、胃袋と肝っ玉のデカさは前世の下町仕込みだからねぇ、
ちびちび休んでる暇はないのさね!
さあ、特級調理師の神崎さんとの大決戦を制し、現世のモニターも大バズり!
ここからは第2章【モールテナントと眷属の拡大編】の開幕だ。
激闘の後は、やっぱり美味い飯をみんなで囲むのが一番!
新店舗『杏』の開店祝いと、わーしのちび女将進化を兼ねて、魔界史上最大の
大宴会セレモニーといこうかねぇ!
【♪ 賑やかで調子の良い昭和の下町ジャズ
(トロンボーンとクラリネットが陽気にハネる、お祭り騒ぎの宴会BGM) ♪】
「さて、今日も元気に鉄鍋振っていこうかねぇ!」
神の如き特級調理師・神崎玲二との死闘を制した、魔界の聖域。
新店舗『杏』のフロアは今、開店以来……いや、この魔界の歴史が始まって
以来、最も熱く、最も美味そうな匂いと、耳をつんざくような歓声に包まれていた。
「――それじゃあ!最高の新店舗『杏』のグランドオープンを祝して……カンパーイッッ!!」
「「「乾杯ァァァァァイッッッ!!!(フシャァァァッ!)」」」
カチンッ! ガシャァン!
木の実をくり抜いた特大ジョッキや、ガラスの器が盛大にぶつかり合い、泡立った麦酒が
床へと飛び散る。
宴会の中心にいるのは、巨大な丸虫の殻を脱ぎ捨て、つやつやの黒髪をお団子頭に結い、
背中に赤くてピカピカのランドセルを背負った小さな『ちび女将』――マリアンだ。
「おっと、忘れちゃいけないよ、うちらのちび女将の進化を祝して、もう一度乾杯!」
「「「乾杯ァァァァァイッッッ!!!(ヨッシャァァァッ!)」」」
「ほらほらメッキー! あんた前世でエリート商社マンだったか知らないけど、
細っこくて見てらんないよ! この特製レバーをたくさんお代わりしな!
ミノもゴーリキも、大工仕事と輸送で骨折ったんだから、肉を限界まで詰め込みなさいよ!」
小さな身体でちょこまかと動き回りながら、マリアンは無自覚に固有スキルを全開にしていた。
『 告。固有能力【お玉の舞】が発動中。多重魔力アームを展開します。 』
シュワァァァ……!
マリアンの背中のランドセル(元丸虫の殻)から、淡く光る半透明の魔力の腕が
ニョキニョキと四本ほど出現する。その腕がそれぞれ巨大な鉄鍋やお玉をジャカジャカと
操り、大皿にドカ盛りされた、目も眩むような「中華宴会おせち」を、一瞬でテーブルへ
と配給していく。
円卓の上に並べられたのは、まさに大衆中華の贅を尽くした、圧倒的なまでの「飯テロ」
の弾幕だった。
中央に鎮座するのは、直径1メートルはあろうかという特大の重箱に詰め込まれた料理たち。
まずは、極厚チャーシューがこれでもかと敷き詰められた『山盛り中華オードブル』。
じっくりと秘伝の醤油タレで煮込まれた豚バラ肉は、自重で崩れそうなほど柔らかく、
飴色の脂身が室内の明かりを反射してテカテカと輝いている。
その隣には、ニンニク醤油の香りが鼻腔を暴力的に突き刺す『特製・大衆唐揚げ』。
魔界の凶暴な巨鳥のモモ肉を丸ごと使い、衣には片栗粉を粗く塗して、限界まで高温の
ラードでカリッと揚げられている。
さらに、大ぶりの羽がバリバリに張った『鉄鍋焼き餃子』。
一枚の芸術品のように美しく円状に並べられた餃子の底は、完璧なキツネ色に焼き固められ
ており、箸を入れればサクゥッ!と小気味良い音が鳴り響く。
「ジュワァァァ……ッ!!!」
ゴブリンのサトルが唐揚げに猛然と噛みつくと、濃厚な肉汁が四方に飛び散った。
「う、美味すぎる……ッ! 何すかこれ、衣のカリカリ感とニンニクのパンチが、
港区の高級ラウンジで食ったどんな高価なフィンガーフードよりも五臓六腑に
染み渡る……! 脳の報酬系が完全にバグりそうだ!」
「これだよ、これ!
このラードの焦げた香ばしさと、溢れ出る白菜の甘み!」
一級建築士の前世を持つミノタウロス・ミノが、一口で餃子を三個丸呑みにする。
「不沈艦の土台を造り終えた身体に、炭水化物と脂質、
精度抜群のニンニクが直撃して脳が震えるぜ!
マリアンさんの料理は、構造計算を超えた生命力の塊だ!」
「フハハハハ! これぞ、これこそが閻魔システムの奴隷だった我々を救う『命の味』だ!
素晴らしい、実に見事な大衆のナラティブだ!!
こんな風に美味いもんを食って笑い合うなんて、管理されただけの無機質な都市じゃ
絶対できっこないねぇ!」
銀狐のメコンが、高級なスーツ風の服をはだけさせ、金細工の扇子で自分を扇ぎながら、
涙目でパラパラの黄金チャーハンを口に掻き込んでいる。
すっかり『杏』のチンドン部長(広報)として馴染んでいた。
その賑やかな宴会の喧騒の片隅――厨房の奥の流し台で、黙々と、しかし超高速で皿を磨き
上げている真っ白なコックコートの男がいた。
閻魔の刺客として派遣され、その後マリアンに完敗を喫した、元・特級調理師の神崎玲二だ。
キュッ、キュッ、ピカァァァン!
【♪ 哀愁を帯びた、前世の古いクラシック・ピアノの旋律 ♪】
「……私の負けだ。この皿の上の油汚れの一点すら、彼女の料理が放つ『温かさ』という
熱量の前には、一瞬で融解する。私は数字という氷の檻に囚われていたのだ……」
『 告。対象:神崎玲二に、マリアンの固有スキル【皿洗いの刑(就職勧告)】が完全適応。
自尊心を保護されたまま、杏の系列スタッフとしての『帰属意識』が最大値に達しました。 』
「神崎さん、アンタも手が空いたならそこのチャーハン食べな!
タダ飯は食わせないけど、働いた分のまかないは特盛りだよ!」
「……っ。いただきます、お母さん……っ!」
料理の神と呼ばれた男が、ランドセルのような物を背負った幼女に、お母さんと口走って
いる姿は、違和感の塊でしかなかった。
彼はピカピカに磨いた皿に盛られた中華おせちの残りとチャーハンを前に、また大粒の涙を
流して貪り食い始めた。
「いやあ、マリアンのおばちゃん……じゃなくて、ちび女将!」
ネズミ獣人のメッキーが、ビールジョッキを置きながら、手元の魔導板を叩いた。
「涙を流して喜んでる場合じゃないぞ。
神崎さんとの決戦が、スライムのミクちゃんの配信を通じて
現世(地球)へ生中継された結果、えらいことになってるんだ。
見てくれ、このグラフを!」
メッキーが提示した魔導板には、真っ赤な折れ線グラフが天井を突き破り、
画面の外へとハミ出していた。
「現世の視聴者からの『いいね』と『ブックマーク』の応援ポイントが
カンストした影響で、俺たちの聖域へのアクセス制限が完全に解除された。つまり……」
「つまり、どういうことなの?」
スライムのミクが、身体をぷるぷると揺らしながら首を傾げる。
サトルは頭を抱えて叫んだ。
「つまりな、この聖域へのアクセス制限が完全解除されたってことは、
理論上、魔界全域から飢えた魔物や転生者たちが、物理的に来ることが
可能になったってことだよ!
現世の応援バフのおかげで、データ上はサーバーダウン寸前のメガヒットの兆しだ!」
「なんだってぇ!?」
ゼネコン前世のミノが、ガタッと立ち上がった。
「おいおい、今の店のキャパじゃ確実にパンクするぞ!
客の並ぶ導線も、ハコの強度も足りねえ!
すぐに店舗の拡張工事の設計図を引き直さなきゃならん!」
「厨房の設備も全然足りひんわ!」
東大阪の町工場長出身のオーク・ペンジが、骨付き肉を齧りながら怒鳴る。
「ちび女将の【お玉の舞】がなんぼ凄くても、コンロの数が少なすぎたら
調理の物理的限界が来る!ワイが東大阪の技術の粋を集めて、火力を十倍に高めた
『魔導式多重超高火力コンロ』を大至急オーダーメイドで作ったる!」
「衛生管理も、従業員の健康管理も追いつきません!」
ハーピーのエルザが、ナース服の羽をバタつかせる。
「これだけの人口が急激に流入したら、感染症や食中毒のリスクが跳ね上がります!
バックヤードの滅菌魔法陣を強化してください!」
次々と飛び出す専門家たちの、職業病丸出しのリアルなビジネス議論。
目の前に押し寄せる「需要」という大津波に、どうやって現場のビジネスとして対処するか
という、血の通った経営戦略会議だ。否、今は大宴会の最中の筈であった。
蜘蛛の獣人・シュンや、俊足のウサミチも、魔導板を睨みながら明日の激戦に
向けて何やら対策を練り始めている。
その時。
コツン、と小さな革靴の音が響き、ちび女将マリアンが、自分の身の丈ほどもある巨大な
お玉を、カウンターのテーブルにドンッと叩きつけた。
ドンッ!!!
【♪ マリアン脳内BGM:全吹奏楽が鳴り響く、地平線を突き進むような昭和の熱血応援歌 ♪】
「あんたたちさぁ! さっきから難しい横文字だの、数字だのばっかり並べて、
頭でっかちになってんじゃないよ!」
マリアンは、小さな人差し指でメッキーやサトルの鼻先を順番に指差した。
「明日、何万人のお客が押し寄せようがね、わーしがやることはただ一つさ。
『お腹を空かせた可哀想なはらぺこ達に、美味い飯をいっぱい食わせて、
笑顔にして帰す』。それだけさ!
商売の基本を忘れるんじゃないよ。どんなに大勢の客が来たって、
目の前の一人一人を大切にできない店は、すぐに潰れちまうんだからね!」
――目の前の一人一人を、笑顔に。
ビジネスの、そして人情の、あまりにもシンプルで絶対的な真理。
エリートたちが忘れていた「現場の心臓」を、ちび女将の一言が完璧に撃ち抜いた。
「……素晴らしい」
メコンが深く、深く感服したように頭を下げた。
「これです。効率の数字だけで割り切る閻魔のシステムには、
逆立ちしても真似できない、圧倒的な『人情おもてなし』のナラティブだ。
これなら現世の視聴者も、さらに熱狂して踊りますかねぇ!」
「よし、決まりだ!」
メッキーが力強く拳を握る。
「明日からの大激戦を完璧に捌き切るために、まずは明日、ウチの店を支える
従業員たちの『組織化』と『強化』を徹底的にやるぞ!」
「「「おおおおおッッッ!!!」」」
歓声が再び爆発する。
ただの小さな屋台から始まったマリアンの商売は今、最高のプロフェッショナルたちの
手によって、閻魔システムの奴隷の象徴である、魔界の理不尽な飢えを癒やす、
巨大な「プラットフォーム」へと、地道に、しかも確実に、レゴブロックのように
組み上がり始めたのだ。
最後まで読んでくれてありがとねぇ!
みんなで囲む極厚チャーシューに唐揚げ、 餃子などなどの中華おせちは、やっぱり最高だねー!
神崎さんも仲間に入って、ウチの厨房の仕込みもこれで一安心さ。
あんた達がこうして読んで、ブックマークや評価(☆)をポチッとしてくれる熱量が、
現世からの「応援バフ」になって、わーしたちの組織をさらに強く、でっかく進化させるんだ。
これからも、わーしの店をしっかり支えておくれな!
システム(閻魔)からの出題【Q13:おもてなしの謎】
マリアンが語った、お店にどれだけ大勢の客が押し寄せても、絶対に忘れてはいけない
『商売の基本』は何かな?
選択肢:
① 試食メニューやお土産品をばんばん頒布してお客様を満足させること
② 閻魔システムの評価を一番に考えて、効率や巡回エリアマネージャーを気にすること
③ 目の前の一人一人を大切にして、美味しい飯で笑顔にすること
「ヒントはねぇ、大宴会を囲んだみんなの笑顔さ。数字だけで人はお腹いっぱいにならない
からねぇ。……さあ、あんた達なら、どれが本当の正解か、もう分かってるよねぇ?」




