理由2、許婚
感想をくださった方、ありがとうございます!優しい言葉に胸がいっぱいです。更新が遅くてすみません。
許婚との苦くしょっぱい関係は、ミレーユが十歳の誕生日を迎えたときから続いている。
四歳にして将来結ばれる約束を交わした王太子は、その日、ミレーユを美しい湖に連れ出して色鮮やかな花冠を彼女に捧げた。
その瞬間まで、ミレーユはとても幸せだった。
―――ミレーユ、お前は俺の妃になる覚悟があるか。
王太子がその言葉を口にした時、ミレーユは彼に手をひかれ、湖のふちに立っていた。
唐突な問いを不思議に思って見上げると、夏の空のような蒼い瞳がいつになく真摯な光を湛えてミレーユを見返す。
―――かくご?
―――大陸一の国の王妃として民を愛し、導く覚悟だ。王の隣に立って国を支え、真実を敬愛し、ひとを許す者であれるか。
―――…よくわかんない。
兄と同じく四つも年長の少年の言葉は、十歳の少女には難しすぎた。
―――おうひさまって、とってもたいへんなの?ミリィにはできない?
不安になって尋ねたミレーユに、王太子は答えなかった。温かくて大きな手がミレーユの髪をふたつなでる。
―――ミレーユ、俺が好きか?
―――…うん。
―――そうか。
蒼い瞳がいつになく甘く細められた次の瞬間、ミレーユは湖に突き落とされた。
―――泳げ!自力で助かる努力をしろ!
動揺し、水を吸って重たくなったドレスのせいで思うように動けないまま溺れるミレーユに、王太子は非情な言葉を投げつける。
―――平和な時世とはいえ大国の王族となれば暗殺の危険は常にある。これくらい一人でなんとかできなくてどうする。
湖の水と涙で視界がかすんだ。息が苦しく、身体は思うように動かない。
やっとの思いで岸を掴んだミレーユは、すがるような気持ちで王太子を見上げた。何かの間違いだと思いたかった、許婚に湖へ突き落されただなんて。
―――いつまで呆けてるつもりだ。早く岸に上がれ、安全を確保しろ。でないともう一度落とされるぞ。暗殺者に情けはないんだ。
告げられるのと同時に腕を掴まれ、ミレーユはもう一度湖に投げ出される。
意識を失う瞬間、視界に映った許婚は、何の感情も浮かばない目でミレーユが溺れもがく姿を見下ろしていた。




