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 十月に入って、夜の空気が変わった。


 コインランドリーの自動ドアを開けると、外の冷気が足元に流れ込んでくる。店内は乾燥機の熱でいつも暖かい。その境目を越えると、外の音が遠ざかった。


 その夜、彼女は先にいた。


 自分が入ると、彼女は顔を上げた。何か言いかけるような表情をして、でも何も言わなかった。代わりに軽く手を挙げた。同じように返した。


 洗濯物を入れて、硬貨を入れて、ボタンを押した。ベンチに座る。彼女との距離は、三台分くらいだった。前より少し近い。どちらが詰めたのかはわからない。


 彼女は文庫本を読んでいた。膝の上に開いて、ときどきページをめくる。蛍光灯の下で、紙の白さがやけに明るく見えた。


 「寒くなりましたね」


 彼女が本から目を上げずに言った。


 「うん」


 それだけ答えた。彼女はページをめくった。それで会話は終わった。


 洗濯機が回っている。規則正しい音。その音を聴いていた。


 しばらくして、彼女が本を閉じた。しおりを挟まなかった。表紙を裏返して膝の上に置いて、洗濯機の窓を見つめた。衣類が水の中でゆっくり回っている。


 「ここ、いいですよね」


 彼女が言った。自分を見ていなかった。洗濯機の窓を見たまま。


 少し間を置いた。


 「静かだから」


 「そう。静か」


 彼女はそう繰り返して、少しだけ笑った。笑ったが、すぐに口元が元に戻った。電話のときのような明るさではなかった。もっと小さくて、すぐに消えるものだった。


 洗濯機が止まった。衣類を乾燥機に移す。硬貨を入れて、ボタンを押す。ベンチに戻ると、彼女はまた本を開いていた。でも、ページは進んでいないように見えた。


 乾燥機が回っている間、洗剤の匂いに、少しだけ違うものが混ざっていた。


 乾燥機が止まる前に、彼女の洗濯が終わった。彼女は洗濯物を乾燥機に移して、硬貨を入れた。そのとき初めて、自分の近くまで来た。隣の乾燥機だった。


 硬貨が投入口に落ちる音が、いつもより多く鳴った。


 彼女はボタンを押して、ベンチに戻った。さっきより少しだけ自分に近い位置に座った。本は開かなかった。二台の乾燥機が並んで回っている。同じ速度で、同じ音を立てて。


 どちらも何も言わなかった。


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