*第92章~交渉~
「いい加減、姿を現したらどうだ?」
民たちから離れ、町の外れの人通りのない狭い路地を歩いていた紗羅がピタリと足を止めた。
すると、物陰に隠れていた黒い覆面姿の男たちが5人程、紗羅達の前に姿を現した。
「気づいていたのか。」
1人が声を出す。
「当たり前だ。僕たちがこの町に入ったときからぴったりと張り付いてくる視線に気づかないわけないだろう。」
「えー、僕は全然気が付かなかったよー。可愛い子探すのに夢中だったからさー。」
わざとらしく驚くアイザック。
「それで?」
アイザックをスルーして、紗羅は覆面男の1人に問う。
「?」
「僕たちをつけて来たってことはそのままお前たちの頭の所へ案内してくれるのだろう?わざわざ監視までして、用意周到だな。」
紗羅が嫌味を含んで言うと、覆面男たちは視線で合図し、紗羅達について来るように言った。
狭い路地を抜けた先に1件の湯屋があった。覆面男達は辺りを警戒しながらその中へ入り、男湯へと向かう。
「?風呂でも入りに来たのかなー?よかったー、ちょっと汗かいて気持ち悪かったし。」
アイザックが上機嫌になったが、覆面男たちは男湯へと入らず、その隣にある棚を動かした。
すると、棚の下から地下へとつながる扉が出てくる。その扉を引き上げて、覆面男たちは地下へと入っていった。
(あの扉は誰が閉めるのだろうか?)
紗羅が背後を気にしながら地下へと入ると、後には誰も残っていなかったはずなのに、ひとりでに扉が閉まり、地下への道が一気に暗くなった。
ポッと、先頭の者が魔法で明かりを灯し、どんどんと地下へ進んでいく。
しばらく歩くと再び目の前に扉が現れ、先頭の者が何か呪文のようなものを唱えていた。声が小さく何を言っているか聞こえはしなかったが、紗羅は取り留めて気にもしなかった。
男が呪文を唱え終えると、扉が開き、中の部屋へと入っていく。
そこには数十人はいるであろう覆面の男たちが待機していた。その最奥には紗羅とアイザックが先日あった男が立っていた。
「熱烈な歓迎、痛み入るな。」
紗羅が最奥の男に向かって話すと、男はニヤリと笑った。
「随分と派手に動いたようだな。まさか、お前たちが例の神獣の主の仲間だとは思わなかったぜ。」
低く、力のある声が部屋に響く。
「神獣の主の仲間だと、何か問題でもあるのか?たしか、ジークス、とか言ったかな。」
敬称をつけず、傲岸不遜な態度で返す紗羅に、覆面の男たちがざわつく。
「なんだあの者は!」
「頭領に対してなんて無礼な!」
「そもそも何故頭領はあんな奴を仲間にしようなどとっ。」
口々に紗羅を罵る声が聞こえる。
「お前たち、うるさいぞ。」
ジークスの隣にいた男が覆面の男達を黙らせた。
「頭が仲間に入れると一度言ったんだ。俺たちに文句をつける権利はない。」
「悪いが・・・。」
ジークスの隣の男が覆面男たちを説得しているところに、紗羅が割って入った。
「僕たちは“アカツキ”に入るつもりはない。」
「「「「「!!!!??」」」」」
紗羅の言葉に唖然とする覆面の男達――――顔は見えないが、空気がざわついた。
「・・・何故だ?」
ジークスだけが表情を変えず、紗羅に問う。
「ご存じのとおり、僕達は既に雇われの身だ。他の者に仕える気は毛頭ないよ。」
「ではなぜ、ここへ来た?」
ジークスが問うと、紗羅はゆっくりとジークスへ向かって歩き出した。それを見た覆面男たちが紗羅に襲い掛かろうとするとを、ジークスが右手を広げて制止した。
紗羅はジークスの目の前に立つと、ニッと笑って見せた。
「僕に協力してほしいんだ。魔法兵団“アカツキ”の首領、ジークス。」
◆ ◆ ◆
―――――風の国の王都ウェンディにある、王城で、絢爛豪華な衣服を身に纏った男が、これまた贅の限りをつくした美女に震えてすがりついていた。玉座の間の中は甘ったるい匂いに包まれており、白い靄がかかっていた。
「よ、余はどうすればいいのだっ!臣が、民が余を攻めておる!余を殺そうとしておるっ!!」
「御可哀想な陛下。貴方様は何も悪くはございません。陛下を攻める臣が悪いのです。陛下を逆恨みしている民が悪いのです。そして何より、陛下を廃しようともくろむその、神獣の主と言われている男が悪いのです。どうか陛下、我が風の国の栄華のためにも早くその男と一味を討伐なさってください。」
美女はそう言って男を撫でるとニイッと口の端をあげて歪んだ笑みを浮かべた。
「そ、そうだ、余は悪くない。偽りの神獣の主とやらがすべての元凶なのだ。誰にも渡さぬ!!この城も、玉座も、この国も、すべて余のモノだ!!!!何万という民を犠牲にしようとも、余は王であり続けるっ!!」
男はそう言い放つと、高笑いを玉座の間に響かせた。
男の名はゲイル・ウィンド。風の国の現国王。そしてゲイル・ウィンドのそばにいた美女こそ、風の国をここまで追い込んだ最凶の悪女、ゲイル・ウィンドの妾妃、アナスタシアである。
「イーザック将軍を呼んで参れ!」
ゲイルが近くにいた内官にそう告げ、ギラギラとした目つきで城から王都を見下ろした。
「そうだ、全て余のモノだ。渡してなるものか・・。」
その後ろで、アナスタシアがそばにあった香炉を仰ぎ、白い靄をゲイルの方へ飛ばしてその靄でゲイルを包んだ。すると、ゲイルの顔が更にも増して、まるで飢えたかのようにギラつき、息が荒くなっていく。アナスタシアはゲイルの変貌ぶりをクスクスと笑いながら見ていた―――――
えーと、再開したばかりですか、少しお休みします。すみません。1週間くらいでまた再開しまーす。




