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*第91章~演出~

 


紗羅とアイザックは風の国の首都ウェンディのすぐ隣の町についた。都の側であるにもかかわらず、町は閑散としており、そこら中に飢えた民たちがいた。風の国の影の王国からの浸食は激しく、大地が穢れ、作物がほとんど育たない状況だった。それにも拘わらず、年々税は重くなり、民は飢えや疫病で次々に死んでいき、今年だけでも30万の民が命を落としていた。

 「ひどいな・・・。」

 町を歩く人々は皆虚ろな目をしていた。皆、この国に絶望していたのだ。どこの国にも貧困の差はあるが、この国はその最たるものだ。目立たぬよう、慎ましい服装をしてきた紗羅達だが、それでも付近の住人達の姿に比べれば裕福に思えるのか、紗羅達はいつの間にか物乞い達に囲まれいた。年老いて背が曲がったものから、シーラよりも幼い子供達までおり、皆が痩せ細り、骨と皮だけになっていた。

 「み、みずを・・・。」

 「お願いします、もう10日も何も食べていないのです。」

 「子供が病気で精をつけねばならぬのに、食べ物がないのです。」

 「どうか、御恵みを。」

 「お恵みを。」

 紗羅とアイザックに次々とすがりついていく民たち。先を急ぐ紗羅達であったが、民を振り払うことが出来なかった。

 「井戸は、ないのか?」

 紗羅は民を落ち着かせながら聞いた。が、皆虚ろな表情のまま首を横に振る。

 「あちらにありますが、魔に侵され、毒水と化してしまって、飲み水としてはおろか、作物にも掛けれません。その毒水さえも、日照り続きでわずかしかありません。」

 目の前にいた婦人が東を指差しそう答えた。紗羅はすがりつく民たちに、ついて来るように言い、その井戸へ向かって歩き出した。飢えた民たちは訳が分からず、ただ紗羅の後をついて行った。


 紗羅が井戸の前に着くと、【収納(ストレージ)】で魔道書を取り出し、右手を井戸の上に出して目を閉じた。


 「我、唱える者。悪しきモノを取り払え。【浄化カタルシス】。」

 紗羅の右手から眩い光が飛び出し、井戸だけでなく半径100メートル程を真っ白な光で包んだ。民たちはまぶしさのあまりに目を瞑り、再び目を開けると、先ほどまで黒い靄がかかっていた井戸がきれいになり、井戸の中を覗くと濁っていたはずの井戸水が浄化され、透き通った真水に変わっていた。

 「おぉ、水だ!!」

 「井戸の水が飲めるぞぉっ!」

 民たちは目の色を変え、我先にと井戸に集まる。

 「静まれっ!!!」

 少量の井戸の水を求めて、民たちが争うとするのを、紗羅が大声を上げて、制止した。

 「争わずとも、水の量を増やしてやるから、しばし待て。」

 そう言うと、魔道書のページを捲る。


 「我、唱える者。天より我が指すモノへ撃て。【放水(ウォーター)】。」

 そう言い、井戸を指差すと、突如空から大量の水が勢いよく放たれ、あっという間に井戸を満水にすると、勢いがありすぎて、そこら中を水浸しにしてしまった。

 「うーん、すこし魔力を入れすぎたか。量を誤ってしまったな。」

 不満そうに紗羅が呟く傍らで、何が起こったか分からない民たちは一瞬放心していたが、井戸に、皆にいきわたる以上の真水があるという事実を理解すると、先ほどまで水をめぐって争っていた隣人と手を取り合って喜びを分かち合っていた。


 「さて、これだけではないぞ。」

 皆が幾日ぶりの綺麗な水を飲んでいると、先ほど【浄化(カタルシス)】で浄化された範囲にある畑の方へ向かって歩いた。その畑は10メートル四方の大きさで、紗羅が浄化したおかげできれいな状態だったが、作物は何も育っていなかった。

 「この畑は誰のものだ?」

 紗羅の後をついてきた民たちに向かって問う。

 「誰のモノでも。既に持ち主は飢餓でしんでおり、死の畑となってしまったものを欲しがる者はだれもいませんでしたから。」

 おずおずと、老年の男性が答える。

 「そうか。実はこんなこともあろうかと、種を持ってきたんだ。」

 そう言って紗羅は背に負った荷物の中から麻の小袋を取り出すと、畑にまきだした。

 「そんなことをして、どうするの?今種をまいたからって、この人たちの飢えが解消されるとは思わないけど。」

 黙って事の成り行きを見ていたアイザックが口を開いた。

 「フフ、まぁ黙って見てろ。ジュリアからいい魔法を習ったんだ。」

 一通り種を蒔き終えると再び魔道書を取り出した紗羅は先ほど浄化した井戸から汲んできた水に手をかざした。


 「我、唱える者。我が魔力を持って、植物を育む水となれ。【過度成長(グロウズウォーター)】。」

 その瞬間、無色透明だった水が濁った紫色になった。

 「さぁ、風たちよ。この水をこの畑にまんべんなくかけてくれ。」

 『かしこまりました、陛下。』

 紗羅は、この国に来た時から紗羅の身を包んでいた風に語りかけ、その風も紗羅にしか聞こえない声で返事をすると、紗羅の持っていた紫色の水の器から、水だけを浮かび上がらせ、その水を一瞬で霧のように分散させ畑の隅々までいきわたらせた。

 紗羅以外の人間から見れば、紗羅が誰もいないところに語りかけた後、突然水が浮き上がり、瞬く間に分散したかのように見え、皆何が起きたのか分からないという顔をしていた。

 「さぁ、皆、畑を見なさい。」

 紗羅が畑を指差すと、先ほどまで何も生えていなかった畑から、一斉に無数の芽が出始め、見る見るうちにその目は成長し、やがて、たくさんの実をつけた。

 「き、奇跡だ・・・。」

 「こんなことありえるのか?」

 「食い物が、こんなにたくさん生るなんて・・。」

 念願の食べ物が目の前に、それもたくさんあるというにも拘わらず、飢えた民たちはただただ呆然とその場に立ち尽くした。


 「結構大きな畑だったからな。種をたくさん蒔くことが出来てよかった。ここに生えた作物は皆で分け合え。だが、こんなにたくさん生えていても限りがあるからな。少しずつ食べても1週間分ほどにしかならないだろう。そしてこの水は植物の成長を早める代わりにその畑の栄養を過度に吸いすぎて、しばらく畑が使い物にならなくなってしまう。他の畑でこれを使う訳にはいかないからな。他にこの近くに持ち主のいない畑はないか?」

 紗羅が辺りを見渡すと、おずおずと、1人の婦人が手を挙げ、西の方を指差した。

 「あちらに・・・。随分前に持ち主がなくなってしまった畑があります。」

 紗羅が目を凝らすと、先ほどの畑より少し小さめな畑が見えた。

 「よし、ではそこの婦人、これとこれを持て。」

 紗羅はそう言うと、畑の場所を教えた婦人を呼び、麻の小袋と再び【過度成長(グロウズウォーター)】の魔法をかけた水を入れた桶を渡した。

 「この水を真水で10倍に薄めて、その畑にこの袋に入っている種と共に蒔け。そうすれば、だいたい1週間~10日程度で実がなる。少しだけ時間はかかるが、薄めた水だと、畑にかかる負担もその分軽い。この畑はあと10年は何も育たなくなるだろうが、その水であれば1年くらいで畑は復活する。その種は腹持ちがいい穀物の種だ。栄養は偏るだろうが、しばしの辛抱だ。次期にこの国はよくなる。それまで耐えてくれるか?」

 紗羅は民に優しく語りかけた。

 「あ、貴方様は一体何者です?何故我らにこのようによくしてくれるのですか?」

 種と水を受け取った婦人が尋ねると、紗羅は優しく微笑んでいた顔を引き締め、くるりと集まった民たちの顔を見渡す。

 「最近、この国の神獣が戻ったという噂はしっているか?」

 紗羅の問いに何人かが頷く。

 「その神獣の主たる者が、この国の現王を廃し、真の王となるべく奔走している。我らはその仲間だよ。僕が風を操る力を持っているのも、その方の恩恵があるからだ。」

 黙って聞いていた民たちがざわつき始める。希望を持った者、少なからず神獣を連れ去った当の本人に恨みを抱く者、皆表情がまちまちだった。

 「神獣の主は、実はこの国の現王のせいで、この世界から1度消えてしまった。神獣はその唯一無二の存在である主を救うためにその者と一緒に行ってしまったんだ。すべての元凶は現王にあり!神獣の消えたこの国を守っていた馬の聖獣を殺したのも愚かな現王と、悪しき妾妃だ!神獣の主はこの国をきっと飢えることのない、豊かな国にすると約束してくれたんだ!!」

 さらの力ある声に、先ほどまでざわついていた空気が一変、張り詰めていた。

 「ゆえに、皆、もうしばらく耐えてくれ。」

 紗羅の話が終わり、放心していた民たちは正気に戻ると、皆次々に地べたに這いつくばり、紗羅達に平伏した。

 「我が風の国の真の王の使者様に度重なる無礼、お詫びいたします。どうか、この国を、正しい方へお導き下さいませ!」

 紗羅から種と水を受け取った婦人がそう言うと、皆声を揃えて「お導き下さいませ!」と言った。

 

 紗羅とアイザックは顔を見合わせると、婦人にこの場を任せ、名残り惜しむ民たちに別れを告げ、町の奥へと消えていった。


アイザックさん、そばにいるのにほとんど出番なし!出番を作る隙がなかった!

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