06-05.微妙な距離感
「クーちゃん!!!」
ママはすぐに気付いてくれた。
一瞬だった。私の反応出来ない速度で真正面から抱きついてきた。
避ける間も心の準備をする間も無かった。
……ママはいつも勝手だ。久しぶりに会うのに話もさせてくれないなんて。あんまり強く抱きしめるものだから窒息してしまうかと思ったわ。
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私たちは領主邸のリビングに場所を移した。
「……」
「クーちゃん、コアラみたいになっちゃった」
……ぐすん。
「ありがとう♪ アヤメちゃん♪ 遊びに来てくれてとっても嬉しいわ♪」
ママも英雄王女の噂は聞いていたようだ。私たちに移動手段がありながら会いに来ないことまで知っていた。なんならアヤメのことまで知っていた。侯爵邸の誰かが報告を送っていたのかもしれない。
「いえいえ♪ わたしもずっとお会いしたかったです♪」
「アヤちゃんも気軽にママって呼んでね♪」
「嬉しいです♪」
「気軽に♪」
「ありがとう♪ 母さん♪」
「うふふ♪ こちらこそ♪ アヤちゃん♪」
……仲良し。
……なんだかなぁ。
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「アヤちゃん器用ね~♪」
「えへへ~♪ 母さんも上手だよ~♪」
……イチャイチャしてる。
二人でキッチンに並んで。まるで本物の母娘みたいに。
「クーちゃ~ん! それ取って~!」
……。
「クーちゃ~ん? ……クーちゃん? お~い。クーちゃんや~い」
「……なに」
「それ取って持ってきて。クーちゃんも一緒にやろ。そんなとこで腕組んで不貞腐れてないで」
……なによ。そんな言い方しなくたっていいじゃない。
「あっ! クーちゃん! どこ行くの!?」
知らないもん……。
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「クーフェリア。元気がないのう」
「お祖父様……お久しゅうございます」
「どうか許してやっておくれ。オフィーリアを」
「……違うのです」
「……そうか。よく来てくれたのう。クーフェリア」
「はい……お祖父様。暫くの間お世話になります」
「自分の家と思って過ごすがよい」
「ありがとうございます」
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侯爵領は良いところだ。アルミディアの中でも一番だと言いきれよう。土地は豊かで治安も良く、人々は活気に満ち溢れている。
「嬢ちゃん♪ そこのべっぴんさん♪」
領都を歩いているだけでそこかしこから呼び止められる。
「やぁ~♪ フィリアちゃんの娘さんかい♪ お母さんの若い頃にそっくりだ♪ ほれ♪ 持っていきな♪」
自己紹介するまでもなくママの娘だと気付いてもらえる。
どうにも子どもの頃のママは、常日頃からこの領都を遊び歩いていたようだ。
侯爵の孫娘が一人で出歩いていても誰も気にしない。慣れた様子で声を掛けてくれる。手土産を渡してくれる。
こういうの、小説とかでは見たことあるけど体験するのは初めてだ。私は殆ど王都の方の侯爵邸から出してもらえなかったし。精々庭や城くらいしか行けなかったし。
……ママだけズルい。自分は物語の主人公みたいに暮らしてばっかり。反面私は魔王だ。自分で選んだ道だけどさ。
……別に本気で妬んでるわけじゃない。今だけ。ほんの少しだけ。拗ねてるだけだ。ママに側付きまで取られちゃったし。こんなことならユキノに声かければよかった。
「クー様」
っ!?
「ユキノ……ついてきてたの」
「はい。ずっとお側におりました」
気付かなかった……。
「……流石ユキノだわ。話しかけるタイミングまで完璧ね」
「クー様のお気持ちをわからぬユキノではありません」
「アヤメはクビにしましょう。ユキノに側付き復帰を命じるわ」
「はい。謹んで拝命いたします」
あら。容赦がないのね。
「……え? あれ? なんでユキノがここに?」
いや。ちょっと待って。おかしいでしょ。
私はアヤメと二人でこの侯爵領に来たのに。
ユキノは王都の侯爵邸に置いてきたのに。
ユキノには転移や神獣のような移動手段なんて無いのに。
「イロイ様にお連れいただきました」
イロイも来てるのね……。
そしてまたしても完璧だ。
「まさかと思うけど、イロイを同化させているの?」
「はい。イロイ様もユキノの中におります」
『ハロハロ~♪』
いつの間にそんな仲良くなったのよ……。
『お邪魔だったら外そうか?』
「そこまで気を遣わなくたっていいわよ」
『りょ♪』
……イロイもありがとう。
『どいたま~♪』
「さらっと心を読まないでほしいのだけど。フィリア。いったいどういうことかしら?」
『前に言ったでしょ。フィリアスには独自のネットワークを作る力があるんだよ』
『そういうことよ♪』
「つまりフィリアが私の心の中身を放流しているのね」
『フィルターは掛けてあるわ。フィリアが必要と判断したものだけよ』
そりゃどうも。お気遣い感謝するわ。
「帰りましょう」
「はい。クー様」
『え~! 我もっと見ていきたかったのに~!』
「別にいいわよ。フィリアを貸してあげるから二人で観光でもしてきなさい」
「仕方ないわね。本当は嫌だけど付き合ってあげるわ。仕方なく」
「酷いよフィリア~」
とかなんとか言い合いつつも、フィリアとイロイは早速連れ立って人混みの中に消えていった。
あの二人も仲良いわよね。
「参りましょう。クー様」
「ええ。手を引いて。ユキノ」
うんと甘えてしまおう。ママとお姉ちゃんが嫉妬して自分から私に絡んでくるまで見せつけてやるんだから。




