05-23.偵察
「見えましたわ! あれが鬼ヶ島ですの!!」
モミジから話を聞き終えた私とクラリスは、宴会に出席する前に敵の本拠地を調べてみることにした。
白黒結界を起動して時間の止まった空間をドラコーに乗って移動する。
波すら止まった海上に、ポツンと小さな島が見えてきた。
白黒結界の弱点は全てが白黒になってしまうところだ。
つまり火が焚かれているかどうかが見えないのだ。些細な問題だけれど、上から見た時の印象は実際のものとは大きく異なってしまう。そういう意味では偵察に向いていない。
もちろん結界を一時的に解除する方法もあるけれど、魔術の発動を繰り返せば誰かに気付かれてしまうかもしれない。今は相手の情報も不足している。このまま地面に降りて自分たちの目で確かめた方が堅実だ。
「降りましょう」
「がってんですわ!」
いつの間にクラリスもその返事を使うようになったのか。
フィリアスたちの影響は着実に私たちを染め始めているようだ。
『あら。クーは臆病ね。そんなことを怖がるだなんて』
別に怖いって程でもないんだけどさ。
『そうね。少しビビってしまっただけよね』
悪かったってば。フィリアを忌避してるわけじゃないんだってば。
『わかっているわ。ええ。全部わかってる』
だいたいフィリアだって。
『そうよ。フィリアはクーの影響で変わったの。フィリアはフィリアスだもの。フィリアスとはそういうものよ。宿主と共生するためにその在り方は変化していくものよ』
……そんな言い方は嫌だわ。
『クーが大好きだから真似たの♪ フィリアはクーに近づくの♪ クーをフィリアに近づけたいの♪ 素敵でしょ♪』
……うん。そうね。
『アヤメにだって負けないわ♪』
そこよ。なんでお姉ちゃんを真似なかったの? 私が一番好きな人を真似た方が私の一番に近づけたんじゃない?
『ノンノン♪ クーはまだまだお子ちゃまね♪』
む~……。
『ふふふ♪ いいわ♪ そうやってむくれていなさい♪ その分だけフィリアのことを意識せざるをえないでしょ♪ いっぱい考えなさい♪ フィリアに夢中になりなさい♪』
くっ! 私の中に住み着くのはこんなんばっかね!!
『呼んだ?』
呼んでない!!
『ひどい……』
何よ。浮気者。お姉ちゃんのとこ行ってたんでしょ。なんで戻ってきたの?
『だってクーちゃんが……』
お姉ちゃんを口説くことは許可したわ。だからって何日もこっちを空けて私を蔑ろにして良いとは言ってないわ。
『クーちゃん♪』
デレてない!!
『まだ言ってないよ!?』
「クーちゃん。どうかしましたの?」
「ううん。行きましょう。クラちゃん」
二人仲良く手を繋いで歩き出す。
ドラコーは再びクラリスの中に入り込んだようだ。すっかりその場所が気に入ったらしい。
「クラちゃんは変わらないでね。私の大切な親友のままで居てくれなきゃ嫌よ」
「もちろんですわ♪」
ここで何の話かなんて聞いてこないのがクラリスの良いところだ。
「にしても驚いたわね。これじゃあ小さな町じゃない」
まさかオーガたちがこれ程までに文明的な生活を営んでいるとは思わなかったわ。
「あまり鬼ヶ島といった感じはしませんのね」
だね。鬼の顔した洞窟だとかも無いし。
普通に島の上にいくつもの家が建てられているのよね。
「もっと奥へ行ってみましょう。ボスの根城に潜り込めば色々わかる事もあるでしょうから」
「がってんですわ♪」
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「フィリアス……じゃない」
人間だ。オーガを纏めていたのは一人の人間だ。
時間が止まったモノクロの状態でもわかる。こいつ強い。
見た目はボロを纏い、一本の刀を携えた年齢不詳の男だ。ともすれば、浮浪者とも見られかねない風体だ。
しかし呑気に近づけば、容赦なく首を落とされる。そう伝わってくる。時間ごと止まっているとわかっているのに、足が竦んで近づけない。
「へ、へんですわ……何故人間の殿方がオーガたちと……」
「ダメよ、クラちゃん。近づかないで」
「は、はいですわ」
……どうしよう。
明日はこいつに勝ってオーガたちも殲滅しなくちゃならないのだ。間違いなく戦いになる。私の結界を斬れるとは思えないけれど、何故だか確信も持ちきれない。もしかしたらこの男なら結界だって関係なく切り捨ててしまうかも……。
『そんな筈はないわ。【断空】が引き起こす事象は空間の断絶よ。たかが剣士の攻撃が通用する筈無いじゃない』
わかってる……わかってはいるのよ……けど……。
『いいわ。なら明日はフィリアが戦ってあげる』
え……?
『任せておきなさい。クーは強いんだってこと、皆の前で証明してあげるから』




