05-18.勇気の一歩
クラリスとの仲を深めるに当たって方針を考えた。
先ずは観察だ。今週末の討伐まで、私はクラリスの一日をより近くで見直してみることにした。
先日からクラリスは侯爵邸で暮らすようになった。
それからの彼女の一日は、当然殆どが私の眼の前で送られているものだ。今更改めて観察を要さねば彼女の人となりがわからない程に距離があるわけでもない。もちろん私たちの関係は良好そのものだ。親友と表現してもいい。アヤメとヒマリ、ノーラとルヴィの仲良しっぷりにも負けてはいない。
『要するに趣味ってこと? ストーカーさん』
うっさい。
私の憩いの時間を邪魔しないで頂戴。お邪魔虫。
『ひどい……』
自分から喧嘩売ってきたんじゃない。
『クーちゃんが暴言を吐く時って、本当に機嫌が悪い時以外はだいたい照れ隠しだよね』
誰にでも当て嵌まる話でしょ。あなた女神から占い師に転職したの? バーナム効果なんてものに頼らなければ私を見通すことも出来ないのね。だから二千年経っても半人前女神なのよ。
『グサグサ刺してくるね。段々遠慮が無くなってきたよね』
少し黙っていて頂戴。今良いところなんだから。
「~♪」
『わざわざ透明化結界まで使って覗いてないで、一緒に入ればいいじゃん。お風呂くらい。今更なんだし』
行くわよ。後から。
『覗きは別腹なの?』
覗き魔はイロイでしょ。私のは観察よ。目的があるのよ。
『目的ねぇ~』
お姉ちゃんのとこ行ってなさいよ。今だけ貸してあげるから。
『言いつけちゃうよ?』
仕方ないわね。見ていたいならそう言いなさいよ。
『言ってないよ?』
……。
『真剣に見すぎ。あのツルペタボディを眺めて何か』
ウルサイ。
『ゴメンナサイ……』
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「く、クー殿下!? 入ってらしたんですの!?」
「あら。いらっしゃい、クラリス。どうぞ。隣に来て頂戴」
「そ、そんな! 恐れ多いのですわ!!」
『……親友?』
うるさい。
『わざわざクラリスが身体を洗っている間に、浄化結界で洗体スキップして浴槽に先回りしたのに』
う・る・さ・い!
「ほら。クラリス。そんな所に立っていては風邪を引いてしまうわ。いらっしゃい」
「い、いえ! わたくしは! くちゅん!」
可愛い。
『あざとい』
……。
『……ごめんて』
「……わかったわ、クラリス。なら私は御暇するわ。どうぞゆっくり浸かって」
「い、いえ!! ご一緒させて頂くのですわ!!」
良い子。
『クーちゃん、意外とテクニシャン』
……。
『褒めたのにぃ~……ごめんてばぁ~……無視はやだよぉ』
大人しく見ていなさい。私がクラリスを口説くところを。
『はぁ~い』
「し、失礼いたしますわ」
恐る恐る湯船に入ってきたクラリス。
まだ若干距離がある。
私はさり気なく、少しだけ近づきながら、そうと気付かれないよう、クラリスに話しかけた。
「訓練の調子はどう? ユキノは厳しくしすぎていないかしら?」
「絶好調ですわ! ユキノ様もとてもお優しいのですわ!」
ほう。あのユキノが優しいと。
いえね。ユキノは優しいのよ。それはもちろん間違いないわ。疑う余地も無いことね。
ただね。クラリスはとても優秀なんだもの。加えてユキノと同じ水属性よ。少々訓練に熱が入りすぎていたとしても無理からぬことよね。
けれどクラリスの様子を見る限り、本当に厳しいとは思っていないようだ。ふむふむ。これは早速観察の成果ね。私はまた一つ、クラリスの事を知れたのね。
『一つ目はぷりちーなお尻? クーちゃん尻フェチなの? しかも小さいのがいいの? だからボンキュッポン女神様にはあんまり興味がないの? ねえ? ないの?』
イロイって本当に反省しないわよね。学習能力そのものが欠如しているんじゃないかしら。
『くっ……反撃の威力が高い……』
やっぱり構うから調子に乗るのよね。
『無視だけはやめてぇ~!』
「く、クー殿下は如何ですの!? 既に二体の大物を仕留められましたわね!!」
クラリスはチラッチラッと私を見つつも、真っ赤になって視線を逸らしてしまった。
照れてしまって目を合わせられないようだ。
裸の付き合いも初めてなわけではないのに。二人きりなのは初めてだけど。
「ええ。ワイバーンは聞いたことも無い程の巨体だったわ。魔獣たちが急な成長を始めたという話も真実ね」
「それは……」
深刻な表情で俯くクラリス。
「我々が転生したのは……」
「イロイ。関係はあるのかしら?」
『あるっちゃあ、あるよ』
イロイがクラリスにも聞こえるように念話で答えた。
「他にも理由があるんですのね」
『まあね~』
「それはこの世界の存亡に関わることなんですのね」
『どーかな~』
「わたくしたちはクー殿下の道行きをお支えする為に呼ばれたんですのね」
『それは合ってる』
「ならば結構ですわ。わたくしはクー殿下に忠誠を誓いました。クー殿下のお供となる運命なれば本望ですわ」
クラリス!!
「わわっ!? く、クー殿下ぁ!?」
「あ~! もう♪ どうしてこんなに可愛いのかしら♪」
ぎゅっぎゅ♪ スリスリ♪
ちみっこくて抱きしめやすいのも高評価よ~♪
「わわわぁ!?」
「大好きよ♪ クラリス♪」
「えぇ~~~~~!?!?!」
「私に忠誠を誓うというなら命じるわ♪ 今晩私の抱き枕になりなさい♪」
「そそそそそそれって!?!?!?!」
「パジャマパーティーよ♪ お友達と言えばよね♪ いいでしょ♪ 私たち親友だもの♪」
「きゅ~~~~~……」
……ありゃ?
「……これが鈍感系主人公ってやつかしら」
ちょっと……ううん。凄く勇気を出したのに……。勢いで誤魔化しながらだけど頑張ったのに……。
私だってクラリスは初めての自分だけの友達……みたいな存在だったから……。
「落ち込んでないで。介抱が先よ」
私の中からフィリアが飛び出してきた。
フィリアは私の代わりに意識を失ったクラリスを抱き上げて、脱衣場に向かって歩き出した。




