05-16.新たな力
「こいつね。結構デカいわね」
ダンジョンに一匹。ポツリと残されたワイバーン。
周囲の魔獣たちが一斉に消え去ってしまい、明らかな狼狽を示している。まだ私たちには気付いていないようだ。隠蔽結界は問題なく機能している。
「なんだか可哀想だね。このまま仕掛けるの?」
同情は不要よ。フィリアスでもあるまいし。だいたいアイツは人も家畜もわんさか食らってるんだから。
「急ごう。ダンジョンから逃げ出したら面倒な事になるよ」
「入口塞いでもらったら?」
「必要ないわ」
白黒結界を起動する。
それからワイバーンの後方へと近づき、結界の中に引きずり込んだ。
「これで逃げられないわよ」
「言ってないでっ!!」
慌てたお姉ちゃんが私を抱えて飛び退いた。
一瞬前まで私がいた辺りをワイバーンの尾が薙ぎ払った。
即座に背後の私に気づいたらしい。隠蔽結界を張っているのにどうやって気づいたのかしら。
『クーちゃんが喋ったからじゃん』
……それもそうね。
足音なんかは聞こえていないのでしょうけど、声は外部にも伝わるようにしていたものね。身に纏う形の結界だから、こればかりはね。
声は身内同士だけで伝わるように改良できないかしら。……条件指定が難しいわね。同じ結界を纏っている者同士に限ってしまうと、他の誰かに声が届かなくなってしまうもの。
もし万が一、見知らぬ誰かが逃げ遅れていたとして。その人に注意喚起の声が届かなかったとして。そんな場面が無いとも言い切れないわ。この隠蔽結界は戦場でだって使うものだもの。
『念話はどうかしら♪』
それよ♪ ナイスアイディアよ♪ フィリア♪
私はすぐさま結界の設定を書き換えた。
この場にいる私、アヤメ、ヒマリ、そして他の家族が常に身に纏う【常装結界】には様々な効果が付与されている。
隠蔽の効果はその内の一つだ。これらの設定はいつでも私の意思で変更が可能だ。
『なぁにこれぇ~……不老化まで付与されてるわぁ~……』
フィリアったら引いてるの?
『フィリア♪ いずれ慣れるよ♪』
イロイはもう慣れたのかしら。
『うわ!? 何か聞こえてきた!?』
お姉ちゃんとも無事に繋がったわね。念話機能の追加も成功ね。
『念話♪ 便利だよね♪ というか今の誰!?』
オープンチャンネルなのかしら? 設定の詰め込みが甘いわね。
『任せて♪ クー♪』
あら。受け持ってくれるのね。ありがたいわ。
そろそろ自分でも何を仕込んであるのか管理しきれなくなってきていたし。
『『クーちゃん! 今の誰!?』』
誰? フィリアが……ああ。
『我は女神様なり♪ 敬え~♪』
『お前かぁ!!!』
お姉ちゃんうるさい。
念話でもボリュームバグってるのね。お姉ちゃんだけミュートしちゃおうかしら。
『する?』
冗談よ。絶対にしちゃダメよ。お姉ちゃんの言葉は全て私に届けなさい。
『がってん♪』
騒がしくやり合うイロイとお姉ちゃんの声をBGMに、私とヒマリはワイバーンへ挑みかかった。
今回も剣での戦いだ。ヒマリは私の意図を正確に汲み取りながらサポートしてくれた。
めっちゃ戦いやすい。なにこれ。新感覚。
『クーちゃん! トドメ!!』
『ええ! やるわよ!!』
「「はぁぁぁぁぁあああ!!!」」
二人のコンビネーションが見事にハマり、ワイバーンはついに倒れ伏した。
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ワイバーンの亡骸をアヴィスに運んでもらい、討伐完了の報告と共に亡骸のごく一部を提出して、王都に帰還した。
それからワイバーンの残りをお兄ちゃんの部下に預けて、ようやく侯爵邸へと帰ってきた。
「おかえりなさいませ。クー様」
「ただいま。ユキノ。変わったことはなかったかしら?」
「いえ。……強いてあげるならば、少し前にクー様たちのお声が頭の中に直接届いたことでしょうか」
あら。念話はこっちにも届いてしまったのね。
お姉ちゃんとイロイったら、白黒結界を解いてからの帰りのアヴィスの上でもやり合っていたものね。
私も検証のために色々試していたし。それがユキノたちにも聞こえていたのね。
「騒がしくしてしまって悪かったわね」
「構いません。よろしければ今後も」
「いいわ。ユキノには全てを伝えましょう」
「感謝いたします。クー様」
ふふ♪ これまで以上に沢山お話しましょうね♪




