05-14.契約
「でへ♪ でへへ~♪ 初めての挑戦者~♪」
万全の準備を整えて白黒結界の内にダンジョンボスを招き入れた。彼女はそうとも知らずに独り言を呟いている。
「あ~ん♪ も~♪ 迷っちゃ~う♪ ま~ず~は~♪ う~ん……? ありゃ? コアは? え? えぇ?」
「お探しのものはこれかしら」
「へ? ……え?」
空っぽな自分の手と、私の手元にあるダンジョンコアを見比べるダンジョンボス。
「なっ!? なななななな!?」
「私のものになりなさい。貴女も強者なら勝者が誰かはわかるでしょ」
「えぇ~~~~~~~~!?!?!?!」
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「ぐすん……酷すぎるぅ……デビュー戦だったのにぃ……」
とか言いつつ素直に正座で恭順を示すダンジョンボス。
ちょっと変な子ね。
「あなたは今から『ユカリ』よ」
「ちょっと」
もう。またなのお姉ちゃん。
「なんでよりにもよって、わたしの前世の名前なのさ」
「もう使わないでしょ。いいじゃない。あげちゃいましょ」
「なんてこと言うのさ!? 前世の母さんに貰った大切な名前だよ!?」
「ごめんなさい。失言だったわ」
確かにそうね。お姉ちゃんの言う通りだわ。
「なら『アイリス』にしましょう」
「それもわたしの名前じゃんかぁ!?」
「しかもまだ使ってるやつだね。アヤちゃんの公的な名前はアイリスの方だし。クーちゃん、どうしても大好きなお姉ちゃんと関連付けたいんだね」
「いいじゃない。アイリスは孤児院が便宜的に付けた名前でしょ。こっちでの本名はアヤメなんだから。登録の問題なら私が申請を出しておくわ」
「そういう問題じゃないってばぁ! 他のにして!」
「ぐすん……名付けまでぞんざい……」
ほら。アヤメがゴネるからこの子泣いちゃったじゃない。
『クーちゃん……流石に傍若無人が過ぎるよ……』
なによ、イロイまで。
私は身の回りの全てをお姉ちゃんで固めたいだけよ。
『なんか間違ってるよぉ~。愛の出力の仕方がおかしいよぉ~』
もう。仕方ないわね。
「なら貴女の名前は『アリス』よ。契約を結んで頂戴」
「もうちょっとどうにかならない? ただでさえ、アイリスとクラリスで被り気味なんだしさ……」
「お姉ちゃんはもう黙ってて!」
「「「『理不尽……』」」」
なによもう! どいつもこいつも!
「ならさ、クーちゃん。わたしが名付けてもいいかな?」
「その手があったわね。いいわ。お姉ちゃんが決めなさい」
ふふふ♪ なんだか私たち二人の子どもみたいね♪
「えっと……」
「ユカリン?」
「「ちょっと。邪魔しないでよ、ヒマリ」」
「ごめんなさ~い~」
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「決めた! 決めたよ! クーちゃん!」
「あ、それロン」
ふふ♪ 麻雀って面白いのね♪
「また飛んだぁ~~~!!! うわ~~~ん! これで十回目ぇ~~!!」
賑やかね。
「この子クソ雑魚だね」
ヒマリ。流石に言い過ぎよ。
「よわよわ」
ヒマリンも言うわね。
「聞いてよ!! みんな!!」
あら。お姉ちゃんがようやく決めたみたいね。
「なんでもう仲良くなってるの!? 麻雀セットなんていつの間に作ったのさぁ! わたしも入れてよぉ!」
「その前に名前よ。たっぷり待たせたんだから、さぞかし良い名前を考えたんでしょうね」
かれこれ数時間は悩んでいたものね。白黒結界は解いてないから時間は進んでないけど。
「わくわく♪」
この子、なんだかんだ立ち直りが早いわね。
「じゃあ言うよ! 言うからね!」
早く言いなさいよ。
「『フィリア』! この子の名前は『フィリア』だ!」
「「「「……」」」」
「ふふふ♪ 良い名前でしょ♪」
空気読みなさいよ。皆呆れてるわよ。
「フィリアスだからフィリア? ピ◯チュウをピ◯チュって呼ぶようなものじゃない?」
「あっ! いや! 違うし! そっちじゃないし!」
今気づいたの?
とにかく何か別の理由があるのね。
それはそうと、自分の相棒に「ヒマリン」と名付けたヒマリが言えたことではないわね。
「クーちゃんの好きなもの! クーちゃんお母さんも大好きでしょ! だから『オフィーリア様』から貰ったの!」
「……」
「良いでしょ! この国の英雄の名前だよ! 別に変じゃないでしょ!」
……そうね。同じ名前の子どもなんてそこら中にいくらでもいるでしょうね。あやかって名付ける親もいるだろうし。平民が恐れ多いからって縮めるのも珍しいことじゃないし。
「……だめ? ……かな? ……やっぱりフィリアスには」
「気に入ったわ♪」
……あら。
「フィリアは今からフィリアよ♪ クー♪ 契約契約ぅ♪」
私の手を取って立ち上がらせたフィリア。
契約はすぐに完了した。フィリアは私の腕の中に倒れ込んできた。意識を失っている。これは契約の反動らしい。
「……まあ良いでしょう」
「……ごめん、クーちゃん」
「ううん。良い名前をありがとう。お姉ちゃん♪」




