05-13.異世界の吸血鬼
「何よ。他愛ないじゃない」
ダンジョンコアはあっさり手中に収まった。
「「『クーちゃん……ずるい……』」」
何言ってるんだか。揃いも揃って。
「この子がダンジョンボス? 普通の可愛い女の子にしか見えないわよ?」
時間ごと静止した一人の少女。
この少女は、魔獣たちのひしめくダンジョン、その最奥にある小部屋の中央に立っていた。
何故だかちょっと気持ち悪い笑みを浮かべている。美少女が台無しだ。まるで私を見て妄想を膨らませているお姉ちゃんみたいだ。
もしや何かに期待していたのだろうか。たとえばダンジョンを訪れた初めての冒険者に胸を躍らせていたとか。どう迎えてやろうかと思い描いていたのかもしれない。
ちょっと可哀想なことをしたわね。
『けどやったじゃん♪ クーちゃん♪ 大当たりだよ♪ フィリアスダンジョンだよ♪』
ふぃりあす? 何よそれ。
『その子がコアの使い方を知ってるってこと♪』
仲間にすればいいのね。けれどどうしましょう。コアを人質に取れば勝てるかしら?
『英雄の発想じゃないね』
魔王だもの。
『それはともかくナイス警戒心。フィリアスって滅茶苦茶強いから今のクーちゃんだと勝てないと思う』
そんなに? ……いえ。まあそうよね。魔獣たちの中にただ一人いる人型のボスとか、絶対強いに決まってるわよね。
『そういうお決まりって案外と当てはまるものなんだよ』
それでどうすればいいのよ? コアを使わないとこの子に確実に勝てるわけでもなし。かといって、この子の助力も無しにコアを操作することは出来ないのでしょう?
『取り敢えず試してみようか。ダメそうならその子に頼も』
頼むたって、従う義理も無いでしょうに。
『人質にするんでしょ?』
それしかないわね。
取り敢えずコアを弄ってみる。
コアは頭くらいある真珠のようだ。或いは軽くて若干小さいボーリング玉かしら。特段変わった所は見当たらない。どこかにボタンが付いているわけでもなし。音声による操作なんかも受け付けない。
『起動はたしか~……』
イロイに言われて色々試してはみたものの、コアは何の反応も示してはくれなかった。
「アヤメ、ヒマリ。あなたたちも試してみなさい」
アヤメは一旦コアを受け取って軽く転がしてみてから、すぐヒマリに渡してしまった。
「~♪」
あら?
ヒマリが受け取ると、コアはあっさりと輝き出した。
「にっしっし♪」
イタズラ成功♪ みたいな表情で、起動したコアを返してきた。
「ヒマリ、使い方知ってたの?」
「ちょっちね~♪」
『うん? うんん???』
どったん、イロリン。
『ヒマリ!! まさか!?』
叫んだって聞こえないでしょうが。
『ヒマリ持ってるよ! フィリアスを!!』
……は?
『ヒマリの中に! いるの! フィリアスが!!』
「どういうこと?」
「あは♪ もしかしてバレちゃった?」
「イロイが騒いでいるのよ。ヒマリの中に『ふぃりあす』が居るって」
「せいか~い♪」
ヒマリの中から小さな少女が飛び出してきた。
すぐにヒマリの後ろに隠れたけど。
「この子はヒマリン♪ ボクの契約フィリアスだよ♪」
契約フィリアス? ヒマリン?
「ネーミングセンスどうにかならなかったの?」
「アヤメ。確かにそこも気になるけど、先に聞くべきことがあるでしょ」
ヒマリンはどうかと思うけど。
『クーちゃんもさっきイロリンって』
うっさいわね。
『ひど~い……』
「フィリアスってなんなの?」
「吸血鬼の上位種だよ。どこかの世界で生み出された、人の隣人として特別に調整された魔物なの」
「それがなんでヒマリと一緒にいるのよ」
「昔助けてもらったの♪ それ以来ずっと一緒にいるの♪」
「どうして今まで紹介してくれなかったの?」
「ごめんね♪ 見ての通り人見知りなんだ♪」
……いいわ。そういうことにしておいてあげましょう。
「ボクたちが手伝うよ♪ あの子捕まえてクーちゃんのフィリアスにしちゃお♪」
ポ◯モンみたいに? 契約を結べば仲間に出来るのね。
「そう。なら話はその後にしましょうか」
二度手間になりそうだし。
「待ったぁ!!」
「「「っ!!」」」
……もう。お姉ちゃんはまた急に大声出して。
「それってあの子がクーちゃんとずっと一緒に居るようになるってことでしょ! ダメ! 絶対認めない! ただでさえ悪霊が取り付いてるんだよ! もう一人なんてダメだよ! クーちゃんだって困るでしょ!!」
言われてるわよ、イロイ。
『ひどい~……ぐすん……』
あらあら。可哀想に。悪霊呼ばわりはあんまりよね。
「クーちゃん!」
目敏いわね。
「ならアヤメが契約なさい」
「なるほど! それなら! ……えぇ!?」
「何よ。まだ何か文句があるのかしら?」
「クーちゃん本当にそれでいいの!?」
「別に良いわよ? 私にはイロイだっているもの」
『クーちゃん♪』
「そういう意味じゃなくて!!」
「別に浮気するだなんて思ってないわ。私はお姉ちゃんを信じているもの。お姉ちゃんと違ってね」
「なっ!?」
「ほら。早速始めましょう。アヤメも準備なさい」
「わ、わたしだって!!」
「なによ」
「クーちゃんを信じてるもん!! ……だけど! ……もう!! 今回だけだよ! 今回だけだからね!!」
「別に構わないってば。アヤメが契約なさい。納得いかないなら巫女の役目とでも思いなさい。これは命令よ」
「け、けど!!」
「何よ。自分は自信が無いわけ? 側に置いていたら私よりその子を好きになってしまうの? そういう話なら私が預かるわ。正直に申し出なさい。別に責めやしないから」
「そんなわけないでしょ!!」
「ならいいじゃない。毎回毎回ゴネないでよ。話が進まないでしょ」
「クーちゃん、アヤちゃん、口を挟んでもいいかな?」
「いいわよ、ヒマリ」
「今回はクーちゃんが契約するべきだと思う。フィリアスのことはクーちゃんが知っておくべきだと思うんだ」
「……それだけ?」
「ううん。もう一つ。フィリアスは吸血鬼だ。つまりプライドが高いんだよ。今のアヤちゃんは認めて貰えないと思う」
「……仕方がないわね。いいわ。私が引き受けましょう。アヤメもそれでいいのね? 後悔しないわね?」
「……いい。後悔はするけど」
もう。お姉ちゃんたら。




