05-06.英雄王女の初仕事
週末がやってきた。
今回の目的地は西方の山村だ。
この村の近くに巨大な熊型魔獣が現れたそうだ。
ティグリスに乗って麓までやってきた私とアヤメは、えっちらおっちら山を上って中腹にある村までやってきた。
「ひどい……」
村の惨状を目にしたアヤメは、思わず言葉を漏らした。
まだ日が昇っているのに村は静まり返っていた。柵は破壊されて散らばっており、そこかしこに家畜や作物の食い荒らされた跡が残っている。
「村長宅はどちらかしら」
「……クーちゃん冷静だね」
「アヤメこそ慌ててはダメよ。余計不安にさせてしまうわ」
「……そうだね」
私たちは奥の一回り大きな建物に辿り着き、刺激しないよう優しくノックしてみた。
「……誰ですかな」
小さなお爺さんが震えながら戸を開いてくれた。
「王都から派遣された討伐隊です。到着が遅れて申し訳ございません。状況をお聞かせ願えますか?」
「……入ってくだされ」
私の身なりを確認したお爺さんは、僅かに躊躇いながらも私たちを招き入れてくれた。
「……お二人だけですかな?」
「はい。刺激しないよう仲間とは麓で別れてきました」
「……そうですか」
お爺さんはホッとしたのか、緊張を解そうとしたのか、長い息を吐き出した。
私たちを先遣隊だとでも思ってくれただろうか。実際にはティグリスと別れてきただけなんだけれども。
「……お気遣い感謝致しますじゃ」
「いえ。職務ですから。どうぞご安心ください。我々が必ずや魔獣を討ち滅ぼしましょう」
「……見た所随分とお若いようですのう」
不安を与えてしまっただろうか。
「……先日領から派遣された討伐隊は全滅しましてのう」
「存じています」
その件についてはお兄ちゃんから聞いている。
「……奴は気が立っておりますのじゃ」
以来被害も拡大しているのだろう。よくぞ村が残っていてくれたものだ。
彼は怖いのだ。再び討伐に失敗して魔獣を刺激してしまうのが。
「どうかご安心を。此度の失敗はあり得ません」
「……随分と自信がおありのようですのう」
「英雄王女が派遣されました」
「……はて? オフィーリア様のことですかな?」
「その娘君です。実力は勝るとも劣らぬものかと」
「それは……心強いですじゃ……」
お爺さんは静かに涙を流した。
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私たちは予定を早めて一旦村を離れた。
既に魔獣の居場所は掴んでいる。アヤメのお陰だ。日々の鍛錬の甲斐あって、今のアヤメならティグリスの力を借りずとも、この程度は造作もない。
「奴も気付いてるよ」
「……そう。なら手早く済ませましょう」
私は腰に据えた剣を抜き放ち、魔獣に向かって切りかかった。
熊型魔獣は正面から斬り掛かってきた私に怯むことなく腕を振るった。私は咄嗟に剣で受け止めるも、跳ね返すことなど出来る筈もなく、大きく弾かれて地面を転がる。
「クーちゃん!?」
油断した熊型魔獣は、トドメを刺そうと私に向かって突進してきた。
「グルォ!?」
想定外の衝撃に魔獣が怯む。
一切その場から動くことのない空間の壁に全力でぶつかったのだ。如何に強靭な肉体を持つ魔獣とて、隙を生じずには居られない。
「【断空】!!」
その隙に熊を空間の壁で囲い込む。僅かに隙間の空いた不可視の壁だ。続けて隙間に向かって剣を振り下ろした。
「グォォォォォォォォオオオ!!!」
魔獣の悲鳴が響き渡る。
空間を断ち切る刃が魔獣の伸ばされた腕を骨ごと断ち切った。
「【断空】!」
最後にもう一振り。魔術を纏った剣が、容易く魔獣の肉体を両断した。
「うげ……お疲れクーちゃん」
「何よ今の呻きは」
「いやだって真っ二つじゃんか」
「魔獣討伐なんてもう何度も経験したじゃない」
「いつもはもっとスマートに仕留めてたじゃん。クーちゃんこそ何さ。さっきの戦い方。ユキノ先輩に叱られるよ」
「剣を使った戦い方に慣れておきたいのよ」
「だからって無茶しすぎだよ」
「心配は要らないわ。いつも自分の身体は囲っているもの」
「それがよくないんだよ。もし仮にクーちゃんの防御を貫ける魔獣が現れたら死ぬんだよ。最悪を考えて行動してよね」
……なるほど。道理だわ。
「無敵と勘違いしたなんたらの寿命はってやつね」
「そうそれ。だからあんな戦い方は二度としちゃダメだよ」
「気をつけるわ」
「肝に銘じておいて」
もう少し試したいのよ。心配掛けて悪いけど。




