04-02.問題発生
「それならそうと最初に仰ってくださいまし!!」
事情を聞き終えたクラリスは憤慨して立ち上がった。
いえ。憤慨という程のことも無いのかしら。ただ驚きすぎて声を荒げてしまっただけよね。
「落ち着いて、クラリス。席に座りなさい」
「はっ!? 失礼しましたの!!」
良い子。
「さっき言った通り、私たちは転生者よ。同じ転生者を集めていたの。あなたは五人目の転生者にして、水の属性を司る四神獣、青龍の巫女よ」
「驚きましたの!!」
それはわかってるってば。
「私たちの仲間に加わってくれるかしら?」
「はい!! こちらこそお願いしますの!!」
よろしい。
「アイリスとクラリスって似てるよね」
突然何を言っているのかしら。このお姉ちゃんは。
「前世の名前はなんていうの?」
ヒマリったら、前回の件で懲りていないのかしら?
「ミソラですの! 美しい空と書いて美空ですの!!」
「よろ~♪ ミソラっち~♪」
「ダメよ。クラリスと呼びなさい」
「何故ですの!?」
「前世のことは内緒にしているでしょ。普段から呼んでいるとウッカリ出てしまうわよ」
本当はややこしいからだけど。
私たち、名前多すぎなのよ。
私は『クーフェリア』。前世の名は『かや』
お姉ちゃんは『アヤメ』。前世の名前は『ゆかり』。孤児院で名付けられ、現在の正式な名前である『アイリス』も。
『エレオノーラ』姉様は亡くなった事になっていて、現在『ノーラ』を名乗っている。ちなみに前世は『しおん』だ。
『ソラール』姫はバルトローグ王国の出身で、今は国を出て放浪中の身だ。前世は『ヒマリ』。
『クラリス』と『みそら』まで合わせたら、五人で十二個もの名前が登場してしまうのだ。ややこしい。
「クーフェリア、アヤメ、ノーラ、ヒマリ、クラリス。これで統一しましょう。皆も良いわね」
「うん。クーちゃん」
「良いわよ。クーフェリア」
「もちろんだよ♪ マイロード♪」
「承知ですの! クー殿下!」
こいつら……。
「クー様」
ユキノまで~……?
「クー様」
あ、用事があるのか。
そうだよね。ユキノが悪乗りなんてしないよね。
「何かしら?」
「お部屋の準備が整いました」
「ありがとう。案内してあげて」
「はい。クー様」
ユキノは私に一礼し、クラリスの方へと向き直る。
「クラリス様。どうぞこちらへ」
「はい!」
クラリスは素直に付いて行った。良い子。
「クーフェリア。子爵への挨拶はどうするつもりかしら?」
「ノーラは伝手があるの?」
「無いわよ。クラリスの実家であるベルドール子爵家は、第一王子の派閥だもの」
マジかよ……。
「ノーラ姉、どうしてそういう事を先に言わないの?」
そうよそうよ。もっと言ってやって。アヤメ。
「ごめんなさい。知らないとは思わなかったわ」
こんにゃろう。
「この一ヶ月、幼気で敵対派閥な同級生に絡むクーちゃんを見て、学園の人たちはどう思っていたのかな」
洒落になってないのよねぇ……。
「だいたいクラリスもクラリスよ。折角努力して特別クラスにまで這い上がって来たのに、どうして私に突っかかってきてしまったのよ」
よりによって第四王子の婚約者であるこの私に。
今現在、第四王子は第一王子とバチバチやってる最中だ。先日の一件には未だケリがついていないのだ。
「無駄に一ヶ月も過ごしちゃったね。けどそこはクーちゃんも楽しんでいたからおあいこでしょ」
「お兄ちゃんもいつまで手こずっているつもりかしら」
「厳しすぎだよ、クーちゃん。殿下は頑張ってるよ。第一王子と対等に渡り合っているだけでも凄いことだよ。たとえ第一王子がやらかしたばかりだとしてもね」
まあそうね。一番目の兄も流石と言わざるを得ないわね。
陛下に内緒で、私をメルヴィ姉様の代わりに隣国へ嫁がせようとしたくせに、その罪を明かされても立場を守り抜いてみせたのだ。この程度では致命的なダメージには至らなかったらしい。
ただし、第四王子に手を噛まれたのは事実だ。加えて英雄王女との婚約もある。第四王子には間違いなく人が集まってきている。一番目の兄を引きずり下ろすのも時間の問題だ。
「流石に楽観的過ぎるかしら……」
「このまますんなり勝てると思っているならね。いくら大好きなお兄ちゃんのことだからって、手放しで信頼するのはダメだよ。あの殿下にだって限界はあるんだから」
むしろ精一杯、限界以上に頑張ってくれているのよ。私の自慢のお兄ちゃんは。
「私の大好きなお姉ちゃんにお願いがあるの」
「まさか子爵の家に行けと?」
「盗聴。出来るでしょ」
知っているのよ。アヤメはティグリスに色々教わって成長してるって。そろそろ出来るでしょ。盗聴くらい。
「ヒマリに頼んでよ。というか既に探らせてるんでしょ」
「もち♪」
「あらヒマリ。私は報告を受けていないのだけど?」
「切り取れるよ♪ マイロード♪」
「待ちなさい。ダメよ。お兄ちゃんの計画に影響を及ぼしかねないわ」
「がってん♪ 手は出さないよ♪」
「それに容易く切り取れるような相手を抱え込むのはナンセンスよ。そんな奴は第一王子派閥に置いておきなさい」
「イエスマイロード♪ だよねぇ♪ ボクも同意見♪」
「それはそれとして報告はなさい」
「はぁ~い♪」
これはする気無いわね。まったく。私の信頼度もまだまだね。
「けど目指すんでしょ。第一王子の失脚」
「程々にね。お兄ちゃんの邪魔をしたら許さないわよ」
「それは了解。それで? 結局子爵の件は?」
「クラリスをスパイにしようと考える可能性はどの程度かしら」
「普通はあり得ないでしょ。他の第一王子派閥から顰蹙買っちゃうだけだろうし」
「そうよねぇ……」
向こうから送り込んでくるように仕向けられないかしら。
「今更帰せないよ? 彼女、口が固い方には見えないし」
そもそもかぁ……。
「ヒマリ。学園に通いなさい」
「イエス! マイロード!」
「もしかして緩衝材にしようとしてる?」
「ええ。隣国から留学してきたお姫様だもの。政治的な都合を知らずに、うっかり滞在先のうちに招いちゃったとしても仕方がないわよね」
「だいぶ後付だね。間に合うの?」
「大丈夫よ。ヒマリだし」
「信頼しすぎるの良くないよ」
「あら。アヤメはヒマリが信頼出来ないの?」
「そうじゃなくて。ヒマリがいないと何にも出来なくなっちゃいそうじゃん。ドラ◯もんの居ない◯び太くんみたいに」
「ジャ◯アンと喧嘩したりだって出来るじゃない」
「喧嘩は望みじゃないでしょ」
「それはそうね。ヒマリ。無理そうなら言いなさい。私も手を回すわ」
「まっかせて♪ 準備はバッチリだから♪」
それは心強いわね。
「今回だけよ。アヤメ」
「なら良いけどさ。次は準備もバッチリ済ませておこうね。今回は帰ったばかりでバタバタしていたから仕方ないけど」
「ええ。期待しているわ。お姉ちゃん」
「もしかしてわたし、秘書に任命された?」
「アヤメが巫女たちのリーダーよ。他の三人を上手く動かしなさい」
「責任重大だぁ~」
大丈夫よ。お姉ちゃんなら。




