01-06.洗礼式と兄の災難
十五歳になった!
かつて母は私に願った。
身分に囚われず、自由に生きてほしいと。
私の望むがままに生きて良いのだと
どれだけ不可能に思えても、私にはそれが出来るのだと。
かつて父は私に願った。
自由に力を振るってほしいと。
私が王女であることは変えられない。
されど、英雄たらんと生きる道はあるのだと。
だから私は決めたのだ。
愛する両親の願いを同時に叶えてしまおうと。
影の英雄になろうと。昼行灯を目指そうと。
普段はやんごとなき身分の道楽娘に徹しよう。
しかし影では、人知れず脅威を払って国を守護しよう。
そんな英雄に、私はなろう。
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今日は洗礼式だ。
十五歳になった少年少女たちが集められ、神から魔力を授かる大切な日だ。
何故神様から授かるものが『魔力』なのだろう。
なんて今更な疑問を抱きながら、他の子どもたちが儀式を受ける様子を眺めていた。
ここに居るのは皆王侯貴族の子女たちだ。
身分の低い者から順番に女神の神像へと祈りを捧げていく。
その身体が光を纏うことで、魔力を授かった証となる。
光量には個人差があるけど、色には違いが無い。
魔力量は光量で判別出来るけど、一目でどの属性の魔力を授かったかとかはわからないのだ。
授かる属性の種類は地水火風の四種類。かつては光や闇なんかもあったそうだけど、ここ数百年は記録にない。最早伝説か御伽噺の類だ。
ちなみに私が狙っているのは風属性だ。初志貫徹♪ 私は風属性で最強になる♪ こっそりだけど♪
「なんだそのヘラヘラした態度は。お前は相変わらずだな」
「あ♪ お兄ちゃん♪」
「兄上と呼べ! バカモノ!」
お兄ちゃんこそ。こんなところで大声出したら迷惑だよ。
壇上のお爺ちゃん大司教がたまげてるよ。
「まったく。いつも言っているだろうが」
お兄ちゃんもお兄ちゃんで結構なマイペースさんだよね。この空気を気にする様子も無いし。
「リボンが曲がっているぞ。ユキノは何をしているんだ」
せっせと私の服を整えるお兄ちゃん。
なんでここにお兄ちゃんがいるかって?
実はこのお兄ちゃん、私と同い年なのだ。
王族ってそういうの珍しくもないみたいよ?
何せこのお兄ちゃん腹違いだからね。パパのそういうとこだけは好きになれないよ。王族だからってのもわかるけど。
「ユキノを責めないであげて。途中でお昼寝しちゃってさ」
「どうせ寝そべって本でも読んでいたのだろう。ユキノからも事前に言い含められていた筈だ。気をつけろ」
ばれて~ら。
凄いねお兄ちゃん。全部お見通しだね。
私の昼行灯計画もお兄ちゃんにだけは通用してないっぽいんだよね。愛故かな? いやん♪ お兄ちゃんのシスコン♪
「あんがと♪」
「ふんっ」
ツンデレさんめ♪
けどダメだぞ♪ 私たちもう十五歳だからね♪
こんな公の場で胸元弄ったりしたら誤解されちゃうぞ♪
お兄ちゃんたら、そういうとこも気にしてないからな~♪
私のことが可愛くて仕方ないみたい♪ えへへ♪
「ご、ごほん」
お爺ちゃん大司教が我に返り、止まっていた儀式が再開された。邪魔してごめんなさい。
それから暫くして、私たち王族の番がやってきた。
この儀式、王族は最後なのだ。
ワンチャン光とか闇とか出れば話題になるもんね。昔はともかく、今はただ引き継がれてきただけの風習だけど。そもそも別に、王族だけが発現する属性でもないんだろうけど。
「前へ」
私の番がやってきた。
お兄ちゃんは私の後だ。私の方が継承権低いからね。お兄ちゃんは大トリだぜ♪
「祈りを」
神様神様! どうか私に風属性を!
あと転生させてくれてありがとう!
ママとパパの娘に産んでくれてありがとう!
ユキノとお兄ちゃんに出会わせてくれてありがとう!
他にもいっぱいありがとう! 私は元気にやってます!
うん? あれ? なんか後ろが騒がしい?
やべ! めっちゃ光ってる! 制御制御!
……ふ~。危ない危ない。こっちをすっかり忘れてた。
ふっふっふ♪ 今の私は全然光ってないじゃろ♪ ほんのちょっと♪ ちょびっとだけ♪ ギリ光ってるくらいに抑え込んだぜい♪ ユキノの魔力で散々練習したからね♪ 私にかかればこの程度お茶の子さいさいだぜ♪
さあ皆の者! がっかりするがよい!
英雄の血を引く姫様の魔力がこれっぽっちなのかと失望するがよい! ふはぁっはっはっは♪
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儀式の場に集まった者たちの多くは混乱していた。
一瞬、光がこの場の全てを包みこんだ。
しかしすぐにその光は収まってしまった。
壇上に傅く少女の身体からは、極僅かな光が漏れるばかりだ。とても魔力を授かったばかりの者とは思えぬ光景だ。
通常ならば、段々と光が収まっていくものだからだ。こんな風に一瞬で消えることなど未だかつて無かった事だ。
中には手違いや事故を疑った者もいる。
しかし、一部の者たちは真実に思い至り驚愕した。
英雄と王族の血を引く特別な王女。
彼女は授かったばかりの魔力を御してみせたのだと。
彼らは歓喜した。新たな英雄の誕生に。その兆しに。
しかし実際にはそれ以上の事が起きていた。この場の誰もが知る由もないことだが、彼女は神から賜る前の、神が彼女に送り込んでいる最中の魔力をも引きずり込んでしまった。
その結果何が起きたかと言えば、彼女が本来授かる筈だった魔力を大きく上回る量の魔力が、神の手元からも奪い取られたのだった。神は不測の事態に反応が遅れ、接続を切り損ねてしまったのだ。
それがこの事態の真相だ。
哀れなことに、その被害を受けたのはレオン王子だった。
クーフェリアの強引な引き抜きが原因で、女神の神像が負荷に耐えきれず、沈黙してしまったからだ。
レオン王子は歴史上初めて、神より魔力を授かれなかった王子として、名を刻まれることとなった。




