01-05.母の想い。娘の願い。父の苦悩
九歳になった!
「ただいま! クーちゃん!!」
ママが帰ってきたぁ!! 一年ぶりだぁ!!
八歳の誕生日どころか、九歳の誕生日も過ぎてしまった。
私を抱き上げてクルクルと回るママ♪
目にも止まらぬ早業だったぜ♪
「きゃはは♪ ママ♪ おかえり♪ 会いたかった♪」
「ママもよ! クーちゃん!!」
ぎゅ~~~~~~~~~っと、抱きしめてくれた♪
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「ありがとう、ユキノ」
クー様が燥ぎ疲れて眠りに落ちた後、奥様は執務室に籠もられました。
これから報告書を仕上げられるのでしょう。長旅の直後ではありますが、そのまま一睡もせず日の出前には城へと上がられるのでしょう。
「あなたも床に就きなさい」
「はい。奥様」
ここで余計なことを口にしてお手を煩わせるわけにはいきません。出来ることならその重責の一端を肩代わりさせて頂きたいと幾度も願ったものですが。
「……ユキノ」
「はい。奥様」
退室する直前で呼び止められました。
その事実に歓喜にも似た衝動が湧き出します。しかしすぐにその想いは霧散してしまいました。奥様の表情を目にしたからです。
「クーフェリアは……あの子は城に通っているのね」
「申し訳ございません」
「いいえ。いいのよ。それがあの子のやりたい事なら応援してあげて」
「はい。奥様ならばそう仰られるものと判断致しました」
「ありがとう。ユキノ」
感謝しているのは私の方です。奥様。
「けれど……あの人には困ったものね」
陛下のことですね。彼は結局約束を違えました。
許されるべきことではありません。それが奥様と離れ離れにしてしまったことに対する罪滅ぼしなのだとしてもです。
「出過ぎた発言をお許しください、奥様」
「許すわ。続けて」
「では。……職を辞し、お父君の領地へお帰りになられては如何でしょう。陛下は約束を違えました。であるならば」
「そうね。それも良いかもしれないわね」
……本当にそう思って頂けたのならどれ程良かった事でしょう。
「クー様のためです。どうかご決断を」
「あらあら。酷いことを言うのね。いいえ。あなたにそんなことを言わせてしまった私の方こそ酷い主よね」
「申し訳ございません」
「ありがとう。ユキノ。クーフェリアをお願いね」
「はい。奥様」
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まただ。ママはまた忙しい日々を送っている。
一緒に居られたのは、旅から戻った直後のあの日だけだった。すぐまた忙しい日々に戻ってしまった。
この国はママに一年以上もの長期出張をさせておいて、僅かなお休みすらくれないのだ。
なんてケチな国だ。ぶっ壊してやる。
「ね~え~♪ パぁ~パ~♪」
「お~! なんだい! クーちゃん!」
「クーね~ぇ~。欲しいものがあるんだ~♪」
「おねだりか♪ 良いぞ良いぞ♪ 何でも与えよう♪」
「ほんと~♪ パパ大好き~♪」
「ぶはぁっ♪」
ちょっと。ここで鼻血出さないでよ。
膝から降りちゃうぞ?
「じゃあね~♪ 約束ね~♪」
「うんうん♪ 何でも約束しちゃう♪」
「クーに王位ちょ~うだい♪」
「王位か♪ クーは王位が欲しいのか♪ よしよし♪ もちろん良ーーへぶっ!?」
ちっ。惜しかった。
「陛下。お戯れはそこまでに。クーフェリア殿下もです」
「「は~い」」
「まったく……幼い娘に影響されてどうするのですか。国王ともあろう者が」
あかん。このまま追い出される前に本題を話さないと。
「パパ。真面目なお願い」
パパの膝から降りて、今度は床に膝をつく。
「陛下。どうかお願いです。オフィーリアお母様に暫しの休息を。如何な英雄とて、人である以上は限度がございます。このままでは遠からずお倒れになるでしょう」
「……うむ」
なんでそんな顔するのさ。
王様になら簡単なことでしょ? ちょっと一声掛けるだけでしょ? 娘にデレデレしてる暇があるんだから、それくらいパパっとやっちゃってよ。
「よかろう。約束しよう」
「感謝致します。陛下」
「うむ」
本当にお願いだよ。ママが倒れたら今度こそ国ごと傾けちゃうんだからね。
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「陛下」
「言うな。余とてわかっておるわ」
クーフェリアが退室した後の謁見の間にて。
そこでは王とその側近が頭を抱えていた。
「次回遠征。英雄閣下以外に務まる者などおりません」
「わかっておる! だが……他におらんのか? クーフェリアの進言通りだ。フィリアに何かあればそれこそ……」
「不可能です。軍の損耗覚悟で挑もうにも、そもそも魔獣の魔術防壁を破れねば討ち取ることは出来ぬのです」
「しかしいつまでも英雄が出張っておれば後継も育つまい」
「オフィーリア様は育成にも力を注がれております。直接的な教導のみならず、自ら戦闘時の詳細をも文章として纏め上げ、情報共有を密になされております。彼女の視点は他の者では持ち得ぬものです」
「何か考えるのがお前たち臣下の務めであろう。出来ぬ出来ぬ言っとらんで、一日でも早く積み上げよ。英雄一人に頼る国の脆さは理解できよう。幼き娘に諭されるまでもなくな」
「はい。陛下。仰る通りでございます」
「ままならぬ。全く以って。ままならぬ」
「やはりクーフェリア様に」
「言うな。フィリアに釘を差されたばかりであろう」
「お互いを想い合う美しき母娘でございますね」
「まるで余はそうでないと言いたげだな」
「何か御心当たりでも?」
「ぬかせ」




