03-32.帰郷
「伯爵と辺境伯は恭順を誓ったよ」
「結構よ。後のことはレオン兄様に頼んであるわ。これを以って陛下も満足するでしょう」
伯爵と辺境伯を抑え込んだ実績は十分な価値がある筈だ。お兄ちゃんなら上手く陛下に伝えてくれるだろう。
「証拠隠滅もバッチリ♪ 兄様は覚えてなかったし、代役はボクの影武者だった子が引き受けてくれたよ♪」
「それって王太子の好みは実妹だったってこと?」
「もちろん変装してるよ♪ 彼女は達人なんだ♪」
「だからって、ソラール姫とメルヴィ王女じゃ全然似てないじゃんか」
アヤメの言う通りね。ヒマリとメルヴィ姉様では体格だって全然違うわ。ヒマリの影武者がメルヴィ王女に化けられるとは思えないのだけど。
「心配要らないって♪ 見たら驚くよ♪ 本当にそっくりなんだから♪ 彼女回復魔術の専門家なの♪」
え? 整形したの? 自分で? 身体を切り貼りしたの?
「なにそれ……怖……」
「あの子元々兄様のこと好きだったから喜んでたよ♪ 見てると可愛くて虐めたくなっちゃうんだって♪ いるよね♪ そういう男子小学生♪」
……いえ。たぶんその虐めたいは意味違うと思う。
ヴァルター王太子……頑張って……。
「ま、まあいいや。じゃ次進めよっか。クーちゃん」
「そ、そうね。そうしましょう」
思わず姉妹揃って動揺してしまった。
----------------------
「おぉ!! ソラール! 戻ったか!!」
ソラール姫の帰還に、バルトローグ王国が湧き上がった。
「アヴィスはバッチリ乗りこなしたぜ♪」
「良くやった! お前は我が国の誇りだ!!」
的な、国王と姫のやり取りもそこそこに。
「ついでに聞いてきたよ♪ 嫁ぐのはメルヴィ王女で間違いないってさ♪ じゃボクは行くから♪ アデュー♪」
そんな感じのことを一方的に言い残し、ヒマリは再びアヴィスに乗って大空へと飛び立って行った。
残されたバルトローグ国王はうんうんと頷いて満足気に娘の出立を見送った。……それで良いの?
ヒマリは上手くやっていたのねぇ~……。それに比べて私は……。反省しましょう。
「それでは我々はこれで。メルヴィ姉様。どうかお幸せに」
私たちもそそくさと帰り支度を始めた。
本当にそっくりだったわね。影武者さん。加えて王太子は早くもゾッコンだった。王太子の好み云々って見た目じゃなくて中身の話だったのね。本物のメルヴィ姉様にはああじゃなかったし。
諸々どうやったのかは詳しく聞かんとこ。
----------------------
「待ちたまえ!!」
誰?
「貴殿を英雄王女とお見受けする!!」
マジで誰。ここで新キャラ登場は勘弁してほしい。
歳は若い。ギリギリ十代か、いっても二十代前半くらいだろう。滞在中にお会いした王族の誰でもない。なら貴族ね。
「どうかこの国に残って頂きたい!!」
「直球だぁ……」
アヤメ。お口チャック。
「どなたかは存じ上げませぬが、突然失礼ではございませんか? 我々はただでさえ帰還の予定を遅らせているのです。これ以上はご容赦頂けませんでしょうか?」
「申し訳ない! 私はこの国の!」
「申し訳ございません。どうかご容赦くださいませ」
名乗りを阻止し、背を向けて歩き出す。
「待ってくれ!!」
「……無礼が過ぎますよ。他国とはいえ、わたくしは王族。一貴族が場を弁えずに声をかけるなど許されはしません。それはバルトローグ王国においても同様のことと存じます」
「無理を承知で頼む! 話を聞いてほしい!!」
しつこい。
正式に抗議でも入れてやろうかしら?
「どうか我が家に嫁いでくれ! 貴殿の望みは何でも叶えよう!! 如何か!!」
やばい。こいつ言ってることが無茶苦茶だ。
私は白黒結界を起動した。私とアヤメを残して周囲の時間が停止する。
「いいの?」
「何がよ」
「力を使うことに躊躇が無くなってきたなって」
「いいのよ。こういう輩は相手をするだけ無駄だもの」
どうせ派閥の中で立場が弱いんでしょ。失敗したら後がないとかそういう系でしょ。或いは抜け駆けして馬鹿やってるんでしょ。そもそも貴族だからって当主本人ってわけでもないんだろうし。その息子かなんかでしょ。放置したって大した問題にはなり得ないわ。そんな力も無いのでしょうし。
----------------------
「なんで追ってくるのよ」
バルトローグ王国の王都を出てから暫くして。明らかに私たちを追跡する一団が現れた。
「クーちゃんが雑に放置したからじゃん」
だからって隣国の王族が乗る馬車と、その護衛二百人に突っ込んでくるのは無謀が過ぎるでしょ。
「なんか段々増えてるわね」
「力尽くで奪うつもりかもね」
諦めが悪いわね。
「英雄王女を舐めているのかしら」
「クーちゃんちょっと好戦的になったよね」
仕方ないじゃない。
「いい加減腹立ってきたのよ。私は昼行灯を目指したいって言ってるのに」
「全部踏み潰す?」
「そんな事はしないわ。落とし穴でも掘ってやりましょう」
「「「「「「うわぁぁぁぁぁ~~~~~!!!」」」」」」
「「「「「「ぎゃぁぁぁぁぁ~~~~~!!!」」」」」」
背後から悲鳴が聞こえてきた。
「人は落馬でも死ぬんだよ。クーちゃん」
「少しばかり急な坂にしただけよ。本当にすっぽり地面を抜いたわけじゃないわ」
「そんな悲鳴には聞こえなかったけど」
気の所為よ。
「ヒマリの言った通りだったわね」
「クーちゃん一人で軍隊も相手出来るね」
「実際にはそう上手くはいかないわよ。私一人が生き残るだけならともかく、拠点を守るなら付け入る隙はいくらでも生じるもの。私にだって休息は必要だし」
「でもクーちゃん、生理現象止めてるよね」
「あら。気付いてたのね」
「そりゃあね。わたしもだし」
アヤメにも同じ効果を込めた結界を常時纏わせてある。もちろん本人の許可なんて取ってはいない。別に構うまい。アヤメは私のものなんだから。大切に保管しておかないとね。
「結界って便利よね。不老不死だって造作もなかったわ」
「かけたんだ……え? わたしにも?」
「当然でしょ。逃げられるなんて思わないことね」
「うわぁ~」
「何よ。嫌なの?」
「嫌ってことは……ないけどさ」
「けど?」
「クーちゃんが順調にチート主人公の道を歩んでるなって」
「力って必要なのよ。想いを通すにはね」
「それも主人公っぽい。闇落ちを経て強くなった感じ」
「アヤメも大概ではないかしら」
「もう一人ってどんな子かな」
流したわね。都合が悪いなんて事も無いでしょうに。
「残すは水属性ね」
「ユキノ先輩だったりしないの?」
「強引に契約を結ばせられないかしら」
「青龍と? 転生者は放置するの?」
「期待してるわよ。お姉ちゃん」
「実はもう見つけてあるんだ」
「ならユキノの話はなんだったのよ。どこに居るの?」
「学園」
「新学期が楽しみね」
「もう始まってるけどね」
「長い夏休みだったわ」
「全然遊べなかったね」
「どこか連れて行きなさい。姉らしく。恋人らしく」
「クーちゃんだって雇い主でお姫様だよ?」
「何年閉じ込めてあげましょうか」
「ううん。それには及ばないよ。エスコート役は任せてよ」
「良いじゃない♪ 二人で永遠に引き篭もりましょうよ♪ 折角白黒結界と不老不死が揃ったんだもの♪ 私たちにはいくらでも時間があるのよ♪」
「どうしてこうなった……」
「妹の成長が嬉しくないの?」
「カヤちゃんがスカ◯グレ◯モンになっちゃった」
「なんですって?」
「あれ? カヤはメギド◯モン世代だったっけ?」
「大して変わらないじゃない」
「どっちもわかるんだね」
「誰が育成失敗ですって?」
「ごめんね、カヤ。お姉ちゃんがもっと早く側に居てあげられれば……」
「側に居た上で役に立たなかったんじゃない」
「ぐふっ……!」
「今度こそしっかりやりなさい。期待してあげるわ」
「え~らそ~」
「偉いわよ。当然でしょ」
「人間のお姫様で四神獣の王だもんね」
「妹だからよ。決まってるでしょ」
「あはは♪ 永遠にお仕えします♪ 妹様♪」
「よろしい♪」




