03-31.答え合わせ
「それは……わかんないや♪」
がっくし……。
「たはは♪ ごめんね♪ クーちゃん♪ アヤちゃん♪」
ヒマリは誤魔化しの笑みを浮かべた。
「ご自慢の暗殺者たちはどうしたのさ」
「そんなの抱えてないよ!? 諜報員だよ!!」
アヤメの物騒な問いに慌てるヒマリ。
「似たようなもんでしょ。その人たちに調べさせてなかったの? 隣でドンパチやってたのに気付かなかったの?」
「だぁ~って~ぇ~……」
なんとも情けない声だ。
「念願のクーちゃんが手元に転がり込んできたからどうでもよくなっちゃった?」
「うんっ♪」
うんじゃないが。
「間違いなくうちじゃないよ。だとしたら情報が入ってきてないのはおかしいし」
バルトローグ側じゃない。ならアルミディアの……。
「まさかと思うけど、ノーラ姉。何かやった?」
何を思ったか、アヤメがノーラ姉様に問いかけた。
「……あら。バレちゃった?」
……は?
「冗談よ。そんなわけないでしょ」
え~……。
「ノーラ姉」
「けど心当たりはある。私は犯人がわかったわ」
マジ?
「話して」
「急ぎなさい。王太子が危ないわよ」
え……?
----------------------
「メルヴィ姉様!!」
「あら♪ クー♪ 戻ったのですね♪」
姉様はいつもと変わらない笑みを浮かべていた。意識を失ったヴァルター王太子の直ぐ側で。
「彼に何を!?」
「ダメですよ♪ クー♪ 突然部屋に入ってきては♪」
姉様が王太子に手の平を向けた。
「待っ!」
「御免!」
っ!? モーラ!?
「モノクロ!!」
!!!
アヤメの呼びかけが私に冷静さを取り戻させてくれた。私は瞬時に白黒結界を起動した。
「……ありがとう。お姉ちゃん。助かったわ」
まさか以前決めた合言葉がこんな形で役立つなんてね。
時間が止まって静止したモーラは、私の首筋に手刀を添えていた。危うく意識を刈り取られるところだった。
「この方法で意識を刈り取るのって難しいらしいよね。そもそも本当に出来るのかな。脳震盪を起こす程の衝撃で叩きつけたら普通に怪我しそうだけど」
異世界まで来ておいて何を今更。
「呑気な事を言っている場合ではなくってよ」
アヤメに注意を促して眼の前の光景を改めて確認する。
「まさか黒幕がメルヴィ王女だったなんてね」
メルヴィ姉様はヴァルター王太子に向かって魔術を放つつもりだった。この至近距離では気絶や怪我で済む筈もない。
そもそも相手は既に意識を失って防ぐことすら出来ない状態だ。姉様は確実に王太子の命を奪うつもりだったのだ。身柄を確保した上でわざわざトドメを刺そうとしていたのだ。
「目的はやっぱり私よね」
ノーラ姉様まで付いて来ていたのね……。
こんな光景を見せてしまった……。転移門を閉じるのを忘れていたわ。それどころじゃなかったものね……。
「伯爵と辺境伯をけしかけて嫁入りを邪魔させようとしたのもメルヴィ王女なんだね。メルヴィ王女はそこまでしてでもノーラ姉と結ばれたかったんだね」
アヤメの言う通りなのだろう。王太子の命を奪おうとしたのも同様の理由だ。嫁ぐ相手が居なくなれば話は流れる。
どうやってバルトローグ王国から逃げ出すつもりだったのかはわからないけれど、衝動的な行動とも思えない。ここまでの周到さを見る限り、何かしら目論見はあった筈だ。
「彼らをどうやって動かしたんだろう。いくら姫の頼みだとは言っても、国家への反逆を簡単に決断出来る筈もないし」
伯爵と辺境伯の話ね。たしかにメルヴィ姉様一人で成し遂げられた策とは思えないわね。誰か後ろ盾はいた筈だ。異国に嫁ぐ姫様にそんなものが残ってたのも不思議な話だけど。
「餌はクーちゃんだよ。間違いなく」
ヒマリは躊躇うことなく言い切った。
「賛同したのは誰? 誰が横取りしようとしたの?」
「違うんだよ、クーちゃん。彼らはただ真実を見抜いていただけなんだ」
真実? ヒマリは何を言っているの?
「誰もがクーちゃんを欲しがっているんだよ。理由なんてそれだけで十分なんだ。クーちゃんを手にした者が世界を手に入れるんだから」
「意味がわからないわ。いつからそんな話になったのよ」
「それだけオフィーリア様の活躍は偉大なものだったんだ。隣国に暮らすボクだって、生まれた時から聞いていた程だ」
だからって……。
「私やお母様を手に入れたって、一国を相手取る程の力なんて手に入る筈が無いじゃない」
四神獣と繋がった今ならいざ知らず。伯爵や辺境伯が軍を動かした時点で私は大して目立っていない。精々学園で無双していたくらいだ。
それでどうして姫を攫おうなんて話になるのよ。
「それが出来るんだよ。この世界でなら」
「あり得ないわ! そんな事ができるならママが負傷なんてする筈無いじゃない!」
いくら魔力障壁が強力だからって! 人間である以上は限界があるに決まっているわ! あのママが引退したことこそ何よりの証拠じゃない!!
「なら嘘なんだよ。オフィーリア様の負傷は」
「っ!! ママが私を騙したって言うの!?」
「クー様のためです」
「ユキノ!? 何を言って!!」
「英雄にも限界はあるのだと証明せねばなりませんでした。でなければクー様は」
「だったら!! なんで連れて行ってくれなかったのよ! なんで一人だけ引き籠ってるのよ!! なんで私を放っておいたのよ!!」
「クー様のためです」
「わかってるわよ!! そんなこと!!!」
「クー様」
「わかって……る……ママが私を愛してくれてるって……」
「オフィーリア様は待っておられます。いつの日か自由を手にしたクー様が会いに来てくださるのを。ご実家で心待ちにされておられるのです」
「……なんで……どうして皆私に期待するの? 私はまだ何もしてないんだよ?」
お姉ちゃんが静かに近づいてきた。
お姉ちゃんはゆっくりと私を抱き締めた。
「皆知っていたんだよ。クーちゃんがいっぱい頑張ってるって。ずっと見ていたんだもの」
「私は……私のために頑張っていただけよ。ただ家族と一緒に暮らしたかっただけなの……」
「そうだね。クーちゃんにとっては本当にそれだけだったんだろうね。クーちゃんにとっては何よりも大切なことだもんね。わかるよ。わたしは知ってるから。カヤの後悔を見てきたから。あなたのお姉ちゃんだから」
「……もうやだよ」
「なら逃げようか。クーちゃんママのところまで。きっと受け入れてくれるよ」
「……できないよぉ」
「そうだね。クーちゃんは頑張り屋さんだもんね。クーちゃんママに誇れる自分じゃなきゃ会いに行けないって思うんだよね。だから頑張ってきたんだよね」
「……私……まだ何も……してないの」
「うん。クーちゃんはまだ英雄じゃない。その卵だ。けど青田買いしようって連中がわんさか寄ってくる。だからクーちゃんは決めないといけない」
「……」
「もしクーちゃんが決められないのなら、お姉ちゃんが代わりに決めてあげる。クーちゃんの敵は全部纏めてやっつけてあげる。安心して。これでも四神獣の巫女だから。お姉ちゃんだってやれば出来るんだよ。妹のためならね」
「……ダメよ」
「そっか。クーちゃんはまだ頑張れるんだね」
「見くびらないで。いつまでもウジウジなんてしないわ」
「あらま」
ちょっと取り乱しただけよ。ヒマリがママの話なんて出すんですもの。仕方ないじゃない。
「メルヴィ姉様は引き取るわ」
ここに放ってもおけないし。色々聞き出さないとだし。
「その後は?」
「バルトローグ王国は放置よ」
「問題になるよ?」
「言い出せるわけ無いじゃない。貰った……預かっていたお姫様が失踪しましたなんて」
「つまり?」
「偽物を用意しましょう。与し易い人を唆して適当な人材をあてがいましょう。ヒマリ。後は任せたわ」
「がってん♪」
「随分な無茶言ってると思うけど……バルトローグ王国が嵌められたと主張して、今度こそクーちゃんを要求してくるかもしれないよ? 王太子だって気絶させちゃったわけだし」
「そんな恥を晒せる筈がないじゃない。婚約者とも思っていなかったお姫様に呼び出されて。ノコノコ鼻の下伸ばして部屋にまで乗り込んだら気絶させられて。そのまま逃がしちゃいましたなんて」
「……なるほど。そうだね。王太子はまだクーちゃんが嫁いできたと思っているんだもんね。一応。まだ。公には」
「私が頼んだ手前、心苦しくはあるのよ」
「王太子はだいぶ可哀想なことになるもんね。そりゃ罪悪感はあるよね」
「大丈夫大丈夫♪ 兄様の好みは把握してるから♪ バッチリ代役配置しておくよ♪」
「頼もしいわね」
「良いのかなぁ……」
「良し悪しではないわ。一番丸く収まる策を練っているの。戦争でも起きたらそれこそ最悪よ」
「そりゃそうだけど。なら伯爵と辺境伯は?」
「伯爵はヒマリと朱雀に、辺境伯は白虎とアヤメに任せるわ」
「脅せばいいんだね」
「ええ。私を手に入れようとしたってことは、逆に私に目を付けられることの意味も理解しているってことでしょ。きっと従順な態度を示してくれることでしょうね」
「わかった。任せておいて」
「第一王子派閥はお兄ちゃんに任せるわ。そっちは邪魔しないことに決めたわ」
「陛下の件では何もしなくていいの?」
「お兄ちゃんなら陛下の目論見も抑えてくれるでしょ。そこまで含めて信頼して任せることにするわ」
「ならバルトローグ王国に置き去りの護衛隊二百人は?」
「正面から堂々と迎えに行くわ。当初の予定通りにね」
「アヴィスに乗って三人で乗り込むんだね。ヒマリは付いて来られるかな? バルトローグが手放さないんじゃない?」
「そこは勝手に家出してもらいましょう」
「細部が雑だね。もっと詰めなくていいの?」
「ヒマリ。出来るわね?」
「イエス! マイロード!」
「……やっぱりお姉ちゃんどうかと思う。そういうの」




