03-28.失恋
「何故先に相談しなかった」
お兄ちゃんがお怒りだ……。
いつもみたいにぶっきらぼうな口調ですらない。私に対して静かな怒りを向けている。こんなの初めてだ。
「ごめんなさい。勢いで行動しました」
「……そうか」
……うん? 拍子抜けしてる?
「この後の考えはあるのか」
「第一王子の回りを調べるつもりです」
「そういうのは考えがあるとは言わん」
「ありません」
「そうか……」
お兄ちゃんは手の平を額に当てて考え込み始めた。
「クーちゃん、自分に任せとけって言ってたのに」
「アヤちゃん。空気読んで」
ありがとう、ヒマリ。
「四神獣とはなんだ」
お兄ちゃんは現状把握から進めていくことにしたようだ。
「女神様の遣わした四体の獣たちです。それぞれ四つの属性に適応し、四人の巫女と契りを交わすと聞いています」
「話し方を戻せ」
「どちらに?」
前の子どもっぽいクーちゃん? それとも普段の私?
「好きにしろ」
とにかく敬語を使われるのは落ち着かないようだ。
遠回しに、もう怒っていないと言いたいのかもしれない。
「あの者たちは魔獣ではないのか?」
「わからないわ。そう多くのことを話したわけではないの」
「かの四足獣には魔獣たちが従っているではないか」
ティグリスが森に住んでいることは、お兄ちゃんも知っていたのね。
「力ある獣という意味では、特別に強大な魔獣と変わらないわ」
「扱いには気をつけろ。討伐対象とされれば如何なお前とてただでは済まんぞ」
「ええ。二人を人類の敵にするつもりはないわ」
「皆お前が従えているものと受け取ったのだ」
「……何故? 巫女はアヤメとソラールよ?」
私は皆の前でそう口にした。今回もアヤメの風の魔術で多くの人たちに声が届くよう細工もした。それでもなの?
「過小評価するな。自身の影響力にはいい加減気付いていよう」
「……そうね」
まさかお兄ちゃんの方から踏み込んでくるなんて。
「英雄王女の噂は誰が?」
「陛下だ。決まっていよう」
……なら。
「陛下は違う。英雄王女を手放すつもりは端っから持ち合わせていない」
何やら確信を持っている様子だ。
陛下とお兄ちゃん。何か私の将来に関して考えがあるのだろうか。だからお兄ちゃんと私を婚約させたのだろうか。それも当の私にすら内緒で。秘密裏に。
「首謀者は第一王子なの?」
「そうだ。あの小心者は今頃震え上がっているだろうさ」
「……もしかして邪魔しちゃった?」
「何故邪魔をしていないと思った」
「ごめんなさい……」
そっか。お兄ちゃん、もう証拠を押さえてくれてたんだ。
「第一王子は引きずり降ろす。奴に王位は務まらん」
お兄ちゃんが燃えている。……何に? まさかの野心?
お兄ちゃんって王様になりたかったの?
「私に出来ることは?」
「大人しくしていろ」
「作戦を聞いても?」
「婚約発表だ」
「……うん? なんですと?」
「こと此処に至っては隠し続けても意味があるまい。我らの婚約を公表しよう。それで我が第四王子派閥が力を得る」
「えっと……」
「案ずるな。いずれ破棄する。一時的なものだ」
「お兄ちゃん……」
「兄様と……いや。許す。レオンと呼べ。クーフェリア」
「それは嫌」
「なんだと?」
「私はお兄ちゃんが好きなだけで、レオンさんを好きなわけじゃないもん」
「……」
お兄ちゃん? どうしてそんな顔するの?
「むごい……」
「今のはあんまりだよ……クーちゃん……」
えっと? 何が?
「……行け。お前たちにはやるべきことがあろう」
お兄ちゃんは私に背を向けて呟いた。
「大人しくしていなくていいの?」
「クーちゃん。空気読んで」
アヤメに引きずられて退室した。
お兄ちゃんは窓の外に視線を向け、こちらを見ようとはしなかった。




