03-27.殴り込み
「魔獣っ!? なのか!? なんだあの巨体は!!」
バルトローグ王国の王都は混乱の只中にあった。
突如として現れた灼熱の怪鳥。燃え盛るその姿は見る者全てに否応なく恐怖を植え付けた。
空を焼き尽くす程の巨大な炎の塊が突っ込んでくる。
城目掛けて一直線に。
如何に王族を守ると堅く誓った騎士たちと言えど、身を呈したところでなんら意味のない圧倒的な質量差の前では、為すすべなどあろう筈も無かった。
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「どうすんのこれ。城中大騒ぎだよ」
「出番よ。ヒマリ」
「イエス♪ マイロード♪」
城の最も高いバルコニーへ飛び出すソラール姫。
バッチリドレスまで着込んで、準備は万端だ。
眼の前に迫る大怪鳥は、さながらお姫様を攫いに来た邪竜のようにも見えてくる。
健気なお姫様が、自らの身を差し出すことで、邪竜に王国を傷つけぬようにと願っている。そんな感じの光景だ。
『我が身を捧げます! 見逃してちょ!』
『しゃあねえな♪ おめえ見どころあんじゃねえか♪ よく見たら俺の探してるやつだったわ♪ 貰ってくぜ♪』
そんな感じのやり取りをアヤメの風魔術で拡声し、王都中にソラール姫の献身を広めつつ、どさくさ紛れに私とアヤメも纏めて連れ去ってもらった。
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「びっくりする程上手くいったね」
「そう言ったじゃない」
この私の作戦が失敗する筈ないじゃない。
「この炎不思議♪ 全然熱くない♪」
ヒマリはアヴィスの背に寝そべって燥いでいる。
「アヴィス! このままティグリスと合流よ! それからアルミディア王国に殴り込みなさい!」
『心得た!! 王よ!』
アヴィスは更に速度を上げて飛んでいく。景色が一瞬で流れていく。来た時とはえらい違いだ。もう数分の内にはアルミディアの王都が見えてきそうだ。
「殴り込みって……」
「例えよ、例え。別に本気で攻撃するわけじゃないわ」
「そもそも何しに行くの? アヴィスが全員攫ったんだから、後は成り行きに任せたら? 暫く行方を眩ませれば、皆わたしたちのことは諦めるんじゃない?」
「何のためにヒマリに目立ってもらったと思っているのよ」
「クーちゃんが昼行燈を続けるためだよね。けどさ。地下に潜って影の英雄やるんでもいいんでしょ? 元々いつかはそうするつもりだったんだし」
「忘れないで。私たちはメルヴィ姉様の下へ戻る必要があるのよ」
「もう一度アヴィスに乗ってバルトローグに戻るの?」
「そうよ。ヒマリ……ソラール姫はアヴィスを乗りこなして遠乗りから帰って来るの」
「なんかそれだと英雄譚っていうより、ただの家出みたいになっちゃうんだけど」
「邪竜を手懐けて自力で帰って来るお転婆姫がいたって良いじゃない」
「バルトローグ版の英雄王女だね」
「あなたも含まれるのよ」
「わたしは王女じゃないもん」
「けれどアルミディアの守護神獣を手懐けるんじゃない」
「ティグリスの場合は守護者っていうか、ただ近くの森に住んでる大物ってだけじゃない?」
「これから据えるのよ。当然でしょ」
「大役だね……その相棒……相棒でいいの? 従者?」
「巫女にしましょう。一番それっぽいし」
「細かいところはこれから決めていく感じなんだね。だいぶライブ感あるね」
「アヤメも考えておきなさいよ。名乗り口上」
「や~だぁ~!」
やだって言われてもやらせるわよ。諦めなさい。
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「クーフェリア。これはどういうことだ」
「ご無沙汰しております。陛下」
アルミディアの王城に直接乗り付けると、真っ先にパパたちが駆け寄ってきた。
「先日の旅路にて四神獣の皆様と友誼を結ぶ機会が巡ってまいりました。陛下もご存知の風の四足獣は、我が側仕えのアイリスと、こちらの炎の巨鳥は隣国バルトローグ王国が第二王女、ソラール様と契りを結ばれました」
「……何故連れてきた」
「ご厚意によって自由に空を渡らせて頂けることとなりましたので。先日のトラブルについて直接お返事を伺いに参りました。陛下のお耳には届かれていらっしゃるでしょうか?」
「……」
何その顔。まさか本当にパパが私を売り飛ばしたの?
「……聞いておらん。何の話だ。護衛隊長の任はどうした」
「先方にはメルヴィ第四王女ではなく、このわたくし、クーフェリアが嫁ぐと伝わっておりました」
「なんだと?」
「ヴァルター・バルトローグ王太子殿下が調査のために人を遣わしてくださったそうですが……こちらには届いていらっしゃらぬようですね」
「早急に調べろ」
「ははっ!」
陛下が側近に命じた。
レオンお兄ちゃんはどこだろう。転移門の存在を明かすわけにもいかないから陛下には伝えずに調査を進めていたのだろうけど、ここまで何も伝わっていないとは思わなかった。
お兄ちゃんならそれとなく情報を流すことだって出来ただろうに。
もしかしたら今のパパの行動は何か誤魔化してる? 私の前だから知らないふりをしてる? やっぱりパパも今回の件には関わってるの?
「我らは現在バルトローグの城内にて軟禁状態にあります。事実確認が取れるまで彼らは解放するつもりがありません」
「それを伝えに来たのだな。良い判断だ。後は任せてお前は……」
「いいえ、陛下。ただ座して待つつもりはありません」
「なんだと?」
「調べはついております。バルトローグ王国の王太子派閥に属する有力貴族が口を割りました。共犯者は我が国の第一王子派閥に属する方々です」
「……それを信じろと? 何か証拠はあるのか」
「ですから参ったのです」
「……好きに動け。余が許す」
「感謝致します。陛下」




