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虚空少女の風騙り ~ 英雄王女の異世界昼行灯 ~  作者: こみやし
03.夏季休暇編

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03-26.作戦会議


「マズいわね。とてもマズいわ。お姉ちゃん」



「……何がさ。一応聞いてあげるけど、今の絵面以上にマズいことなんてそうそう無いと思うんだけど」


「寝ぼけた事を言っている場合ではなくってよ。アヤメ」


 まったく。私がこんなにも頭を悩ませているというのに。



「そろそろ降りてくれません? クー様。妹様。ご主人様」


「二人ってそういう関係だったんだね。ちょっとびっくり」


「ほら。ヒマリに誤解与えちゃってるからさ。引いちゃってるからさ」


「誤解? 誤解ですって? 何? お姉ちゃんの心には何か恥ずべきものでもあるというの?」


「いえ……普通に体勢の話をですね……」


 何が不満だと言うのかしら?



「これは罰よ。アヤメ。私にとってはなんら恥ずべき体勢ではないわ」


「わたしを虐めたいだけなんだね。そうなんだね」


「罰だと言っているでしょう。わからない子ね」


「だからってわたしを椅子にすることないじゃんか~……」


 ソファに寝かせたお姉ちゃんの背に座っているだけじゃない。床に四つん這いにさせているわけでもあるまいし。



「わたしはいつだってクーちゃんの顔を見ていたいのに」


「だから罰だと言っているでしょう」


 顔合わせる度に意地悪してくるんだもの。そんなに私に嫌われたいのね。お姉ちゃんったら。



「普通に息苦しいんだけど」


「私が重いとでも? お姉ちゃんの想いはその程度なの?」


「意外とリアちゃんの方がイケイケなんだね」


「ねえ、ソラール。私思うの。流石にややこしすぎるんじゃないかって」


「黒幕はシンプルだったでしょ?」


「そっちじゃなくて。呼び方の方よ」


「あ、うん。そっち」


「そうそっち。私はアヤメをお姉ちゃんと呼んだり、アヤメお姉様と呼んでみたり。ソラールはソラールでしょ。けどアヤメはソラールをヒマリと呼ぶし。ソラールもソラールでアヤメをアヤちゃんと呼んでるし。私のことはリアちゃん呼びだし。アヤメも私をクーちゃんと呼んだり、クー様と呼んだり、カヤと呼んだり。そろそろ混乱してきたわ」


「うん。ボクも。そもそもボクって巻き込まれただけじゃないかな。リアちゃん呼びはリアちゃん本人からの指定だし。あと今そんな話してる場合じゃないと思うよ。割とピンチだよ。リアちゃんたち」


 そうね。アルミディア王国第一王子派閥とバルトローグ王国王太子派閥のタッグチームとか、どう考えても手に余るわよね。こちとら第十一王女だもの。当然よね。



「どうしたら良いと思う?」


「ピンチの話? 呼び方の話?」


「どっちも」


「前者だけにしよう」


「仕方ないわね」


「寛大な御心に感謝致します。マイロード」


「また増えたね」


「紫(ゆかり)お姉ちゃんは黙ってなさい」


「どうしてそこで前世の名前を持ち出すのか」


「そろそろ真面目に話を進めましょう。いつまでも遊んでいてはダメよ、アヤメ」


「理不尽……」


 さて。



「アヤメ。私はこれからアヤメ呼びで固定するわ」


「……たまにお姉ちゃんって呼んでくれてもいいんだよ?」


「二人きりの時に取っておくわ」


「あ、はい」


「見せつけてくれるね~」


「ヒマリ。私もあなたをヒマリと呼ぶわ」


「おっけ~。てことは」


「ヒマリも私をクーちゃんと呼びなさい。アヤメも構わないわね?」


「構うけど……我慢する」


「よろしい。良い子ね。私のアヤメ」


 ナデナデ。良いわね、この体勢。頭が撫でやすいわ。



「ヒマリ、アヤメ、クーちゃん。この三つで固定だね」


「別にアヤちゃん呼びくらいなら構わないわ」


「イエス、マイロード」


「その返事も認めましょう」


 ただし例外はここまでね。



「次の話に移りましょう」


「サクサク進行だね♪ こういうの待ってた♪」


「あら。ただ待っているだけなんて勿体ないわ。ヒマリは動ける側の筈でしょう。遠慮せず好きにやりなさい」


「イエス♪ マイロード♪」


 その様子なら何か作戦を考えて来てくれたみたいね。



「話は簡単だ♪ 兄様の求心力を高めればいい♪ 要は派閥の者たちに勝手な真似を許してしまっているから問題なんだもん♪ 兄様が完璧に制御出来るなら解決だね♪」


 そりゃまあ、確かに。



「けれど困ったわね。夏休みが終わるまでには帰りたかったのだけど」


「諦めなよ、クーちゃん。それはどう考えても無理でしょ。なんなら今日出発したってもう間に合わないし。転移使うならともかくさ」


 実際そうなんだけどね。困ったものね。



「だからと言って、ゆっくり待っている余裕は無いわ」


 これから成長を見守るのは流石にね。



「ふっふっふ♪ もっとシンプルな作戦もあるよ♪」


「何よ。もったいぶってないで言いなさいよ」


「名付けて♪ 恋のキューピット大作戦♪ 兄様とメルヴィ王女をくっつけちゃおう♪ 一夏の恋物語♪ inバルトローグ王国編♪」


 今の全部名前かしら。長いわね。内容は伝わったけど。



「残念だけどそれは無理だよ」


 アヤメ? 何故そう言い切れるの?



「メルヴィ王女はノーラ姉が好きなんだ。王女だから素直に嫁いだだけで、ヴァルター王太子に恋をするとは思えない。そもそもそんな手伝いはしたくない。護衛はクーちゃんの王女としてのお仕事だから仕方ないにしても、それ以上踏み込むのは間違ってるよ」


 ……流石ね、お姉ちゃん。


 お姉ちゃんってこういう所は本当に誠実よね。素直に尊敬するわ。



「おっとぉ。それはリサーチ不足だったね。野暮なことを言いました。ごめんなさい」


 ヒマリも素直に撤回してくれた。この子もやっぱり良い子よね。



「いっそ全ての企みを暴けばメルヴィ王女を連れ帰ってノーラ姉とくっつけることも出来るんじゃ……」


「もちろん協力するよ♪ 好き合ってる同士が結婚すべきだよね♪ それが女の子同士だって言うなら尚の事だよね♪」


 おいこら。私の感心返せ。



「ダメよ、二人とも。派閥の制御も出来ていない王太子殿下はともかく、メルヴィ姉様の決心を蔑ろにするのは許さないわ。口出しは無用よ。それは本人たちが決めるべきことよ」


「「は~い」」


 本当にわかってる?



「好きにやれとは言ったけど、二人は私の臣下よ。私の意にそぐわないことをやらかしたら容赦なく罰するわよ」


「「イエス! マイロード!」」


 なんだか苦労させられそうだわ。この二人には。



「でもさ、クーちゃん」


「でもは無し」


「メルヴィ王女が望んだら協力するのも吝かじゃないんだよね?」


「だからって唆すのは認めないわ」


「そうじゃなくて。王太子は端っからクーちゃんのことしか見てないんだよ。なのに実は手違いでしたって後から判明したとして。それでやっぱりメルヴィ王女と結婚しますって言うと思う? そんなの不誠実だよ。ヴァルター王太子は良い人だし、自分から辞退するんじゃないかな」


「……そういうのを唆すって言うのよ」


「違うよ。わたしたちはただ真実を詳らかにするだけだよ」


「だいたい裏でコソコソしているのはアルミディアの貴族たちだって同じよ。なんなら発案はあっちだって話じゃない。不義理もなにも無いでしょ。そもそも突き返すのが誠実だなんて話も無茶苦茶よ」


 そりゃ何かしらのケジメは必要になるのでしょうけれど。


 だからって突き返されたら、メルヴィ姉様の立場が無いじゃない。



「だからね。クーちゃんにも協力してほしいんだ」


「……まさか私に惚れさせろと?」


「うん。そうすれば王太子が選ぶ選択は一つになるでしょ」


「ふざけないで。お姉ちゃんまでそんな事を言うなんてガッカリよ」


「違うんだよ、クーちゃん。王太子はもう間違えてるんだ。だって最初に会った時にクーちゃんへ声を掛けてしまったんだから。メルヴィ王女にではなくね。それが本人の与り知らぬところで仕組まれた結果なんだったとしてもだよ。そもそも派閥の責任は全て王太子のものだよ。隣国と取引したからって関係無いんだよ。だからこれは必要な罰なんだ」


「そんな勝手な」


「わたしは何もクーちゃんに言い寄れと言ってるわけじゃない。ただ知らぬふりで話を合わせてと言ってるだけだよ」


「余計なお世話よ! 王太子に落ち度があろうがなかろうが関係ないわ! 私たちにだってそれを咎める権利なんてありはしないのよ!」


「ならどうするの? このまま軟禁生活を続ける? 王太子は約束を果たせていないんだよ。アルミディアに確認すると言ってから既に一週間以上経ってる。その間彼は何一つ成果を上げられていないんだ。彼が誠実で正直な心を持っているのだとしても、彼の行動は誠実とは程遠いものなんだよ。何故なら彼は、立場に見合った成果を出せていないんだから」


「やり方の問題よ! 素直に伝えればいいじゃない!!」


「それに何の意味があるの? 彼が知ったからって状況を変えられるの? 配下たちが『嫁いできたのはクーフェリア王女です。間違いありません』と口を揃えて言ってきたら、彼は『また確認するから少し待っていてくれ』なんて言い出すんじゃないの? そうなれば今度は部下たちがより暴走するだけなんじゃないの? クーちゃんならわかるでしょ? 想像がつくでしょ? 今よりもっとは動き辛くなるんだよ?」


「……だからって」


「わたしたちが皆に声を届けるには、舞台と立場が必要なんだよ。彼にはそこまで連れて行ってもらうだけだよ」


「……そこで恥をかかせるの? 本当に必要なことなの?」


「仲間に引き込んでもいいよ。やる事は変わらないけど」


「……だから言わない方が良いと?」


「そうだね。それがせめてもの礼儀だと思うよ」


「……ヒマリはどう考えているの?」


「ごめんね、クーちゃん。ボクが先に兄様のお尻を叩いていれば済んだ話だったのにね。ボクは自分の欲望のために口を閉ざしたの。だから何も言う資格は無いんだよ」


 ……なによそれ。



「……気に入らないわ」


「「クーちゃん?」」


「要するにこれって、打ち倒すべき明確な悪が居ないから、自分たちで悪役にしようって話よね。気に入らないわ」


 賢い政治のやり方だかなんだか知らないけど、私の覇道にそんな過去(もの)は必要ないわ。



「そうよね。私の戦場は隣国(ここ)じゃないのよね」


 どうりでボスキャラがポップしないわけだ。当然だ。この地は私にとっての攻略すべきダンジョンではないのだから。



「アルミディアに帰るわよ」


「「本気!?」」


「もちろん転移は見せないわ。アヴィスに乗って帰るのよ」


「「けどそんな事したら!」」


 なんでこの子たち息ぴったりなの?



「問題無いわ。目立つのはヒマ……いえ、ソラールだもの」


「「えぇ~~~!?」」


 ちょっと鬱陶しくなってきた。



「そうだ。どうせならアヤメにもやってもらいましょうか」


「「まさか!?」」


「二人には四神獣の契約者として名を広めてもらうわ。私の昼行灯計画に協力なさい」


「「まだ諦めてなかったの!?」」


「ちょっと。どうしてヒマリまで知ってるのよ」


「い、いやなんとなく♪ つい勢いで♪」


 無理があるでしょ。それは。



「吐きなさい」


「いや~……♪ あはは~……♪」


「そう。ヒマリなのね。学園にスパイを送り込んだのは」


「ぎくぅっ!?」


「スパイ? それってもしかして前に言ってたやつ?」


「ええ。学園入学初日、アヤメと出会う前日に襲われたの」


「誤解だよ!? 襲わせてないよ!?」


 あっさりゲロったわね。



「妙だと思ったのよ。あの賊共は私の魔力適性を調べようとしたくせに、何故か攫おうとはしなかったんだもの」


「本当にただ知りたかっただけなんだね。クーちゃんを」


 可哀想に。そんなことのために遣わされたスパイたちは今も牢獄の中かしら。それともとっくに……。



「いったいいつから嗅ぎ回っていたのよ」


「え、えへへ~……♪」


「女神様と会ったこと無いって話も嘘なんじゃない?」


「ちがっ!!」


「もう信用出来ないわね」


「違うの! ボクはただ興味があって!!」


「ストーカーね」

「ストーカーだね」


「ぐふっ!?」


「ヒマリ。あなた個人的に影の組織を持っているんでしょ」


 どうりで情報を掴むのが早いわけだわ。



「そうやって暗躍を続けてきたんだね。丁度良かったね、クーちゃん。クーちゃん欲しがってたし。そういうの」


「そ、そう! そうだよ! 全部王様にあげるから! ボクはそのために今日まで!」


「私はそんなものより忠実な一人が欲しいのよ」


 身を乗り出してヒマリの頬に手を添える。



「は、はいぃ~……ちゅかえましゅぅ~……」


 顔を真っ赤にして蕩けだすヒマリん。チョロいわね。



「そう。忠誠心さえ本物なら構わないわ。好きに私を愛しなさい。私も愛を以って応えてあげる」


「イエス! マイロード!!」


 いきなり元気になったわね。



「カヤ。お姉ちゃんそういうの良くないと思う」


「クーちゃんと呼びなさい。言ったでしょ、アヤメ」

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