03-25.黒幕の正体
「リアちゃんとアヤちゃん、なんか雰囲気変わった?」
「ええ。恋人になったの」
「おぉ!! おめでとう!! やったじゃん♪」
「ありがとう♪ ソラール♪」
嬉しいわ♪ そうやって素直に祝福してもらえると♪
「本当にそんなこと言っていいの? クーちゃん」
「ありゃ? 早速喧嘩中?」
「いえね。アヤメったら私の保護者たちが怖くて堪らないんですって」
「あはは♪ なっさけない♪」
「そんなこと言ってないでしょぉ!?」
今言ったじゃない。お姉ちゃんはユキノが怖いんでしょ。
「頑張れ♪ アヤちん♪ ボクも出来ることはしてあげるからさ♪」
「調べ物はどうしたのさ。こんなところで油売ってないで早く黒幕を見つけてとっちめてよ」
「もちろん見つけてきたよ♪ だから来たんじゃん♪」
え? もう? やるわね。
「結構ヤバいね、これ。下手すれば共倒れかも」
ソラールの声のトーンが変化し、真面目な話が始まるのだと伝わってきた。
「うちもそっちも絡んでる。唆したのはこっちだけど。目的はリアちゃん……英雄王女だよ」
まさかソラールの口からもその呼び名を聞くなんて。
「このまま強引に兄様とリアちゃんの結婚を進めるつもりだよ。今はリアちゃんたちが大人しくしてるから刺激してこないけど、何かあればメルヴィ王女を人質にするつもりなの」
「クーちゃんに人質は通用しないよ」
「そうだね。けど向こうは知らないからさ」
白黒結界があればいつだって取り戻せる。この結界には通常の時間停止のような弱点もない。例え密閉空間に閉じ込められたって関係ない。そもそも転移だって使えるし。
「アルミディアのどこまで関わっているかわかるかしら?」
「第一王子派閥だ」
……なるほど。だからこその共倒れね。
王位継承争で国外の力を借りると、大概良くない方向に進むものだものね。
それもバルトローグのヴァルター王太子は知らされてすらいない。あくまで関わっているのは王太子の派閥の者たちだ。彼らがアルミディアの第一王子派閥の者たちと協力して今回の計画を企てたのだ。
アルミディアの第一王子本人がどういうつもりかは知らないけれど、王子たち本人の意思というより派閥の勝手な暴走という面が強くなれば尚たちが悪い。うっかりバランスを崩せば、なし崩しに戦争が始まるかもしれない。なんて危険な火遊びだ。こんなバカげた計画を本気で実行しようというのだから驚きよね。
「アルミディアの国王は頑張ってリアちゃんの存在を隠そうとしてきたみたいだけど、英雄王女の噂はどこにでも広がっているんだよ」
「噂って? 具体的にはどんな噂が流れているの?」
「色々だよ。神にすら届き得る膨大な魔力の持ち主だとか。その魔力を授かった直後に制御してみせたとか。神代の封印を解き、封じられていた未曾有の脅威を根こそそぎ消し去ったとか。後は学園無双とか。巨大な魔獣を従えたとか」
うわぁ~お。全部バレバレだわぁ。
……そっか。私が最初から目を付けられていたのなら、口止めになんて意味は無かったのね。白虎と朱雀を出動させたのは早計だったかしら。……いえ。あの時は他に手もなかったのよね。
「その反応は間違いじゃなさそうだね♪ やっぱりリアちゃんこそが主人公なんだね♪ ボクの目に狂いは無いね♪」
「ヒマリは最初から知ってたの?」
「少しだけね♪ ボクでも集められる程度の噂だけだよ♪」
程度……ねぇ。……それはまた随分と謙虚ですこと。
「アルミディアの事情にも詳しいのね。ソラールは」
「元々留学するつもりだったからさ♪」
……意外と油断ならないわね、この子。何も考えずに笑顔を浮かべ続けているタイプではないのね。
「どうりで覚悟が決まっていたわけだわ」
「別に隠していたわけじゃないよ♪」
どうかしらね。
いえ。それはそれとして。
今は状況を整理するのが先よね。
「第一王子派閥の目的は私の追放よね」
「うん。だろうね」
英雄王女は目立ちすぎてしまったのね。アルミディア王国第一王子の立場を脅かしてしまう程に。
おかしいわね。昼行灯はどこへいってしまったのかしら。
……いえ。私が昼行灯に拘っていたせいよね。だから気付くのが遅れてしまったのよね。
いいわ。受け止めましょう。私はもう目を逸らさないと決めたのよ。抱える後悔なんて一つあれば十分よ。
「本当に第一王子の派閥だけなのかな」
アヤメ?
「何を気にしているの?」
「いくらなんでも噂が広まりすぎじゃないかな。陛下は本当にクーちゃんを隠すつもりがあったのかな」
「ありえないわ。陛下が私を遠ざけるだなんて」
だってそんなの。
「継承争いに巻き込まれるのは時間の問題だと判断したんじゃない? 陛下はクーちゃんを守りたい筈でしょ?」
「危険すぎるわ。私を国外に流せば……いえ。それこそあり得ない話よね」
「だよね。クーちゃんなら例え隣国に嫁いだってアルミディアに敵対することはないもんね。誰より家族を大切に想うクーちゃんだもん。陛下もそれはよくわかってたんだよ」
「けれどそれでもよ」
「王様が父としての個人的な判断で動く筈がない? 国家防衛の要となり得るクーちゃんを手放す筈がない? そんなことないでしょ。クーちゃんのお父さんだもん」
「アヤメ。混同してはダメよ」
「そうだね。少し話を広げすぎちゃったね。今は戻そうか」
そうして頂戴。
「もし仮にアルミディアの国王までもが関わっているなら、リアちゃんに選択の余地は無いよね」
アルミディアの王女としてこのまま在り続ける道は閉ざされるのでしょうね。
「アルミディアの第一王子派閥とうちの王太子派閥。この二つが組んでるってだけでも、ぶっちゃけ勝ち目は無いよね」
……そうね。私個人の持ち得る力では限界があるもの。少なくとも政治的な方向性においては皆無とすら言えるわね。
いえ。味方はいるのよ。けれどレオンお兄ちゃんは第四王子だもの。それに派閥として動けるわけでもない。あくまで動けるのはお兄ちゃん個人だ。それはもう無いも同然と言うしかないのが現実だ。今回ばかりは相手が悪すぎるのだ。
「あるよ。勝ち目」
「アヤちゃんは何を思いついたの? 聞かせてくれる?」
「ティグリスだ。クーちゃんが嫁いだら、アルミディアの守護神獣もついて行くと伝えてしまえばいい」
「……ダメよ、アヤメ。それをやったらティグリスが人間の政治に縛られることになるわ」
「王であるクーちゃんのためだもん。喜んで協力してくれるよ」
「だからって」
「良い手だとは思うけど、正直ちょっと弱いよね」
ソラールにはまた何か違った意見があるようだ。
「バルトローグ王国だって馬鹿じゃない。何でもかんでも無条件に受け入れられはしないんだ。結果として神獣の移動は認められないんじゃないかな。なんとしてもリアちゃんを説得しにくると思うよ」
リスクが大きすぎるのね。ただでさえ英雄王女を抱え込むのだ。その上神獣までとなれば、周辺諸国とのパワーバランスが崩れて要らぬ警戒を招くだろう。それはきっと敵意にだって繋がり得る。誰もが理解できる単純な力とは、それだけ扱いに気を遣うものなのだ。
もちろん周辺諸国の目と同様、アルミディアとの関係だって問題だ。約定を破って奪いすぎれば今の半端な協力関係なんて容易く崩れ去るだろう。
「いっそ独立しちゃうのも手だよね。そっちの方がよっぽど脅しになると思うよ」
「良いんじゃない? クーちゃん元々そのつもりだったんだし」
「軽く言ってくれるわね……」
アヤメは私の気持ちを知っているでしょうに。
「クーちゃんは影の英雄になるんでしょ? 別に王女の立場に拘る必要もないじゃんか」
「お兄ちゃんやパパに会えなくなるじゃない!」
「会えばいいじゃん。クーちゃんには転移だってあるんだから。遠慮しなくて良いんだよ。好きに生きたって良いんだ」
……アヤメ。
「本当はお母さんにも会いに行きたいんでしょ?」
「っ!! 勝手な事言わないでっ!!」
「居るんでしょ。侯爵領に。行ったことがなくて転移がまだ使えないなら、アヴィスに乗っけてってもらえばいいのに」
「だ、黙りなさい!!!」
「何をそんなに怖がっているの?」
「アヤメ!!」
「カヤ。落ち着いて、カヤ。大丈夫。大丈夫だよ」
「やっ! 触らないで!!」
「カヤ」
「その名前で呼ばないでよ!!!」
「カヤ」
「そ、そんなやり方で嫌いになったりなんてしないわ!!」
「そっか。なら諦めるよ。ごめんね、クーちゃん」
「……どうして」
「どうして? わからないの? 本当に?」
「……もうやめて」
「そっか。クーちゃんは嫌いになるのが怖いんだね。お母さんのことを嫌いになりたくないんだね。クーちゃんを置き去りにして自分だけ実家に」
「アヤメ!!!」
「よかった。カヤも成長してたんだね。わたしの知らないところで。少し安心したよ」
「……ひどい……酷いわ……お姉ちゃん……信じてるのに」
「ごめんね。クーちゃん。本当にもうしないから。今はさ」
お姉ちゃんが私を抱き締めた。
今度は拒絶なんて出来なかった。




