03-24.姉妹喧嘩未満
「酷いよ、カヤ。結局全部言っちゃうんだもん」
「何よ。後悔なんてしないって言ってくれたじゃない」
「そうじゃなくて。わたしから謝りたかったのに」
「お姉ちゃんがグズグズしてるからでしょ」
「自分だけスッキリした顔しちゃってさ」
「ええ。これで心置きなくあなたを愛せるわ♪」
「そこはちょっと複雑……」
「何よ。恋心は消えてしまったの?」
「……正直」
「酷い裏切りだわ」
「誰のせいで……」
「やっぱり後悔しているんじゃない」
「今増えたんだよ! 自分の不甲斐なさのせいでね!!」
ふふ♪ やっぱりアヤメは私を愛してくれているのね♪
「……本当にごめんね、カヤ。わたしは何もしなかった。見てみぬふりをし続けた」
「正直わかっていたわ。お姉ちゃんが私から目を逸らしていたことは」
「うぐ……」
「けれどそれは私も同じなの」
「くっ……」
「だいたいお姉ちゃんが私を疎ましく思うのは当然なのよ。だってあの人は……父は私のためにお姉ちゃんのお母さんと結婚したんだもの」
「疎ましくなんて思ってないってば! ちょっとだけ! ほんのちょっぴり不貞腐れてただけ! 誰でもあるでしょ! 思春期ならさ!」
「よく言うわ。家族の前でも平気で下着姿を晒していたくせに。どの口で思春期なんて」
「なっ!? ちがっ! あれは!! お母さんとの二人暮らしが長かったから!! つい癖で!!」
「お姉ちゃんって前世の頃から隙だらけよね」
「っ!! カヤは正反対じゃん!! あの根暗引き篭もりオタクがどうしてクーちゃんになるのさ!? 意味わかんないよぉ!?」
「ひっど。そんな風に思っていたのね」
「あっ! ちが! だから嫌ってたとかじゃなくて!!」
「わかってる。お姉ちゃんはただ、接し方がわからなかっただけよね。最初に不貞腐れてしまったから、その後の距離の縮め方がわからなくなってしまったのよね」
「うがぁ~~!!!」
黒歴史を突かれて羞恥と後悔に悶えるお姉ちゃん。
「ねえ、知ってる? お姉ちゃん」
「……何が?」
「お姉ちゃんが一年早く転生した理由」
「……それは」
「あの事故の時。お姉ちゃんは私を庇ってくれたの」
「……結局カヤだって」
「そうね。ごめんなさい。折角お姉ちゃんが庇ってくれたのに。けれどね。私が言いたいのはそんなことじゃなくてね。お姉ちゃんのお陰で私は一瞬長く生きていられたの。だから私はまたお姉ちゃんの妹になれたの。ありがとう、お姉ちゃん。私にやり直しの機会を与えてくれて。もう一度私のお姉ちゃんになってくれて」
「……お姉様って呼んでくれなくなったくせに」
「痛いところを突かれてしまったわね」
「感動話風に言ってるけどさ。クーちゃんって結構薄情だよね。前世でそんな経験をしたのに、姉と思えなくなったなんて言えちゃうんだもん」
「そうよ。そう言ってるじゃない。私ってとっても薄情者なの」
「けど後悔してるんでしょ?」
「そうね。父にはどれだけ謝っても足りないわ。けれどそれは今の私だから言えることね。この世界で実の両親にいっぱい愛されて生きてきたからこそ理解できたことなのよ」
「父さんだって……」
「わかってる。だから私はこの先も後悔を続けるわ。だから私は家族を何より愛し続けるわ」
「……心置きなく愛するってそういう意味?」
「何か問題があるかしら?」
「大有りだよ。わたしの気持ちを知ってるくせに。よくそんなことが言えたよね」
「冷めてしまったのでしょう?」
「訂正するよ。やっぱりクーちゃんはクーちゃんだ。カヤじゃない」
「そう。少し残念だわ。お姉ちゃんには姉の愛を教えてほしかったのに」
「我儘すぎない? いくらなんでもさ」
「そんな私が好きで堪らないのでしょう♪」
「嫌いになりそうって初めて思ったよ」
「それは勘弁してほしいわね。どうしたらアヤメの心を縛り付けておけるのかしら」
「そこは『お姉ちゃんの』って言ってくれないんだね」
「結局どっちが良いのよ。あなたの方こそ我儘じゃない」
「わたしはどっちも愛するよ。後悔なんて捨てるべきだ」
「私はそうは思わないわ。後悔は抱えて生きるべきよ」
「だから区別するの? アヤメとお姉ちゃんを別人として呼び分けるの?」
「お得でしょ♪ 私の愛を二重に受け取れるんだもの♪」
「嫌だね。クーちゃんには『わたし』だけを見てもらいたいもん」
「あなたこそ別人として分けているのではなくて?」
「どっちであっても『わたし』だよ」
「カヤへの愛は捨ててしまうのに?」
「捨てるのは後悔だ。愛じゃない」
「同じことでしょ。だってあなたは、妹ではなく恋人として愛したいのでしょう?」
「なんでそうなるのさ。どっちも愛するって言ってるじゃんか」
「いいえ。あなたはクーフェリアだけを愛するわ。カヤを忘れてね。それが後悔を捨てるということよ」
「違う! 間違ってるよ! クーちゃん!」
「ほら。カヤと呼ばないじゃない」
「呼ばれたくないのはクーちゃんの方でしょ! カヤを否定したいのはクーちゃん自身だよ!」
「だから気を遣ってくれているの? 優しいのね。アヤメ」
「カヤ」
「なにかしら? お姉ちゃん♪」
「愛しているよ。カヤ」
お姉ちゃんは私に口づけた。
「……ふふ♪ 禁断の愛がお好みなのね♪」
「いいじゃん。どうせ前世でだって血の繋がりはないんだから」
「あら酷い。そんな言い方はないじゃない」
「クーちゃん」
アヤメはもう一度口づけた。
「結局私に合わせてくれるの?」
「どっちも纏めて愛してるって証明してみせるよ」
「私たちの意見は本当にすれ違っているのかしら?」
「全然違うよ。正反対だ」
「そう。残念ね。折角仲直り出来たと思ったのに」
「一度だって喧嘩なんかしてないじゃんか」
「……それもそうね。ならこれが初めての喧嘩かしら」
「絶対に負けないよ」
「喧嘩って勝ち負けなの? 私したことないからわからないわ」
「愛することでしか人と本気で向き合えないんだね」
「それの何がいけないの?」
「クーちゃんは誰かを本気で嫌いになれたことなんて無いんだよ。それってとっても不幸なことだと思うよ」
「どうして? 増々わからないわ」
「前世の父さんのことだって、嫌いになれたらカヤは変われていたんだよ」
「そんなのあんまりじゃない」
「ううん。父さんはそうしてほしかったんだ。カヤにもっとぶつけてほしかったんだよ。けどカヤはそうしなかった。出来なかった。わたしたちのせいで。わたしたちがカヤに嫌われてあげなかったせいで。ごめんね、カヤ。わたしが必ず変えてみせるから。きっとクーちゃんに嫌われてみせるから」
「わからないわ。結局あなたは私たちを分けているの? 後悔を抱き続けているのではないの?」
「違うんだよ、クーちゃん。人は後悔を抱えるべきなんじゃない。反省をするべきなんだ。ちゃんと喧嘩してちゃんと嫌いになって、少しずつ落としどころを見つけていくんだよ」
「私は反省をしたことが無いとでも?」
「うん。つまりはそういうことだ。流石クーちゃん。頭は良いもんね。理屈では理解出来るんだよね」
「バカにされるのは好かないわ」
「違うよ、クーちゃん。これはわたしの反省だよ」
「難しいのね」
「簡単なことなんだよ。誰でも当たり前に理解しているものなんだよ」
「私にはその当たり前が無いと言いたいのね」
「うんうん。その調子その調子♪ やっぱりクーちゃんは頭が良いね♪」
「絶対馬鹿にしてるでしょ」
「嫌いになった?」
「なれるわけないでしょ」
「まだまだ足りないか」
「わたくしは感情が欠如しているわけではなくってよ?」
「そうだね。怒りはあるもんね。どうして嫌いに繋がらないんだろうね。不思議だね」
……もう。あなたがそんなんだから怒りも引っ込んじゃったじゃない。
「やっぱり無理よ。私がアヤメお姉様を嫌いになれる筈がないじゃない」
「……考えてみたらあの父さんの娘だもんね。誰かを嫌いになんてなれる筈なかったんだよね」
「……ちょっと今の言い方はムッと来たわ」
「そっか。そういう方向性があったか」
「アヤメお姉様でもそれは許さないわ」
そりゃあ、あの父は妻の不倫で出来た娘を嫌な顔一つせずに育ててくれた聖人君子だけれども。だからって何かが足りていなかったみたいに言われるのは許せないわね。
「ダメかぁ。これは怒りが強すぎるパターンかも」
「あんまり変なことしたらお仕置きだからね」
「これはクーちゃんより強くなるのが先かな。本当に嫌われるためにはさ」
「それこそ無茶な話じゃない」
「言うねぇ」
「けどまあ。精々頑張りなさい」
「恋人の期待には応えないとね♪」
「今何か変な言い方しなかったかしら?」
「もっかいチューしよ♪」
「嫌よ。今日はもうお終いよ」
「良いじゃん♪ 減るもんじゃなし♪」
「減るわよ。希少価値が」
「そういう開き直り方は嫌だってば」
「あなたも大概じゃない」
「わたしたちも似てるのかもね♪」
「当然でしょ。姉妹なんだから」
「世界を超えて生まれ変わっても繋がった姉妹だもんね♪」
「私の運命の相手はユキノだと思ってたのに」
「わたしを怒らせようとする理由を聞いてもいいかな?」
「お手本を見せてもらうのが手っ取り早いと思うの」
「わたしにクーちゃんを嫌えと?」
「出来ないの? 私にアヤメお姉様を嫌わせようとしているのに?」
「無茶言わないで」
「ほ~んと、どの口でって言いたくなるわね」
「わたしには必要ない。クーちゃんには必要。はい論破」
「バカみたい」
「なにおぅ!?」
ふふふ♪ あはは♪ もう♪
大好き♪ お姉ちゃん♪




