03-21.四人目の転生者
隣国バルトローグの城に滞在を始めて早一週間。
「まだ来ていないのね?」
「ああ。こちらも探らせてはいるが行方は掴めておらん」
ヴァルター王太子殿下の派遣してくれた使者が行方不明。その情報を齎してくれたのはレオンお兄ちゃんだ。
やはり辺境伯の仕業だろうか。それともヴォルター王太子が嘘を付いているのだろうか。
この状況で辺境伯が使者を攫う理由とはなんだろう。辺境伯の目的は結婚を遅らせること? いえ。それは手段であって、目的は他にある筈だ。
辺境伯は何を掴もうとしている?
アルミディア王国の王位?
バルトローグ王国での立場?
或いは他の国に寝返るつもり?
得られるものがあるとしたらこの三つだ。
バルトローグ王国を後ろ盾にアルミディア王国を落とすとして……。そのままアルミディア王国の王位を掴むのか。或いはアルミディア王国を取り込んだ後のバルトローグ王国から爵位と土地を賜るのか。似たようなことを別の国と共謀して行うのか。
常識で考えるならその辺りが落としどころだ。
あの辺境伯では、たとえ伯爵と組んでもアルミディア王国は落としきれない。
長らく隣国バルトローグとは友好的な関係が続いていた。小競り合いの一つも起こりはしなかった。
そんな環境だから、むしろ魔獣被害だって少ない方だ。
当然争いが少なければ力は衰える。他の辺境伯領の方が精強な軍隊を揃えている。しょっちゅう各地へ魔獣討伐に赴いている王都の精鋭たちにだって敵う筈もない。
もちろん四神獣のような切り札があるなら話は別だ。けれどそれなら私たちを素通りさせた意味がわからない。もっと早くに切っても良かった筈だ。
「引き続きお願いね。こちらも動いてみるわ」
「くれぐれも無茶はするな。いざとなったら遠慮なく逃げ出せ。お前にはそれが出来る筈だ」
この転移門のことを言っているのね。
最悪同行してくれた騎士たちを置き去りにしてでも、私とメルヴィ姉様だけは逃げ出せと言うのね、お兄ちゃんは。
王女が人質に取られれば当然不利になる。お兄ちゃんは純粋に私を心配して言ってくれているのだろうけど、それはそれとして、諸々のリスクも理解して動くべきよね。ここで私たちが行方を眩ませれば間違いなく戦争に繋がるものね。少なくとも敵にその口実を与えてしまうのは間違いない。
私はお兄ちゃんとの定時連絡を終えた。
さて。早速動き出すとしましょうか。
「アヤメ。お姉ちゃんたちは任せたわ」
「待って。わたしも行きたい」
「何言ってるのよ。誰が二人を守るのよ」
「四人で動こうよ。今回だけ。転生者が見つかったから」
あら。やるじゃない。
「転生者はこの国の姫だ」
……またややこしい状況ね。
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「ソラールに? クーフェリア王女は何故興味を持たれたのかな?」
「とても明るいお方だと。メイドたちが教えてくださったのです。あまりにも楽しそうに仰られるものですから。是非一度お会いしてみたくなりまして」
「そう……だね。あはは♪ 私たちも元気すぎて困っているくらいだ。あの子も喜ぶだろう。構わないよ。紹介しよう。ついておいで」
「ありがとうございます♪ ヴァルター王太子殿下♪」
王太子殿下は自ら案内役を買って出てくれた。
普段も私たちが退屈しているだろうからと、何かと気を遣ってくれる方だ。アヤメも言っていた通り、この王子様は間違いなく良い人だ。きっとこの方と結婚するメルヴィ姉様は幸せになれることだろう。
それもこれも、諸々の問題を排除できればの話だけれど。なんとしても黒幕を見つけて今回の事件にケリをつけよう。
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「隣国のお姫様!! そっちから来てくれるなんて!!」
「むぎゅ」
いきなりのハグ。出会い頭のハグ。
「む~ぅ~!」
アヤメ。ステイ。
「すっごい美少女♪ キミがボクのお義姉ちゃん? それともあっちの美人さん? どっちでも嬉しいな♪ いっそどっちも嫁いで来ちゃいなよ♪ 歓迎するよ♪ 嬉しいなぁ♪」
「こら。ソラール。客人に無礼だ」
「も~♪ 兄様ったら固いんだから♪ もうすぐ家族になるんだから仲良くしようよ♪」
「モノクロ!」
ここで?
「え? 何突然? わわ!? 皆白黒になっちゃった!? 今の呪文なの!? 兄様カチコチになっちゃった!?」
私を抱えたままワチャワチャ動き回るソラール姫。
「クーちゃんを放せ! 転生者!!」
私はアヤメによって強引にソラール姫の腕の中から引き剥がされた。
「痛いわ、アヤメ」
「アヤメ!? もしかしてキミも!? やった! 新しい家族は同郷の人なんだ!」
「ならない! クーちゃんは嫁入りなんてしないもん!!」
「クーちゃんも転生者なの!? いっぱいいるんだね! 転生者! ボクだけかと思ってたよ♪」
噛み合っているんだか、噛み合ってないんだか。
「二人とも一旦落ち着きなさい」
「クーちゃんからもなんとか言ってよ!」
「よろしくね♪ クーちゃん♪ アヤちゃん♪」
「よろしく。ソラール」
「なんで握手してんのさ!?」
「何惚けたこと言ってんのよ。私たちはソラールを勧誘しに来たんでしょうが」
「けど!」
「勧誘!? どっか連れてってくれるの!? そっか! ボクがそっちの国に行くんだね♪ 盲点だったよ♪ それはそれで楽しそう♪ 良いね♪ 行ってみたい♪」
「話が早くて助かるわ。先ずは情報共有をさせてほしいの。けれどこのまま話を続けるのはやりづらいわね。一旦結界を解くわ。状況が落ち着いてからまた話し合いましょう」
「がってん♪」
よしよし。意外と聞き分け良いわね。ソラールちゃん。
「も~! クーちゃん冷静すぎ!!」
それに比べて私の片腕は……。
いえ。アヤメもよくやってくれたわ。まさかこんなあっさり転生者を見つけ出してくれるなんてね。お手柄よ。
「ご褒美。忘れてないわよ」
「そうだった!」
「もう暫く良い子にしていなさい」
「ごくり!」
アヤメの頬を撫でると、生唾を飲み込んで目を瞑った。
「今じゃないってば」
「ふに」
アヤメの頬を摘んで引っ張ってみる。
柔らかい。食べちゃいたい。
「仲良いね♪ ボクも混ぜて♪」
「絶対ダメ!!」
もう。折角落ち着いたかと思ったのに。




