03-20.姉妹
「ちなみに事実確認ってどれだけ掛かると思う?」
「早馬なら数日中にいけるわよ。普通ならね」
事は隣国との外交問題だ。誰も彼もが全力で動くだろう。
元々二百人規模が十日で移動できる程度の距離だ。私たちはアクシデントでそれ以上に掛かってしまったけれど、二国間の距離はそう遠いものじゃない。
「辺境伯が邪魔するかも」
「あり得る話ね」
そうなっても問題が無いようにレオンお兄ちゃんにお願いしたわけだけれども。
「或いはこの国に仕組んだ人がいるかも?」
「下手なことを口にするのはやめなさい」
「大丈夫。この部屋には他に誰もいないよ」
「わかるの?」
「うん。ティグリスが色々教えてくれるの」
アヤメの成長が著しい。嬉しい限りだ。
「結局ノーラ姉を呼ぶ機会は無かったね」
「アヤメ……」
モーラもいるでしょうが。外から覗いている人が居なくたって。
「ごめんなさい」
成長と同時にポンコツ度合いも増しているのはどういうわけかしら。元々調子に乗りやすい気質だものね。まだまだ気を付けて見ておく必要がありそうね。世話の焼ける子だわ。
「やっぱり観光とかする時間も無いのかな」
「それより大切なことを忘れているのではないかしら?」
「なんだっけ?」
ちょっとは考えなさいな。
私は白黒結界を起動した。私とアヤメを除いて世界が静止する。
「最初から使えばよかったのに」
「うるさい。それより転生者の件よ。この国にも一人はいる筈でしょ」
「あ、忘れてた」
おばか。
「ティグリスはなんて?」
「やっぱり大雑把にしか探れないってさ」
「例えばこの城のどこかにいるかとかは?」
「それもわからないって。この国の王都にいるのは間違いないって」
「それを早く言いなさいよ。なんでティグリスから聞いた時点で言わないのよ」
「流石に私だって話題は選ぶんだよ」
「次から合言葉を決めておきましょう」
「白黒結界を起動する合図?」
「そうよ。こういう事は察しが良いのよね」
「イチャイチャしたくなった時もお願いしていい?」
「ダメに決まってるでしょ。馬鹿言ってないで合言葉を考えてみなさい」
「わたしが考えるの?」
「メルヴィ姉様が羨ましいわ。モーラさんは気が利いているもの」
「むっ」
「あなたも専属従者ならいつだって先回り出来るくらいになってみせなさいな」
「むぅ~……は~い」
「それで?」
「クー様」
「……いつもそう呼ばなきゃダメなのよ?」
人前ではね。ついついクーちゃん呼びを許してしまっているけれど。
「とにかく合言葉としては不適切ね。一般的な言葉とかもダメよ。普段言わないような言葉だからって『殿下』を合言葉にするのも無しよ」
「うぅ……冗談なのにぃ……本気で呆れなくてもいいじゃんかぁ……」
日頃の行いのせいでしょうが。
「合言葉は『モノクロ』よ」
「そのまんまだね」
「わかりやすさって大切でしょ。聞き逃すこともないし」
「逆にバレバレになっちゃうよ?」
「私たち意外に意味は通じないでしょうが」
「それもそっか」
この子、さては脳死で会話してるわね。
「なんだか最近アヤメの事を姉だと思えなくなってきたの」
「アヤメお姉様って呼んでくれなくなったよね。ちょっと寂しい」
「またお姉様として頼らせて頂戴」
「頑張る!」
心意気だけは立派なものなのだけれど。
「本題に入るわよ」
「合言葉の件じゃなかったの?」
「転生者の件だって言ってるでしょ!?」
「ごめんなさぁい!?」
まったく! この浮かれポンチめ!
「仕方ないわね。ベッドに座りなさい」
「え、うん」
ベッドの縁に腰掛けたアヤメの膝に腰を下ろす。
「なんか手慣れてるね」
「折角チャンスを上げようと思ったのに」
「ごめんなさい。ありがたく頂戴します」
「もっとしっかり持ちなさい。危ないじゃない」
「はわわ~……」
頼りない。
「アヤメ」
「はい。クー様」
おいこら。
「クーちゃんと呼びなさい」
「はい。クーちゃん様」
やっぱり喧嘩売ってるんじゃなかろうか。
緊張で身体がカチコチになっているから責めないであげるけども。
「転生者を探しなさい。あなたに一任するわ」
「大役だね……」
「見事成し遂げた暁には」
「ごくり」
「チューしてあげる。ほっぺに」
「唇に?」
「いえ。ご褒美なんてあげるのはおかしいわよね。アヤメは私のものなんだし」
「すみません。ほっぺで構いません」
「最初からそう言いなさいよ」
「くっ……これが惚れた弱みか……」
「ロリコン」
「一歳しか変わらないってばぁ」
「それは今世の話でしょ。あなた前世何歳まで生きたの?」
「そういうの聞いちゃう?」
「なんとなく怖くて聞けなかったのよね」
「別に怖がられるような過去は無いんだけど」
「いえ。そうなると私も話さないとじゃない」
「めっちゃ聞きたい」
「やっぱりやめておきましょう」
「なんでさ。クーちゃんの前世が中年男性だったとしても……引かないよ?」
「嘘おっしゃい。何よ今の間は」
「できれば前世も美少女がいい」
「正直でよろしい。感激なさい。前世も美女よ」
「……それ嘘でしょ」
「あんですって?」
「クーちゃんの前世ってもっと幼いでしょ。美少女くらい」
「……どうしてそう思うの?」
「なんとなく。二十年も生きてた感じがしないから」
「お互い様でしょ」
「失敬な!? わたしは社会人だったもん!」
「やっぱりロリコンじゃない」
「くっ……! いいもん! わたしはロリコンだもん! クーちゃんが好きなんだからそれでもいいんだもん!!」
「私ね。姉がいたの。年の離れた姉よ」
「……奇遇だね。わたしも妹がいたよ。年の離れた妹」
「残念ね。私の姉の名前はアヤメではないわ」
「アヤメが前世の名前とは言ってないじゃん」
「違うの? てっきりそういうことなのかと思っていたわ」
「ちなみにクーちゃんの前世のお名前は?」
「本当にそれを伝えていいの? 私が前世の妹だったら恋人にはなれないわよ?」
「……まあそうだね。あの子と恋人になろうって気にはなれないかな」
「仲が悪かったの?」
「ううん。接点が少なかったの」
「……そう。そういうこともあるわよね」
「クーちゃんは?」
「本気で続けるなら全て話してあげるわよ」
「……やっぱやめとく」
「賢明ね。お姉様」
「くっ……このタイミングだとあんま嬉しくない……」
「前世の妹のことが嫌いだったの?」
「そんな筈ないでしょ。わたしはロリコンなんだから」
「そうだったわね♪ ふふふ♪」




