03-19.想定外のトラブル
「普通に着いたわね」
あれから一度たりとも足止めされることもなく、無事隣国に辿り着いてしまった。
本当に来ちゃって良かったのかしら。逆に不安になってくるわね。こうも順調過ぎると。
「辺境伯軍は賊に扮していたから、誤魔化しきれたと思ったんじゃない?」
「冗談でしょ」
「ううん。割と真面目に」
「ティグリスが何か探り当ててくれたの?」
「ティグリスは賢いけど、人間の社会を理解しているわけじゃないから、その手の情報収集は難しいって」
それもそうね。
「早く成長なさい。アヤメ。私の為に」
「期待してて♪」
前向きでよろしい。
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「ようこそおいでくださいました。クーフェリア王女。あなたに会えるこの日を長らく心待ちにしておりました」
……は?
「……失礼ながら。ヴァルター・バルトローグ王太子殿下。それはあまりにも礼を欠いているものかと」
「はて? 何か失礼がございましたでしょうか?」
「……貴方様に嫁ぐのは我が姉、メルヴィ王女です」
「いえ? クーフェリア王女であると伺っておりますが?」
……は?
「何か手違いがあったようですね。至急確認致しましょう。アルミディア王国へは私から使者を送らせて頂きます。事実確認が済むまで、どうぞ旅の疲れを癒してお待ちください」
「……失言を謝罪致します。お手をわずらせて申し訳ございません。どうかよろしくお願い致します」
「はい♪」
王太子殿下は朗らかな笑みを残して退場した。
「悪い人には見えなかったよ?」
「黙りなさい」
場を弁えなさいな。まだ周囲には他人の目もあるのよ。
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私たちは城の一室に案内された。幸いメルヴィ姉様とは同室だ。私は護衛隊長でもある。引き離されたら困るものね。
「これはいったいどういう事でしょう」
モーラさんが訝しげだ。心なしか、私にまで咎めるような視線を向けている。メルヴィ姉様が利用された可能性を疑っているのだろう。
「モーラ。クーは無関係です」
メルヴィ姉様がすぐに気付いて窘めてくれた。
「……申し訳ございません。クーフェリア殿下」
「いいえ。あなたの懸念は尤もです。モーラ」
けど私も驚いているのよ。いったい誰の仕業かしらね。
「辺境伯が何か仕込んだのかな」
「或いは王都に主犯格がいる可能性もあるわね」
むしろその可能性の方が高いだろう。この状況では。
やっぱり決着をつけてから来るべきだった。最悪戦争が始まっても、またティグリスに頼れば突っ切れるかと軽く考えてしまった。
それはダメだよなぁ。吹っ切れるのと手段を選ばないのは違うでしょうに。我がことながら呆れてしまうわね。
「……やるしかないかぁ」
「王都に帰るの?」
「それしかないでしょ。四神獣に頼るのも無理があるし」
「ユキノ先輩ならなんとかしてくれるんじゃない?」
「無茶言わないで。ユキノは従者よ」
ユキノがどれだけ凄くとも、やれることには限りがある。何故か私とは別ルートで陛下と繋がりがあるみたいだけど。たぶんお兄ちゃんね……そうだわ。お兄ちゃんに頼みましょう。お兄ちゃんは私の婚約者だって話だものね。それもたぶん限られた人しか知らない極秘情報なんだろうけれど。とにかくこの問題を解決する鍵にはなる筈よ。
一先ずユキノに向けて小型転移門を開いた。
「ユキノ。お兄ちゃんに繋いでもらえるかしら?」
「はい。クー様」
小型転移門は便利だけど、相手が誰と何処にいるかもわからなければ扱いづらい。下手に使って無関係の人に見られても面倒だ。信頼できて、常にだいたいの居場所がわかるユキノに中継してもらうのも必要なことだ。
暫くして侯爵邸にお兄ちゃんが来てくれた。
「久しぶりですわね。お兄様」
「疾く要件を言え。火急なのだろうが」
「実は……」
かくかくしかじか。
「……エレオノーラ姉様め」
最初に怒るのがそこなの? そりゃ口滑らせたのはノーラ姉様だけれども。私はバラしてないのによく気づいたわね。
「話はわかった。こちらは任せろ」
「ありがとう。お兄様」
「必ず帰って来るのだぞ」
「あら♪ 私が嫁いでしまうのが心配なのかしら♪ 嬉しいわ♪ お兄様♪ わたくしも愛しております♪」
兄としてだけどね♪
ごめんね。結婚は出来ないんだ。
「ふんっ!」
レオンお兄ちゃんは全て見透かしたように不機嫌に鼻を鳴らして踵を返した。
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「なんか可哀想。王子殿下」
「ならアヤメが結婚する? 幸せにしてくれるならあげてもいいのよ?」
「クーちゃん。わたしだって怒るんだよ。知ってるよね」
ならどうしろってのよ。
「アヤメの方こそ、精々お兄ちゃんに刺されないようにね。私を掻っ攫っていくんだから、いずれ覚悟を示さなくてはだめよ。ケジメは必要よ」
「え……えぇ!? クーちゃん!? わたしとの将来まで考えてくれてたの!?」
「まあ♪」
目を輝かせるメルヴィ姉様。
「おめでとうございます」
文字通りに目を瞑って諸々流してくれたモーラさん。
「あなた本当にわかっているの? 私が欲しければお兄ちゃんとユキノを倒さなきゃなんないのよ?」
「なっ!? なんでそんな話に!?」
「ケジメだと言っているでしょ」
「無茶だよぉ!!」
「あっそ。残念だわ。アヤメの覚悟がその程度だなんて」
「違っ!? 違うよ!? 諦めるって話じゃなくてね!!」
「はいはい。バカな話はここまでよ」
「そんなんじゃないよ! 大切な話だよ!!」
「なら頑張りなさい。期待しているわ」
「う、うん! うん!!」
本当に。期待しているわ。アヤメ。




