03-18.切り札
私が選んだのは正面衝突だ。辺境伯軍との。
朱雀には変わらず伯爵勢力を抑えてもらっている。その間に私たちが正面から辺境伯軍を退ける。
アヴィスは目立つ。直に王都も気付くだろう。
もちろんユキノも動いてくれている。既に陛下にも状況は伝わっている筈だ。餅は餅屋。メルヴィ姉様の評判は陛下になんとかしてもらうとしよう。ついでに私の名前も上がりすぎないように調整してくれたら言う事無しだ。
「殿下!」
千の軍勢が正面から突っ込んでくる。敵軍も皆状況は理解しているのだろう。鬼気迫る様子だ。ここで王女を取り逃がせば彼らに後は無い。形振り構う筈もない。
「構わないわ! このまま突っ切りなさい!」
「と、突撃ぃぃぃぃいいい!!!」
「「「うぉぉぉぉぉぉおおお!!!」」」
流石にちょっと躊躇したわね。騎士団長。そりゃそうだ。向こうの千人に対して、こっちは僅か二百。よくぞ全員が逃げずに立ち向かってくれたものだ。
その忠義には応えましょう。
「グォォォォォォオオオオオ!!!」
「「「「っ!?」」」」
戦場に獣の雄叫びが響き渡った。
突如として、真っ白な巨獣が割り込んできたのだ。
「これは!?」
「まさか!?」
「森のヌシ!?」
思い当たる者たちがいたようだ。話が早くて助かるわね。
「神獣様は味方よ! 構わず進みなさい!」
「「「うぉぉぉぉぉぉおおお!!!」」」
白虎を先頭に、王女を守る二百の軍勢が突っ込んでくる。
その光景に、辺境伯軍は瞬時に反転を決意した。当然命じられてのものではない。本能的な恐怖に駆られてのものだ。故に統制なんてあったものじゃない。誰も彼もが散り散りになって逃げていく。先の伯爵軍と同様に。ただ生きる為に。
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「ありがとう、ティグリス。アヴィス」
二体の神獣が傅いている。英雄王女の眼の前で。
私は彼女たちの姿を見せつけることにした。私は神獣に選ばれた特別な王女なのだと示すことにした。
二体が去るのを見送り、今度は騎士たちに視線を向ける。
「今見たことは内緒にしてくださいませ♪」
「「「「「え……えぇぇぇぇえええええ!?!?」」」」」
なんだね、チミたち。その態度は。
このクーちゃん様がウインク付きでお願いしてんだぜ? 一も二も無く頷くとこでしょうが。そこは。
「ナ・イ・ショ・に♪ してくださいませ♪ お返事は?」
「「「「「「「「「「は、ははっ!!」」」」」」」」」」
うん♪ よろしい♪
これで私の実力は有耶無耶になったわね♪ 結構結構♪
「本当にこれで良かったの?」
「だまらっしゃい」
まだ皆の前よ。余計なこと言わないで、アヤメ。
「さあ♪ 旅を再開しましょう♪ すっかり遅くなってしまったわ♪ 皆急ぐわよ♪」
「「「「御意!!」」」」
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あれから平和な旅が続いている。関所で足止めされることもなければ、辺境伯軍が改めて攻めてくる様子もない。流石にティグリス相手でどうにかなるとは思えないのだろう。
それだけこの世界の魔獣という存在は脅威だ。魔力壁を打ち消せなければ攻撃を通す事自体不可能なんだもの。ましてや相手は伝説の魔獣だ。その存在は王都のみならず、この辺境伯の領地においても知れ渡っていたのだろう。
「とはいえこれで終わりってわけでもないんでしょ?」
「その筈よ」
だってもう、踏み越えてしまったんだもの。辺境伯はもう無理よ。引き返せないわ。関所が賊共を素通りさせたのは間違いないもの。私たちも騎士の一人を派遣して見たまんまの報告を上げているし。
けれど伯爵の方はどうかしらね。実際に私たちと遭遇したわけでもないし、関所の件は私たちの証言を下に、辺境伯が掌握していたと取られるかもだし。
王国としても、一旦伯爵の罪は流して共に辺境伯を抑えてから、改めて沙汰を下す方が理に適っているだろう。でないと纏めて相手することになるものね。
「早めにケリを付けておきたいところだわ。夏休み中に帰れなくなるわよ」
「そっか。辺境伯が本格的にアルミディア王国と敵対したら、困るのはわたしたちもなんだね」
「ええ。隣国だって黙ってはいないでしょうし」
両国の王家が繋がった直後に、隣でドンパチやられたら不安にもなるでしょうよ。アルミディア王国と敵対する意思が無いにしても、苦言を呈さずにはいられないでしょうね。
そうでなくとも、単純に王都へ戻る道が塞がれてしまう。反乱中に王女を通してくれる筈もなし。次はティグリスがいるとわかった上ででも襲ってくるでしょう。
かと言って回り込むには立地が悪い。一旦は他所の国を経由する必要がある。王女一行の、二百人からなる軍隊の出入りはそう単純な話じゃない。申請からなにから準備に相応の時間が掛かるだろう。その場合は一年で帰れれば御の字だ。下手をすれば学園の卒業にだって間に合わない。最悪だ。
当然その前に辺境伯の謀反は鎮圧されるだろうけど……。
いえ。楽観的に考えすぎよね。黒幕はやっぱり隣国側にいるのかもしれないし。或いは王都の高位貴族かも。
前者なら隣国から出してもらえなくなるかもだし、後者なら足の引っ張り合いで時間を稼がれてしまうだろう。
何にせよ、辺境伯と伯爵が何の後ろ盾もなく今回の暴挙に至ったとは思えないわ。裏にもっと大きな勢力がいる筈よ。
やっぱりどうにかここで決着をつけておきたいわね。何か良い手はないかしら?




