03-17.進軍開始
「魔獣だ!! 魔獣が現れたぞ!!!」
伯爵軍は混乱に見舞われた。
突如として巨大な魔獣が出現したのだ。
魔獣の体表は灼熱の業火に覆われており、その翼は空を埋め尽くさんばかりに広げられている。
狙いは明らかだ。かの魔獣は間違いなく自分たちに狙いを定めている。
兵士たちは一も二も無く逃げ出した。あのバカげたサイズの怪鳥には敵う筈が無いと、一切の戦う意思を放棄して、一目散に駆け出した。
彼らは知らない。
かの神獣こそ、南方の地にて守護神獣と崇められる伝説的魔獣であることを。
かの神獣を遣わした者こそ、彼らが真の狙いとする英雄王女その人であることを。
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「終わったよ。クーちゃん。狙いも間違いないって」
「そう。なら手筈通りに」
「了解」
アヴィスへの次なる指示をアヤメに任せ、私はユキノをターゲットに、侯爵邸へ繋がる小型転移門を開いた。
「伯爵が裏切ったわ。調べて頂戴」
「はい。クー様」
既に最低限の情報共有は済ませてある。王都の方はユキノが上手くやってくれるだろう。
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「殿下! 賊を捕らえました! 伯爵の手の者です!」
「結構」
やはり伏兵に助けを求めたか。
アヴィスを領都の真上で旋回させた甲斐があったわね。
「誰か代わりを送れるかしら? 危険な任務よ。強制はしないわ」
「必ずや成し遂げてご覧にいれましょう!」
「ありがとう。くれぐれも慎重にね」
「ははっ!!」
騎士の一人が捕らえた伝令役に成り代わり、伏兵の下へと乗り込んでいった。
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「殿下!」
半日が経とうかという頃、遣いに出した騎士が無事に戻ってきた。しかしその表情は険しいものだった。
報告を聞いてその理由にも合点がいった。伏兵は伯爵の手の者たちではなかったのだ。
彼らは辺境伯の勢力だ。そして伯爵と手を組んでいた。
しかし伯爵の援軍要請を突っぱねた。むしろ伯爵の遣いに対して怒りを示した。よくぞ顔を出せたものだと罵った。
それもその筈。当初の計画では、伯爵がもっと早くに動いている筈だったからだ。私たちを辺境伯領に追い込み、挟み撃ちにする算段だった。
けれど伯爵は引き伸ばした。ギリギリまで粘って、漁夫の利を得ようと……或いは勝者の側に着こうとした。それが辺境伯側の言い分だ。
王女一行が足を止めたのも伯爵の仕業と睨んだようだ。
伯爵は辺境伯を裏切った。或いは、最初から王家の側だった。だから魔獣出現など嘘っぱちだと切り捨てた。そもそも助ける義理も無かった。
遣いを無事に帰したのは、宣戦布告のためだ。伯爵が裏切った以上、辺境伯側に出来るのは王女を捕らえて人質とすることだけだ。
既に伏兵たちは動き出している。此方へ向けて進軍を開始している頃だろう。
とまあ、顛末としてはそんなところだ。騎士が渋い顔をするのも納得だ。
だいたい辺境伯側も大概だ。自分たちだって盗賊に扮して言い逃れする気満々な辺り、馬鹿正直に正規の軍隊を送ってきた伯爵とは足並みが揃っていないのよね。
どう考えても伯爵に全ての罪を擦り付ける算段だろうに。自分にやましいところがあるから、すぐに伯爵の裏切りと決めつけて、思考を固めてしまったのだろう。
ただまあ、辺境伯側からしたら裏切りどころか誘い出す為の罠にしか聞こえないわよね。今回の魔獣騒動って。よりによってこのタイミングだとさ。
伯爵は自領に侵入してきた賊を討ち、巻き込まれかけた王女一行を救い出すことで、疑いを晴らして、尚且つ忠誠まで示せるわけだ。それは辺境伯側にとって最悪のシナリオだ。
さて。ここで私たちが取るべき選択はなんでしょう。
一つ。伯爵領の領都へ向かい、怪鳥を退ける。
領都で騒ぎが起きた以上、ここで見て見ぬふりをすれば私だけでなくメルヴィ姉様の名にまで傷がついてしまうかも。
ただし、後ろから辺境伯軍が迫ってくるおまけ付き。加えて、旅の予定にも遅れが出ることだろう。
一つ。気にせず進軍。
やる気満々の辺境伯軍と正面衝突。実にスリリング。しかも千の伏兵を越えたとしても、辺境伯領を抜けるまではいつまた襲撃されるかもわからない。
一つ。アヴィスを呼び戻して脅しに使う。
私たちの守り神として誇示してみましょうか。流石にアヴィスに悪いわね。こき使いすぎよね。かといってティグリスに頼むのもね。彼女この地だと有名人っぽいしね。応援にドラコーでも呼んでみる? たぶん飛べるよね。青龍枠だし。
う~ん。悩みどころね~。
「……仕方ない。ファンの期待には応えるとしましょうか」
「戦うの? どうやって?」
「そんなの正面から堂々と乗り込むに決まってるじゃない」
それでこそファンサービスというものでしょう。
「クーちゃん吹っ切れたね」
「あやめの方こそ」
「わたしたちお似合いだね♪」
「ええそうね。愛しているわ。アヤメ」
「ひゃんっ♪ クーちゃん♪ だいったん♪ ありゃ?」
抱きついてこようとしたアヤメをさくっと躱し、あっけに取られていた騎士団長たちへと向き直る。
「出発するわ! 私を信じて付いて来なさい!」
「「「御意!!」」」




