03-16.覚悟
「動いたよ、クーちゃん」
ビンゴ。伯爵は黒だ。
私たちの背後に軍勢が迫っている。伯爵の差し向けた追手だ。一番容易いパターンできてくれた。
もちろん状況としては最悪だ。文字通り一番悪いパターンだ。けれどだからこそ、私も手加減という選択を選べない。つまりすぐに動き出せる。待つ必要がない。だから手っ取り早い。そういう話だ。結果オーライ。ちくせう。
「メルヴィ姉様。少々お花を摘んでまいります」
「は~い」
……いや待てよ。
本当に姉様を残していいのかしら?
こういうのって、二重三重に罠が仕掛けられているものじゃない? 私が迂闊にも姉様を残して離れたら、その隙に姉様を攫われるやつじゃない?
……かと言ってもなぁ。
私はこっそり行ってこっそり片付けるつもりだ。誰にもバレないように敵軍を追い返すつもりだ。だから問題ないような気も……でもなぁ……。
「クー? どうしましたか? 引っ込んじゃいました?」
「う~ん……。まあそんな感じ」
勢いがね。足りないよね。
ここで気にせず突っ走れるタイプじゃないのさ。私は。
「お二人とも。はしたのうございます」
え? なんで?
「クーちゃん。二人にも協力してもらえば?」
「協力ったって……」
既に見せてしまったメルヴィ姉様はともかく、モーラさんの前で手の内を晒すのはなぁ。今から隣国に渡る二人に私の凄いところ見せちゃったら色々問題が……いかん。
違う違う違う。私の目指す昼行灯はこういうんじゃぁないんだよ。手を抜いて生きることなんかじゃないのだ。
悪目立ちしない。
英雄として持ち上げられない。
そして手の届く全てを守り抜く。陰ながら。
この三つが私の信条だ。私の目指すべき昼行灯像だ。
決して無責任で鈍感な主人公になりたいわけじゃない。
必要以上に手を抜いて皆を危険に晒したいわけでもない。
王女や護衛隊長の責任を放棄したいわけじゃない。
最近色々ありすぎて迷子になっていた。自分の芯がブレて見えなくなっていた。
ここは私以外に四人の転生者がいる世界だ。
女神様と出会い、転生者たちを探すようにと託された。
私は四体の神獣を統べる王だ。私には力がある。
「ティグリスに頼んで。アヴィスを呼ぶようにと」
「御意♪」
アヤメはすぐに指令を飛ばしてくれた。
「お姉ちゃん。やっぱり行ってくる」
「はい♪ いってらっしゃい♪」
思えばメルヴィ姉様はずっと変わらない。私たちがどれだけコソコソしていようと、何も聞かずにただ笑顔を向けてくれていた。それはきっと信頼の証なのだ。どういうわけか、お姉ちゃんは私を信頼しきってくれているのだ。
だからこそだ。余計な心配は掛けまいよ。さくっと終わらせて隣国へ送り届けよう。隣国がお姉ちゃんにとって安全な場所でないなら私が叩き潰そう。この私を相手に罠を張ったことを後悔させてみせよう。
私はアヤメを連れて隊列を離れた。女性騎士の同行も断って、アヤメと二人で近場の森の中へと入っていった。
それからすぐに空へと上がった。不可視の壁を階段のように生み出し、それを一歩ずつ上っていった。
「うっひゃ~。高いね。クーちゃん」
「怖かったら手を握っていてもいいのよ。アヤメ」
「きゃー♪ こわい♪ 遠慮なく♪」
アヤメの手を引いて、階段を登り続ける。
森を見下ろせる高さにまで上がった後、空中に巨大な床を生み出して、偽物の空を貼り付ける。
これで下からは普通の空に見えている筈だ。この後何がおころうとも。
それから程なくして真っ赤な鳥が突っ込んできた。
『王よ!! お初にお目にかかる!!』
なんだ。アヴィスは普通に喋れるのね。
炎を纏った真紅の鳥は、私の張った空の床に着地して頭を垂れた。
「アヴィス。よく来てくれたわね。あなたの忠義に感謝するわ。早速だけど王命よ。我が敵を追い返しなさい。殺してはダメよ。ただ脅すだけよ。出来るかしら?」
『無論だとも!! 我が力!! ここに示そうぞ!!』
「期待しているわ。行きなさい」
『御意!!』
炎の鳥は再び飛び立った。
私は足元の結界を解き、重力に身を任せる。
「クーちゃん!?」
「着地は任せたわ。アヤメ」
「急だねぇ!?」
言いつつ既に風を放っている。流石アヤメね♪
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「あら♪ もうよろしいのですか?」
「ええ。メルヴィお姉ちゃん。バッチリよ♪」
「それは何よりです♪ スッキリ気分爽快ですね♪ クー♪」
「ええ♪ 絶好調よ♪」
「おしっこの話?」
「アヤメさん」
「ごめんなさい。モーラさん」




