03-12.四神の長
森の奥で私を待っていたのは、巨大な虎だった。
純白の毛並みと、薄緑色の宝石のように綺麗な縞模様だ。
聖獣と、そう呼ばれていたとしても納得の神々しさだ。
「『遠慮するな。かかってこい』だってさ♪」
アヤメはどっちの味方なんだか。
もちろん私の勝利を疑ってはいないのだろうけど、すっかり警戒心を失ってしまっている。
このまま放っておいたら呑気に近づいてしまいそうだ。仕方ない。本気を出そう。
私は白黒結界を起動した。
私以外の世界の全てがモノクロに包まれ停止する。
巨大虎に近づき、その毛の一部を空間に引き込んで【断空】で切断。
再び距離を置いて、今度は巨大虎を丸ごと空間に引きずり込んだ。
「見なさい」
刈り取った毛を掲げて見せる。……しまった。私だけじゃあ何言ってるかわからない。
「え? もう終わっちゃったの?」
アヤメも連れ込んで翻訳を任せてみた。
「なんて言ってるのよ」
「『あっぱれ』だってさ」
そりゃ何よりね。
「もう満足してくれた?」
「うん。負けを認めるって。酷いよ、クーちゃん。わたしまで固めちゃうなんて」
「守るためよ」
時間が止まっていれば傷つきようもないでしょ。
というわけで白黒結界は継続だ。
「結界を解いてって。風の流れが不自然で気持ち悪いって」
完全に止まっているわけではないのね。結界の外の時間は止まっているのに。
空気回りはあんまり細かく意識すると藪蛇かと思って敢えて漠然としたイメージのままに魔術を作り上げてしまったのよね。て、いかんいかん。考えちゃダメなんだってば。
私はやむを得ず結界を解いた。
ユキノとノーラ姉様を背後に庇い、呑気に歩き出したアヤメの手首を掴んで引き止める。
「大丈夫大丈夫♪ もう何もしないってさ♪」
どうしてくれようかしら。この能天気。
だいたいこの虎さんが私を食べたがっているだなんて言ったのはアヤメよ? 血に飢えた獣に堕ちてしまっただなんて言って脅したのよ? 私を騙したの? この虎と共謀して?
「『女神は何故そなたを遣わした。我は何も聞いていない』だってさ。クーちゃん、女神様と知り合いだったの?」
「知らないってば。会ったこと無いって言ったでしょ」
接点は魔力を貰った洗礼式のあの日だけよ。接点と言っても、女神様の神像越しに魔力を授かっただけだけど。直接会うどころか、声を聞いたことも無いわ。
というかこの虎さん、やっぱり聖獣かなんかだったんだ。どおりで過ぎるわね。素直に納得だわ。
「『解せぬ。それ程の力を与えておきながら何も仰られぬとは。もしや神命を下す余力も無いということか?』」
聞かれても……。いえ、今のは独り言みたいなものなんだろうけど。
「『しかし同胞らも異常は感じておらぬようだ』」
「同胞って?」
「『我ら【四神獣】。女神によって遣わされ、四の属性を守護する者たちだ』」
お~。そういうのいたんだ。かっくぇ~♪
「もしかして他の三体って、龍と亀と鳥?」
ノーラ姉様、そういうのは知ってるんだね。
「玄武、青龍、朱雀、白虎」がそれぞれ、「地水火風」と「北東南西」を司るんだよね。
そういえばアルミディア王国は大陸の西に位置する国だよね。だから白虎はこの地で風属性なんだね。属性の守護者って世界のバランスを守る的なやつかな? めっちゃ大切な存在じゃん。あやうく真っ二つにするところだったよ。
「『いかにも。ヌシらは彼の世界よりの転生者か。よくよく見れば魂の形がそうであったな。やはり難事は近いのだな。これは至急女神に問わねばならぬ。いや安否確認が先か』」
やっぱり私たち転生者には何か大切な役割があるの? 世界の存亡に関わるような何かが?
「もしかして、クーフェリアは『黄竜』なんじゃない?」
「それだぁ!」
え? なにが?
「クーちゃん知らない? 四神には纏め役がいるんだよ♪」
そうなの? それは知らなかったわ。
「四方の四神と中央の黄竜。この五体を合わせて五神と呼ぶの」
二人とも物知りね。
「『ふむ。であれば要らぬ懸念であったか』」
待って。納得しないで。貴女まで。
「あっさりしすぎていないかしら? 何か世界の危機が迫っているなら備えるべきでしょう?」
「『取り越し苦労はいつものことだ』」
……苦労してるのね。
いや、だからって。
「『我が名はティグリス。そなたを王と認め、仕えよう』」
えぇ~……。




