↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虚空少女の風騙り ~ 英雄王女の異世界昼行灯 ~  作者: こみやし
03.夏季休暇編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
37/124

03-11.調教


「ぐじゅ……ひっぐ……うぅ……」



 アヤメったら。またベソかいてるし。


 よっぽど昨晩のお仕置きが心に染みたようだ。というかトラウマになったようだ。情緒不安定だ。明るく話していたかと思ったら、突然泣き出して私の裾を掴むのだ。


 ……やり過ぎたわね。完全に。


 途中まであんまりにも余裕ぶっていたから、ついついムキになって本気を出してしまったのよね。反省しましょう。



「アヤメ。少しだけ抱きしめてあげるわ」


 私はユキノにも聞こえるように宣言して立ち止まった。


 アヤメを引き寄せて、頭を抱え込んで優しく撫でる。



「よしよし。大丈夫よ。あなたが良い子にしていれば、あんな怖いことなんて二度と起こらないわ」


「う……うぅ……うわぁぁぁぁああん!!」


 あかん。かえって思い出させてしまったようだ。頭を抱え込んだのも失敗だったのだろう。暗闇はトラウマなのだ。途中から明かりを消したのは完全にやり過ぎだったわね。



「アヤメ。アヤメ。愛しているわ。アヤメ。大丈夫。私はここにいるわ。アヤメ。アヤメ。アヤメ」


 私は敢えてより強く頭を抱え込みながら、その耳元で囁いた。


 暗闇は心地の良いものなのだと上書きしよう。私が側にさえいれば、恐怖など存在しないのだと教え込もう。



「……」


 ユキノが何か言いたげな目で見ている。けれど口にはしなかった。


 ついでにノーラ姉様は気まずそうに視線を逸らした。あなたも昨晩メルヴィ姉様と似たようなことしてたじゃない。本人たちは自覚無いのかもだけど。


 やっぱりメルヴィ姉様もどうにかして手元に置くべきかしら。それともノーラ姉様をメルヴィ姉様の従者として紛れ込ませるなんてどうかしら? 専属メイドの一人くらいいたっておかしくはないものね。


 これは存外と良い手なのかもしれない。私のスパイとして隣国に潜り込ませるのだ。各国にそんな感じで草を忍ばせられれば、世界中の魔獣災害にいち早く駆けつけられるようになるだろう。


 何か魔術でパスのようなものでも繋げられないだろうか。ノーラ姉様の視界を借りて転移門を繋げられれば、いつでも安全に隣国へ潜り込むことも出来るだろう。


 しかしノーラ姉様には酷だろうか。愛しのメルヴィが目の前で他の男と結婚生活を送ることになるわけだし。


 むむむ。面白い手だとは思うけど、倫理的に様々な問題があるわね。かといって諦めるには惜しい。どうしましょう。取り敢えず本人たちにでも相談してみようかな。


 いやいや。相談したら本人たちは乗り気になるだろう。間違いなく。そもそもノーラ姉様では不適任だ。だって本人すら認める口の軽さだもの。外に出せる人ではあるまいよ。


 む~……色々惜しいわね。私の昼行灯計画のためにも是非とも実現させたいものなのだけど。


 とにかくもう少しよく考えてみましょう。それに今はアヤメの調教が先決だ。この子は私の片腕なんだから。全てを乗り越えて隣に立っていてもらわないと。



「アヤメ。アヤメ。アヤメ。大好きよ。大好き。アヤメ」


 朝露垂れる郊外の森の中。少女の啜り泣く声と、その少女を呼ぶ声だけがいつまでも、いつまでも、響き続けていた。




----------------------




「さあ! 行くよ! クーちゃん!」


 いつ頃からか、アヤメは元の明るさを完全に取り戻した。


 私の手を引いて、ズンズンと森の中を進んでいく。



「森歩きに慣れているの?」


 孤児院時代にでも通っていたのかしら?



「え? 初めてだよ?」


 テンション任せかい。



「ならダメよ。ユキノの先導に任せましょう」


「大丈夫だって♪ 全部聞こえてるから♪」


「聞こえてる?」


「うん♪ 風が教えてくれるの♪ なんかすっごく調子が良いの♪ 手に取るようにこの森のことがわかるの♪ この先にいるよ♪ クーちゃんの相手に相応しい魔獣がね♪」


 私の相手に? 相応しい?



「クー様。これ以上奥に進んではなりません」


 ユキノが私たちの行く手を遮った。



「クーフェリア。この森にはヌシが住んでいるの。これ以上は彼の縄張りよ。近づかない限り人に危害を加えるような魔獣じゃないから、そっとしておいてあげましょう」


 案外と涼しい顔で付いてきていたノーラ姉様が補足した。



「きっとそれだよ! クーちゃんが勝てばこの森のヌシはクーちゃんだ!」


「落ち着きなさい、アヤメ。話を聞いていなかったの? 無害な魔獣なんですって。引き返しましょう」


「ダメだよ!」


 アヤメ?



「その彼が呼んでるの。早く来い早く来いって。手ぐすね引いて待ってるの。強烈な女神の匂いを纏うクーちゃんを喰らいたくて堪らないの。だからもう手遅れだよ。今更引き換えしたって彼は大人しくしていないもの。クーちゃんの存在を知ってしまったもの。一匹の獣に堕ちてしまったの。ここで引き返したって必ず王都に攻め込むよ。そしたらいっぱい犠牲者が出るよ。だからもうここで討つしかないんだよ。て。彼がそう言ってる。うん? 彼じゃなくて彼女だってさ」


「……もしかしてその彼女とやらは風属性の魔獣なの?」


「うん。そうみたい。色々教えてくれてるんだね」


 私を喰らうために? 同じ風使いのアヤメを招き寄せているの? 風に言葉を乗せて届けることで?



「そのヌシって本当にそこまで知性の高い魔獣なの?」


 というかそんなの存在するの? もちろんアヤメを疑っているわけじゃないけれど、それ程までに高い知性を有する魔獣なんて聞いたことがない。最高位の竜種だって、言葉を発した事例は無いんだもの。少なくとも私が調べた限りでは。



「高い知性を有しているのは間違いありません。かの魔獣は決して人を襲いません。それが言葉を解する程とは存じ上げませんでした」


「王家にも伝わってないわね。ただ手を出すなと教えられただけよ」


 う~ん……。



「大丈夫だよ♪ クーちゃんなら勝てるよ♪」


「そういう問題じゃないわ、アヤメ」


 この浮かれポンチめ。ちょっとは落ち着きなさいな。



「その魔獣を倒してしまった場合の問題点は?」


「この森の秩序が乱れるかと」


 だよね。あんまり良くないよね。やっぱり。



「取り敢えず会うだけ会ってみようか。本当に王都を襲撃されたら困るもの」


「お供致します」

「道案内は任せて♪」

「帰らないわよ」


 ……何故私が一人で行こうとしているとバレたし。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。