03-10.罰と実験
「クーちゃぁ~ん~……」
怯えるのが早いわ。アヤメ。お仕置きはこれからよ。
私はアヤメを連れて自室に戻り、白黒結界を展開した。
その時点でアヤメは何かしらの予感を感じたようだ。気付くのが遅いわね。この子。
「五億年ボタンって知っているかしら?」
「待って待って待って待って!! それだけはぁ!!」
「流石に五億年は長過ぎるわよね。先ずは一年から流していきましょう」
「ごめんなさぁ~い!!!」
「ダメよ。躾けは厳しくすると決めたの。だからバイバイ。アヤメ。精々壊れないようにね」
「やだ! やだやだやだやだ!! やぁだぁ!!!」
アヤメをもう一層の結界で囲った。
まあ、流石に一年は嘘だ。というかこっち側との時間差も無い。ただのマジックミラー結界だ。こちらから中は見えるけど、中から外は見えない。そんな結界だ。
私は自分のベッドに腰掛けて暫く眺めておくことにした。
この白黒結界の内であれば私の時間も進まない。いくらでもアヤメの罰に付き合ってあげられる。飲食やその他の生理現象とも無縁の空間だ。
今のアヤメは一年間出られないと思い込んでいる。暗闇の中で必死に出口を探して壁を叩いている。
廃人になる前には出してあげよう。私も時間はわからないからなんとなくだ。今度から懐中時計でも持ち歩くことにしよう。部屋の時計は結界の効果で止まっちゃってるし。
……いえ。そういえば後からでも結界の内に加えられるのよね。椅子とかこのベッドとか。普通に使えているもの。
条件は? 触ればいいのかしら? それとも念じるだけで十分かしら? ……出来た。よしよし。これで時間はわかるわね。今は夜の十時頃……あ。これって時間ずれるわよね。結界を解除した後のことを考えてなかったわ。
う~ん。こういうのも隙になり得るわよね。
この結界は実質的な時間停止だ。結界の対象とするかどうかも思うがままだ。
例えば結界を張って時間を止め、ナイフを投げる。
その途中で空中のナイフを結界の外に出す。
結界を解除すれば運動エネルギーを保持したままのナイフが突然空中に現れる。そのまま標的に向かって飛んでいく。
なんて、テンプレ戦術も可能なわけだ。理論上は。
もちろん私の技量や思考が追いつかなければ意味がない。標的に当たる直前のナイフを術の対象外とするのもそうだけど、そもそも投擲の技量が足りなきゃ当てられない。刺さらない。投げナイフって意外と難しい。
もちろんその辺りを補助するのも簡単だけど、だからってナイフ一本飛ばす手間に見合っているとは思えない。
そもそも何でも切り裂く【断空】だって使えるんだもの。攻撃力は元々足りている。
当然手加減にも応用出来る技術だから、研鑽だけは積んでおこう。強くなるためにも活用できるかもだし。そういう意味ではロードローラーも理に適っているわけだ。うんうん。
アヤメは早くも体育座りに移行した。どうにもならないと諦めて閉じこもることにしたようだ。なんて情けない。私への愛はその程度なのね。私に会うためならどんな障壁だって乗り越えられると信じていたのに。
まあいいわ。私は魔術の鍛錬を続けましょう。身体的な成長が発生しないこの空間でも、強くなる方法はいくらでもあるもの。できればアヤメにもそう在ってほしかったのだけれど。仕方ないわよね。そんな気も起きないっていうなら。
……せめて明かりだけでも付けてあげるべきかしら?
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「……何してんの?」
思わず独り言を呟いてしまった。
何故ならアヤメが突然脱ぎだしたからだ。
まさか発狂してしまったのだろうか。少しだけ明るくしてあげたのはかえって失敗だったのだろうか。
まだ十分と経っていない。いくら暗闇に閉じ込められたからって、反応が過激すぎやしないだろうか。
もしかして暗闇にトラウマでもあったのだろうか。だとしたら流石にやり過ぎだろうか。どうしよう。やっぱり中断するべきか……けど……でも……うん?
……まさか? 見えてる? 私の存在に気付いて反応を引き出そうとしているの?
……そうか。マジックミラー。あれは本来、明るい方から暗い方が見えなくなるものだ。
けれど今回は、明るい方から暗い方を覗けるようにしていた。もちろんそこまで細かく考えていたわけじゃない。これもイメージによって構築した魔術だ。つまり不慣れだ。後から内部を明るくしたせいで、何か不整合が起きたのだろう。
私もまだまだね。これは失敗だ。けれどまだ取り返しはつく。アヤメはどうにかして私の気を引こうとしている。というより、反応を確認している。アヤメも確信はないのだ。本当に外の私が見えているのかどうかについては。つまり脱いだのは単純に驚かせるためだ。
いっそこのままにしておきましょう。ただし映像は固定しよう。今この瞬間を切り取って貼り付けましょう。常に私が見ていると思わせましょう。ちょっとリアルな壁紙だ。クーフェリア様の美しさをその目と心に深く深く刻むが良い。
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あの子って本当は裸族なのかしら。あれ以来ずっと裸なんだけど。いるわよね。自室では下着だけで過ごす人。前世の姉もそんな感じだったわ。
実は我慢していたのかしら。この家に来てからは私かユキノが常に側にいたものね。そうやって過ごす機会も無かったわよね。寝る時くらいは私室に帰してあげるべきだったかしらね。よく考えると酷いブラックよね。初日以来一度もお休みだってあげていなかったものね。なんだか申し訳なくなってきたわね。やっぱり出してあげようかしら。
……あかん。私の方が寂しくなってきた。
けどダメだ。これは罰だ。我慢だ我慢。
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「どう? アヤメ? 少しは反省した?」
「……」
反応が無い。折角封を解いてあげたのに。
「何? 死んだふり? それとも心が壊れちゃった?」
「……」
「そう。まだ罰が足りないようね。本当に一年も閉じ込めてほしいだなんて思わなかったわ。じゃあね。アヤメ」
「待っ!」
何か言いかけたわね。今。
もう封じちゃったから聞こえないけど。
さて。今度はどれだけ保つかしら。
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「段々間隔短くなってない?」
こんにゃろう。全然反省してねえ。
全裸で床に横たわったまま、堂々とした様子で話しかけてきた。
それもこれも、私がちょくちょく封印を解いてしまったせいだ。だって気になるんだもの。
「真面目に罰を受けるつもりがないようね」
「クーちゃんが寂しいくせに」
「加減が難しいのよ。本当に壊してしまうなんて望んでいないもの」
「なんか慣れてきたよ」
「じゃあ五億年いってみましょうか」
「クーちゃんが我慢できないくせに」
「問題ないわ。今回私にとっては一瞬だから」
「ま、待って。クーちゃん」
「お陰様でだいぶコツを掴んできたの。設定年数で勝手に解除される結界も今なら生み出せるわ」
「いや、あの……ですね」
「最後に言い残すことはあるかしら?」
「ごめんなさぁ~いぃ~!!」




