03-08.王女の密会
「メルヴィ!」
ノーラ姉様は駆け出してしまった。
当然、四番目のお姉ちゃん……メルヴィ姉様は面食らって声を上げそうになってしまう。
私はすかさずもう一つの新魔術を発動した。
「エレオノーラ姉様!? ご無事だったのですね!!」
「ごめんなさい! メルヴィ!」
二人は周囲の光景が変わったことにも気付かず、熱烈に抱き合った。……ちょっと仲良すぎない?
ノーラ姉様、さては自分の口の軽さを自覚しているせいで、必要以上に言葉が足りていないんじゃないの?
「修行空間もバッチリだね♪ クーちゃん♪」
「さらっと手を握ってこないで。アヤメ」
「ケチ」
開き直りおって。私だって本当は触れ合いたいのに。アヤメお姉様のアンポンタンめ。
「修行空間って名前はダサくないかしら」
「ダサいね。すっごくダサい。何が良いかな」
「アヤメが決めてもいいわよ」
「わたしたちの子どもってことだね♪」
ちょっちキモいなぁ~。流石になぁ~。
「プライベートスペース?」
「長すぎ。センス無いのね。アヤメって」
「くっ……何故かクーちゃんが辛辣……」
なんでわからんねん。
「愛の巣」
「バカ」
「ひどい……」
なんでそれを採用されると思ったのよ。
「じゃあ……断絶空間」
「だいぶ良くなったわ。もう一声」
「マイルーム」
「なんか遠ざかったわね。趣味じゃないわ」
「無限結界」
「かえって分かりづらいわ。私だから意図はわかるけど」
「以心伝心だね♪」
発情期なの?
「白黒結界」
「見たまんまね。気に入ったわ」
「本当に? 効果が分かりづらくない?」
「外部の時間が止まるとこう見えるのね」
「光を遮っているからかな。けどそれなら真っ暗になるのかな。光が空中で留まっている? それでも色が抜ける理由は説明つかないか。なんだろうね。これ」
さあ。追々調べていくとしましょうか。
「にしてもいつまでやってるのかな。あの二人」
「気持ちはわかるけど言わないであげましょう。今生の別れよ」
「容赦ないね。クーちゃん。転移で連れてってあげればいいのに」
「無茶言わないで。リスクが計り知れないわ」
あんまり乱用したら噂が立っちゃうじゃない。隣国に通うのは流石に無茶よ。
困るでしょ。転移魔術なんて私以外に再現のしようもないんだから。属性が最初から決まっているこの世界だとさ。
「貴女たちは?」
やっと気付いて頂けた。
「お初にお目にかかります。メルヴィ姉様。わたくしはクーフェリアと申します。姉様の末妹に当たります」
「貴女が! ありがとう! ノーラ姉様を救ってくださったのですね!」
何か誤解を与えてしまったようだ。
「クーちゃん。余計なこと言わないでね」
アヤメお姉様が耳元で囁いた。
このまま進めろと? ノーラ姉様が臥せっていたのは真実で、私はノーラ姉様を治療したとでも?
意味がわからない。どうしてそんな話になるのだろう。
「メルヴィ姉様。わたくしは謝罪のために参りました。申し訳ございません。わたくしがノーラ姉様をお連れしたばかりに、メルヴィ姉様が」
「それがなんだと言うのですか! ノーラ姉様がご無事ならば構うことはありません! 元より我々が共に在れる時間など限られたものだったのです! 私は感謝しております!」
メルヴィ姉様は私の両手を握りしめ、真正面から目を合わせてきた。ちょーぱわふる。
「……そう……ですか。お力になれたのなら幸いです」
「はい! ありがとうございます! クーフェリア様!」
初対面のお姉ちゃんから様付けで呼ばれちゃったぜ……。
「ちなみにメルヴィ様には前世の記憶があったりとかは?」
アヤメお姉様が再び耳元で囁いた。
それを私に聞けと? このタイミングで?
「前世の記憶? 特にそのようなものはございませんが?」
聞こえてた……。メルヴィ姉様めっちゃ良い人。無礼なメイドの言葉にも嫌な顔一つせずに答えてくれた。
「そう……」
ノーラ姉様そんな顔しないで。話がややこしくなるから。
「失礼致しました。メルヴィ姉様」
「あいたたたた!?」
「あら。暴力はダメですよ。クーフェリア様」
「めっ」てされてしまった。ちょっと可愛かった。
「むっ! クーちゃん!」
どうしてそういう時だけ察しが良いのか。このポンコツメイドは。
「ところでこれは? クーフェリア様のお力ですか?」
周囲の光景はモノクロと化している。場所自体はメルヴィ姉様の部屋のままだ。ただ、あらゆるものが時間ごと停止しているのだ。
動くのは私たち四人だけ。これが『白黒結界』の光景だ。
「どうぞ暫しのご歓談を。この空間内で起きた出来事は外部に漏れません。また、この空間内に在る限り時間の経過も起こりません。ノーラ姉様と積もる話もあるでしょうから」
「まあ♪ まあまあまあ♪ 噂以上です♪ 驚きました♪」
また噂だ。王族は皆知っているのだろうか。私を影で英雄王女なんて呼んで崇めているのだろうか。さてはパパの仕業だね。これも何かの準備だ。困ったもんだぜ。




