03-04.転生者の知識
「はい! もう一周~!」
姉様は必死に食らいついてきてくれた。
実力の程は中々どうして悪くない。普通にアヤメより強かった。流石卒業生。しかも王族だ。やはり年季が違うわね。幼い頃から高度な教育を受けてきただけのことはある。
ユキノも鍛え甲斐があると太鼓判を押してくれた。ユキノは真面目な子が大好きだものね。エレオノーラ姉様のこともすっかりお気に召してくれたようだ。
そういえば、結局引き籠っていた理由を聞けていない。実際に聞かなかったわけではないけれど、聞いても姉様は薄っすらと頬を染めて「……漠然とした不安よ。大した理由は無いの」なんて答えるのだ。絶対嘘だね。あれは。
まだ心を開いてもらえていないのかな?
日中は学園もあるから殆どユキノに任せきりだもんね。初日にご一緒したきりだ。そろそろまた休日が近づいてきた。
あっという間に一週間だ。けれど私の方はまだ上手くいっていない。空属性の魔術なら簡単に別の空間を作ることくらいは出来る。けれど時間に干渉する術がない。
やっぱり修行空間といえば、外部よりも速く時間の流れる特別な空間にしないとだよね♪ 所謂精神となんちゃらの部屋だ♪ 残り一月程を一年くらいに引き伸ばしたい所存♪
「どうやったら時間を制御出来るんだろうね」
何か専門的な知識が必要なのかな。城の書庫にその手の本は無かったのよね。前世でもっと勉強していればと思わずにはいられない。どこかにいないかな。専門的な知識を持った転生者とか。姫様パワーでどうにか雇用できないかしら。
「時間は重力とも関係しているんだよ。とっても強い重力を発生させると、その周囲だけ時間の流れが遅くなるんだ。クーちゃんがやりたいことはその逆でしょ。けれど無重力にした程度じゃ時間の流れは変わらない。やるならマイナスに振り切らないとだね」
「……アヤメはその知識をどこで?」
「え? ……あ」
「あ」ってなにさ。
「え、えっと……なんだっけ? ごめん。どこで聞いたか覚えてないや。あはは~♪」
明らかに取り作りおって。さては何か知っておるな?
「『重力のマイナス』なんて存在するの? 『重力』っていうのは『引力』と『遠心力』を掛け合わせた結果でしょ? 『引力』だけが強ければ、『重力』が強いと体感的に認識するかもだけど、だからって『遠心力』だけが強ければ『重力がマイナスになった』とは言わないのでしょう?」
「えっと……うん。そうだね。その認識で合ってるよ」
それを判断出来るアヤメお姉様は何者なのよ。
「ただしその認識は、星の上で暮らしている場合の話だね。遠心力は重力の必須要項というわけじゃない。結果として生じる重力にはそういうのも含まれるってだけだ。だから重要なのは……」
「(にこり♪)」
満面の笑みでアヤメお姉様に迫ってみた。
「あ、あはは~……」
ダラダラと冷や汗を垂らしながら後ずさるお姉様。
「アヤメ♪ 白状なさい♪」
「え、えっとぉ…………ごめんなさぁい!!」
あ! 逃げた!?
「待ちなさい!」
「お願い! クーちゃん! 今のは聞かなかったことにしてぇ~!」
「出来るわけないでしょ! 白状なさい! その知識を何処で手に入れたのよ! 私城の書庫の本全部読んだのよ! けどどこにもそんな知識は乗っていなかったわ!」
「そ、そうだ! 近所にね! とっても物知りなおじいさんが居てね! いつも白衣を着て爆発ばっかり起こしてる変なおじいさんでね!」
「どこのマッドサイエンティストよ!」
「本当に……え? クーちゃん? あれ? 今サイエンティストって言った? 科学を知ってるの?」
「やっぱり! アヤメも転生者だったのね!?」
「えぇ!? まさかクーちゃんも!? 本当に!?」
「へぶっ」
急停止したお姉様に突っ込んだ。
「本当の本当に!? クーちゃんも転生者!?」
「アヤメこそ! そういうことは早く言いなさいよ!」
「そこはお互い様でしょ!?」
「アヤメはお姉様なんだから! 手本を示してよ!」
「そんなの言えるわけないじゃん!」
「なんでよ!? はっ!? まさかTS!?」
「んなわけないでしょ! 前世も女だよぉ!」
「私もよ! 奇遇ね! アヤメ!」
「運命だね! クーちゃん!」
おっと。
「えぇ!? ここで避けるの!?」
「ハグは禁止よ。ユキノと約束したもの」
「今のは感動のやつでしょ!? 家族的なやつでしょ!?」
「ずっと邪な感情を抱いていたくせに! このロリコン!」
「一歳しか違わないじゃん!? なんで罵られてるの!?」
いや、なんとなく。自衛するって約束したしさ。
「ごほん。一旦落ち着きましょう」
「急だね、クーちゃん。けどさんせー」
すぅ~~~はぁ~~~~。あ~びっくりした。
「さっきの話を聞いて思いついたのよ」
「このタイミングで何を? どうぞ。お聞きします」
「重力の話。私一度見てるのよ。禁書庫が崩壊した時に」
「なにそれ。禁書庫? 崩壊? 初耳なんだけど」
「まあそこはいいのよ。問題は重力の話よ」
「クーちゃんも大概人のこと言えないよね」
「アヤメ」
「はい。お聞きします」
「禁書庫に施されていた空間拡張の魔術が崩壊した時、とんでもない引力が生じて全てを引き寄せ、砕いてしまったの。あれは何かヒントになるんじゃないかしら」
「まさしくブラックホールだね。所謂『重力崩壊』だね」
「けれど、ブラックホールの時間は遅くなるのよね?」
「そうだよ。だから逆なんだ。重力のマイナスは」
「けれど逆が出来るなら反転させられるかもしれない」
「極端なことを言ってしまえば、世界そのものをブラックホールの中に置き換えられるなら、そことは別の安全な隔離空間の時間だけを外より速く進めることは出来るだろうね」
「現実的ではないわね」
「そうだね。仮に出来たとしても世界は滅び去るだろうね」
どうしたものやらだ。
「例えば結界Aを張って、その内部を重力崩壊空間とするじゃない? で、その中心部に結界Bを張れば、結界Bは絶えず外側からの重力に晒されるわけよね。これって重力のマイナスになるんじゃないかしら?」
「うん。良い線いってると思う。ただ、そこで安全に訓練が出来るとは思えないけど。完全に安全な空間としてしまったら、マイナスの重力も発生しなくなってしまうだろうし」
う~ん……。
「二人はお行儀が良すぎるね。魔術ってそういうものじゃないよ」
「へ? エレオノーラ姉様?」
しまった!? どこから聞いてたの!?
「この世界の魔術は想像力で補えるの。でなきゃ魔力障壁なんて技術が成り立つ筈無いでしょ。あれは純粋な魔力そのものだよ。なのに岩の弾丸だって防げてしまう。それは術者本人が防げると信じているからこそなの。皆がやっているから私も出来ると信じ込めるだけなのよ。細かく物理法則を考えながら身に纏っているわけじゃないの」
「なる……ほど……え? 今この世界って言った?」
「奇遇ね。私も転生者なの」
「「えぇ~~~~~!?」」




