03-03.軌道修正
「エレオノーラ姉様。状況を聞かせて頂けますかしら?」
夕食が終わり、食後のお茶をしばきながら、ようやく話を切り出した。
「まさか知らないで連れ出したの?」
「私が知っているのは姉様が隣国に嫁ぐという話だけです」
「……そう」
落胆させてしまったわね。一緒に逃げようなんて言ってしまったものね。
「誤解しないでくださいまし。冗談や酔狂で連れ出したわけではございませんの」
「……陛下に言われたから?」
「違いますわ。陛下はただ護衛隊長を務めろとお命じになられただけですわ」
「仕事熱心なのね」
「そういうことでもないのですが」
すっかり疑心暗鬼だ。どうしたものやらだ。
「わかっているわ。英雄王女は仕事なんてしないものね」
しんらつぅ~。
というか英雄王女ってなんやねん。初めてそんな呼ばれ方したよ。
「(しまった。英雄王女の呼び名は本人の前で口にするなって言われてるんだった。……直接会うのは初めてだけど、間違いない。この子は私なんかを本気で心配してくれている。やっぱり英雄王女の噂は本当だったのね)」
なんだろう。めっちゃ見てくる。
「(この子は困っている人を放っておけないんだ。オフィーリア様の娘として相応しくあろうと努力を続けてきた子だ。才に恵まれながらも傲ること無く直向きに。この子が纏う魔力を見れば一目瞭然だ。こんな揺らぎのない魔力は初めて見た。王宮魔術師だって彼女には及ばないだろう)」
どったん? お姉ちゃん?
「(けれど彼女は誇らない。いつだって何もしていないと言い張るのだ。英雄王女は働かない。働く姿を見せたりなんてしない。夜な夜な城下に降りて治安維持に尽力しているなんて、決して本人は認めない)」
いやん♪ 熱烈ぅ♪
「(わかってる。責務から逃げる私のことなんか軽蔑して当然の立場だ。けれどこの子はそうしない。私とは何もかもが違う。心根からしてまるで比べ物にならない。なんて眩しい子だ。私はいったい何をやっていたのだろう。もう直国を離れるのに。忙しいこの子の手を煩わせたりなんかして)」
そろそろ声かけた方がいいかしら?
「ごめんなさい。やっぱり帰るわ。お騒がせしたわね」
「え?」
「護衛隊長、よろしくね。期待してる」
なに? なに? どういうこと?
「待って、姉様。ダメよ。席を立たないで」
「ごめんなさい。本当に大丈夫よ。出発までには切り替えるわ」
「ダメ。座って」
ユキノがその身で姉様の進路を遮ってくれた。
「……わかったわ」
姉様は渋々席に戻ってくれた。
「姉様。どうか正直に。本当は嫁ぎたくないのでしょう?」
「……」
なんだろう。この表情。恥ずかしがってる? なんで?
「気持ちはとってもよくわかります。わたくしだって、結婚しろだなんて言われたら逃げ出します。間違いありません」
「……そう」
……ちょっとは和らいだ?
王族的にはブラックジョーク……グレージョーク? ともかく、褒められたことではないけどね。
「けれどそれが出来るのは、わたくしが強いからです。こう見えて、力には自信があるのです」
ムキムキ♪ 魔術だけじゃなくて腕力も中々のもんだぜ♪ 筋トレ欠かしてないもんね♪
「え、ええ……そうでしょうね……驚いたわ……」
そんなに非力に見えるかな? 儚げな美少女お姫様に見えちゃうかな♪ 線が細いからかな♪ かなかな♪
「ですから、わたくしは姉様を鍛えることに致しました」
仲間になろうぜ♪ 修行仲間♪ 期間限定だろうけどさ。
「……はい?」
「本当にどうしても辛い時は逃げても良いのです。わたくしはその一助になりたく思います」
「……だから鍛えるの?」
「はい♪ 鍛えます♪ ビシバシ鍛えます♪ 覚悟してください♪」
最後までついて来てね♪ お姉ちゃん♪
「……どうしてそこまで」
「自信を付けましょう♪ 姉様♪ 修行は良いですよ♪ 楽しいですよ♪ 新しい扉開けます♪ 選択肢が増えます♪ 毎日気持ち良く眠れます♪ 良い事尽くめです♪ 共に頑張りましょう♪ 姉様♪」
「……え、ええ。ありがとう、クーフェリア」
よし♪ 軌道修正完了♪
……ちょっと強引過ぎたかしら?




