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虚空少女の風騙り  作者: こみやし
03.夏季休暇編

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03-02.育成計画


 エレオノーラ姉様の侯爵邸滞在はあっさりと許された。



 陛下パパが先回りして許可を出してくれていたようだ。そこまでするくらいなら私にも明言しておいてほしかった。


 もしかして、私には多くを語らずとも上手いこと運んでくれると、期待なんかしてくれているのだろうか。不思議。


 姉様の身支度もそこそこに、ボサ髪のままフード付きマントを被せて運び出した。侯爵邸に着き次第お風呂に放り込もう。ぶっちゃけちょっと臭う。何日ああして閉じ籠もっていたのだろう。よっぽど隣国に嫁ぐのが辛いようだ。


 正直気持ちはよくわかる。私だって嫌だもん。さっきはお茶目だなんて誤魔化したけど、本当に嫁げと言われたら一も二も無く逃げ出すだろう。


 私は私なりの方法で国への義理を果たし続けるつもりだ。けれどだからって、王女の役割の重さを理解出来ないわけじゃない。王が嫁げと言うなら従うべきだとわかっている。


 何も民の税によって豪華な暮らしをしているから、なんて殊勝な理由を上げるつもりはない。王族に生まれたから。その一言で事足りる。王家の血筋とはそういうものなのだ。



 さて。そんな私がどのようにしてエレオノーラ姉様を元気づけてあげるべきだろうか。


 もちろん考えはある。でなきゃ連れ出したりはしない。流石にそこまで無責任なわけじゃない。


 ただ、私は本当に姉様を立ち直らせるべきなのだろうか。本当にこの方法は正しいのだろうか。私にはわからない。


 けれどきっと、私以外に手を差し伸べる人なんていないだろう。事は隣国との問題だ。十一人も姉妹が居るんだから、他の誰かに任せれば良いだなんて簡単な話でもない。


 既に第三王女が嫁ぐという話で合意が取れている筈だ。なんなら何年も前から向こうの王子とは婚約者同士だったのかもしれない。私は詳しい事情なんて何一つ知りはしない。


 だからって読み取れないこともない。身代わりが許されるとしても、第一王女か第二王女のどちらかだけだ。第四王女以降では見劣りしてしまう。王侯貴族とはそういう体面を重視する。直前で差し替えられれば、間違いなく侮られたと不快に思うだろう。


 しかし第一も第二も既に嫁いだ後だ。だからそもそも差し替えは不可能だ。残念だけどエレオノーラ姉様の運命は覆らない。私に出来るのは少しでもマシな気分にしてあげることだけだ。いっそ引き抜いて、私の影の英雄計画で利用するって手も無いこともないけれど。それは最後の手段だ。




----------------------




「ユキノ。姉様を頼むわ」


「はい。殿下」


 お風呂に入って綺麗な服に着替えれば少しは気持ちも落ち着くだろう。


 先ずは話し合いだ。私が何かをするのは姉様の考えと現状を知った後だ。



「本当にどういうつもりなのさ」


「あら。アヤメは私を信じてくれないのね」


「そんなわけないじゃん。わたしはただ」


「エレオノーラ姉様のことが気になる?」


「……うん。だってあんなに嫌がってるんだよ。無理して結婚させなくても……もしかしてクーちゃんの考えって」


「別に私が貰っちゃうなんて話ではないわよ」


「ならどうするの?」


 本当に気になって仕方がないのね。



「自信を付けて差し上げるのよ」


「……鍛えるってこと?」


「そうよ。アヤメお姉様で手応えは感じているの♪ エレオノーラ姉様にも強くなってもらいましょう♪ 本当にどうしても嫌なら、自ら道を切り開いていけるようにね♪」


「あんまり時間無いよ?」


「夏季休暇が始まるまでの残り一ヶ月弱と、隣国へ旅の最中の十日程。それだけあれば十分よ。例の修行空間も早めに完成させましょう」


「それクーちゃんの方が無茶することになるじゃん」


「このくらい当然よ」


 姉様に無茶を言うんだもの。自分がこれくらいこなせないと話にならないわ。



「なら最初の修行は受け持つよ。クーちゃんは新術開発に集中して。ユキノ先輩にも知恵を借りてさ」


「それなら配役が逆よ。ユキノに修行を任せてアヤメに術開発の補佐を任せた方が効率的だもの」


「初っ端からユキノ先輩が師匠じゃ心折れちゃうよ」


 それはそうかも。


 ユキノはスパルタだからな~。



「けどそれくらいは乗り越えてもらわないと」


「言う程簡単なことじゃないからね。ユキノ先輩のスパルタに耐えるのって」


 約五週間の修行である程度以上の強さを身につけるなら必要だと思うのだけど。



「そもそもお姉様だって学園の卒業生よ。既に最低限の実力は身につけている筈よ」


 なんなら今の私たちよりも強いかも。


 卒業生ってことは、既に魔力障壁も習得している筈だし。



「なら先ずはその辺を測ってみてからだね」


「ええ。模擬戦でもすれば一発よ」


 方針は纏まったわね。


 エレオノーラ姉様とユキノが戻ってくるまで、新術開発を進めておきましょう。




----------------------




「まあ♪ とってもお綺麗よ♪ 姉様♪」


「ユキノのお陰。凄いのね。噂の英雄屋敷は」


 どういうこっちゃ。



「後ほど具体的な話をしましょう♪ けれどその前に♪」


 そろそろ夕食の時間だぜ♪



「どうぞ、皆様。既に準備は整っております」


 流石だぜ♪ 皆の衆♪ クーちゃんお腹ペコペコ♪


 思わず大人モードも途切れちゃうくらい♪



 夕食の席は皆終始無言だった。全員お腹ペコペコだったのだ。引き籠っていたエレオノーラ姉様のみならず、王都の入口まで行って引き換えした挙句、二度も城に行った私とアヤメお姉様も、今日一日全然食事を摂っていなかったのだ。


 今日はもう、模擬戦を出来る時間でもないし、軽い聞き取りくらいに留めておくとしよう。なんなら早めに休んで明日の朝からでも構わない。幸い明日も休みだし。いっそ学園は暫くお休みにしようかしら? ダメ? そっかぁ~。


 となるとやっぱり、エレオノーラ姉様にはユキノの下で頑張ってもらうしかなさそうだ。頑張れ。お姉ちゃん。

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