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虚空少女の風騙り  作者: こみやし
03.夏季休暇編

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03-01.王女の務め


「待っておったぞ。クーフェリア」



 ありゃ。今日のパパはシリアスモードだ。


 真面目な要件で何よりね。くだらない内容でピクニックをキャンセルさせられていたら、何をしてたかわからんぜよ♪



「縁談だ」


「逃げるよ! ユキノ! アヤメ!」


「「御意!!」」


「バカモンがぁ!!!」


 ひぃっ!?



「陛下。今のは陛下のお言葉も誤解を招いた要因かと」


「う、うむ……そうだな。勘違いするな。クーフェリアの縁談ではない」


 あ、なんだ……。それならそうと先に言ってよ。もう。



「ではどなたの? まさかレオンお兄様の?」


 それはちょっと気になる♪



「違う。第三王女だ」


 会ったことないね。そのお姉ちゃん。継承順程には歳も離れていない筈だけど。



「この度隣国へ嫁ぐことになった。お前には護衛隊長を任せたい」


 ……どういうこっちゃ。



「ハッキリ言ってしまえば話し相手だ。安全な友好国への旅路とはいえ、本人も緊張しているだろう。クーフェリアが側について気を紛らわせてやっておくれ」


 ……とういうのは後付で、実際は箔付けの為のお飾り隊長ってことかしら。


 パパはやっぱり私を英雄にしたいのね。これはそのための布石なのね。安全で確実な旅とはいえ、立派に護衛隊長を務めたという実績は残るものね。なんとも手厚いことだ。



「クーフェリアにとっては初めての公務だ。隣国へ嫁ぐ姉からも道中話を聞いておくとよい」


 至れり尽くせりだ。



「出発は夏季休暇に入ってからだ。学園の心配も不要だ」


 逆に言うと夏季休暇は無いわけですね。パパは半分バカンスのつもりで提案してくれているのかもだけど。



「話は以上だ。準備を済ませておけ」


「御意」


「……良いのか?」


 なにがだろう。



「クーフェリアは王族のしがらみを疎んじておるものと思っておったのだが」


「立場は弁えております」


「先ほどは逃げ出そうとしおったろうが」


「お茶目です」


「場を弁えよ」


「申し訳ございません」


「……すまぬな」


「陛下。お姉様は立派に務めを果たされようとしておられます。わたくしだけが我儘を申すわけにも参りません」


「……お前は違う。お前は特別だ……それに」


「英雄の娘に相応しき振る舞いを心がけます」


「……うむ。そうだな」




----------------------




 私たちは謁見の間を退出し、侯爵邸へと戻ってきた。


 思いの外時間を取られてしまった。キャンプは中止だ。残念だけどこればかりは仕方がない。


 ……というか全然急ぎでもなんでもなかったじゃない。一体全体どうして、あんな場所にまで呼びに来たのかしら。そりゃ国王の呼び出しという時点で最優先なのはわかるけど。



「クーちゃん。良いの? あんなこと言っちゃって」


「え……? ああ。あれはリップサービスよ」


「えぇ……」


「私はどこにも嫁ぐつもりはないし、この国の英雄として名を轟かせるつもりもないわ。いずれは影に紛れて密かに世界を守るつもりよ。そのためにも転移は必須ね♪ 世界中どこへでも飛んでいけるようにならなくちゃね♪」


「けどあんなこと言ったら、陛下だって本気にしちゃうんじゃない? 今回の公務だって外堀を埋める一環でしょ?」


「だからって義務を果たさないわけにもいかないわ。パパが甘い内は人生経験と思って役目を果たしましょう」


「いずれ裏切るの? 勝手に居なくなるの?」


「ええ。王女でいられる時間には限りがあるもの」


「……連れてってくれるよね?」


「もちろんよ♪ アヤメとユキノはずっと私のものよ♪」


「そっか。うん。どこまででも付き従うよ」


「ありがとう♪ アヤメ♪ なら早速だけど♪」


「うん?」




----------------------




「本当に良いの?」


「だって気になるじゃない」


 三番目のお姉様とはまだ会ったことも無いんだし。


 というわけで城に戻ってきた。近いとはいえ、流石に時間を無駄にしすぎたわね。こんな時間に突然お邪魔してご迷惑じゃないかしら?



「そうじゃなくて。わたしまで城を歩き回ったりしてさ」


「何を今更。さっきだって謁見を許されたじゃない」


「それはそうなんだけどさぁ……」


 アヤメお姉様ったら心配性ね。


 平民だからってのもわからなくはないけれど。



「大丈夫。私は城を自由に出歩いて良いって特別な許可を貰っているわ」


 七歳の頃に貰った許可だけど。特に取り上げられたりはしてないし何の問題も無い筈だ。従者の一人くらい連れていたって咎められることはないだろう。むしろ今となっては従者を連れずに一人で歩き回っている方が咎められそうだ。


 そういえば先日学園に忍び込んだ賊はどうなったんだろうか。とっくに解決はしているだろうけど、私蚊帳の外なのよね。たぶん聞いても結果を教えてくれる人はいないだろう。



「何をしている。クーフェリア」


 あらお兄ちゃん。奇遇ね。



「丁度良かったわ。お兄様」


「……なんだその話し方は」


 ふふん♪ 大人クーちゃんに戸惑っているわね♪



「いつまでも子どもではいられませんもの」


「……そうか。良い心がけだ」


 やったぜ♪ 褒められた♪


 けどなんか寂しそう? 気のせいかしら?



「お兄様。第三王女、エレオノーラお姉様の居場所を教えては頂けないかしら?」


「……今は会えん」


 あら。やっぱり急がしいのかしら。



「行くぞ」


 どこへ?


 お兄ちゃんはこちらを気にすることもなく、ズンズンと進んでいく。


 こういう時のお兄ちゃんは目的地に着くまで何も答えてくれないだろう。いつもそんな感じだし。


 私はアヤメお姉様を伴って、急ぎ足で後に続いた。




----------------------




 結構歩いた。お兄ちゃんの部屋とは随分離れた場所だ。


 大きな扉の前で立ち止まったお兄ちゃんは、私たちを侍女に預けると、そのまま何も言わずに引き返していった。



「ありがとう、お兄様」


 その背中に呼びかけるも、特に反応は示さなかった。これも割といつもの感じだ。お兄ちゃんはクールなのだ。やっぱかっけえぜ♪ 私のお兄ちゃん♪ 結婚する相手は苦労するかもだけど♪ ふふふ♪



 侍女に続いて大扉を潜り、更に奥へと進んでいく。


 お兄ちゃんは何も言ってくれなかったけれど、私にもなんとなく状況は理解できた。


 第三王女ともなると大切に育てられるものなのだろう。こんなに厳重に守られているとこっそり抜け出すのも難しそうだ。その割にはアヤメお姉様の同行も許されたけど。お兄ちゃんの人徳の賜物かしら?



「……クーちゃん」


「落ち着きなさい。アヤメ」


 お姉様ったら気圧されてるわね。


 大丈夫よ。私もいるから。



「こちらでございます」


 侍女は自らノックすることなく、脇に避けてしまった。


 普通こういう時は、代わりに呼びかけてくれる筈なのだけど。


 けどこの対応を見る限り、私に直接ノックして構わないと言っているのよね。


 よし。そういう事なら遠慮なく。


 コンコン。



「お姉様。末妹のクーフェリアと申します」


 ……。



「突然の訪問申し訳ございません。よろしければご挨拶申し上げたく。お時間よろしいでしょうか」


 ……。


 反応が無い。留守かしら?



「殿下はご在室でございます」


 あらま。居留守ってこと。


 会えないってそういうことだったのね。



「皆様、少々手荒く乗り込むのも辞さぬご様子です」


 そんなパチンコの三店方式みたいな。「なぜか皆さんあちらの方に行かれますね」みたいな口ぶりだったね。今の。


 まあ、侍女さんたちも苦労しているのだろう。色々と。察してあげよう。



「お姉様。入りますよ」


 鍵はかかっていなかった。不用心な。


 ベッドの上がこんもりと丸まっている。ふて寝中かしら?


 原因は……やっぱりあれよね。


 そっか。急ぎの理由はこれか。


 夏季休暇までもう直ぐだもんね。お姉様がこの調子じゃ出発できないもんね。パパは私に説得を任せたかったんだね。


 先に会いに来て良かったよ。でないとこの調子のまま馬車に放り込まれたお姉様と二人きりになるところだった。



「お姉様。私と逃げませんか?」


「っ!?」


 飛び起きた。



「クーちゃん流石にそれは……」


 まあまあ。任せておいてよ。アヤメお姉様。



「お初にお目にかかります。私はクーフェリア。十一王女にして、エレオノーラお姉様の妹です。以後お見知りおきを」


「ほんとに!? 本当に一緒に逃げてくれるの!?」


 エレオノーラお姉様は私の両手首を掴んで縋り付いた。



「クーちゃん……」


 ……うん。ちょっと劇薬過ぎたかもしれないね。


 想像以上に効果があったわね。私の言葉には。



「一先ず侯爵邸に避難しましょう♪」


「ええ! ええ!!」


「……クーちゃん」


 大丈夫。私に考えがあるから。

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