02-17.出発?
「ユキノ♪ アヤメ♪ 出発よ♪」
「「はい。クー様」」
今日は約束通りピクニックよ♪ クーちゃ……ごほん。この私の成長を見せてあげるわ♪ とくとご覧あれ♪
魔獣。それはまさしく魔に侵された獣たちだ。今日のターゲットは比較的出現頻度の高いボア系の魔獣だ。
初めての……三つ首ワンちゃん以来、初めての魔獣戦だ。
さりとて予習はバッチリだ。昨晩だけじゃない。私は今まで魔獣の研究を欠かさなかった。影の英雄として対魔獣戦は必要不可欠だ。避けては通れぬ道だ。
私の能力は極めて強力だ。空属性は基本的に魔力障壁を無視できる。だからこそ、対人戦ではどうしても本気を出し切れていなかった。
学園でのアピコンだけじゃない。ユキノやアヤメお姉様と戦う時だってそうだ。魔獣戦ではその問題が解消される。もちろん今日は人目もない。正真正銘全力で戦えるのだ。
あの三つ首ワンちゃん戦からどこまで成長出来たのか。私自身気になっている。油断も遠慮もせずに臨むとしよう。
「クーちゃ……クー様。忘れ物はない?」
「アヤメ。呼び方も戻しなさい。あなたから距離を置くことは許さないわ」
「はい。クーちゃん」
「よろしい♪」
私は言葉遣いを改めた。けれどこれは距離を置くことが目的なわけじゃない。いつまでも子どものように振る舞っていてはユキノが安心出来ない。だから大人になると決めた。その意思表示だ。
だから私はアヤメお姉様を従者として扱おう。けどそれはそれだ。お姉様は寂しく思うかもしれないけれど、暫く見守っていてもらおう。いずれ新しい形にも慣れるだろう。
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私とアヤメお姉様は馬車のキャビンに乗り込んだ。
ユキノは御者台だ。本当に三人だけでのピクニックだ。
アヤメお姉様は窓の外を眺めている。主から目を離すだなんてあまり従者らしくはないけれど、昨晩の件もあるから今日のところは多めに見てあげよう。
お姉様はいつまで私を好きでいてくれるだろう。どうせなら恋心は失わないでいてほしい。お姉様の全てで私を愛していてほしい。そんな我儘を言いたい気持ちも無いでもない。
流石にお姉様が可哀想かな。いずれ私以外を好きになって、誰か私以外の隣で幸せになるのかな。
……むむむ。それは面白くないわね。やっぱり断固阻止したいわね。だとするなら自分で応えるのが一番よね。
そうは言っても、恋心なんて簡単に芽生えるものでもないのよね。お姉様のことは大好きだけど、従者や姉、家族としての愛なのよね。これって。
まあ追々だ。お姉様ならきっと大丈夫。そう簡単に目移りなんてしないもの。させるつもりもないし。ユキノの手前、私の気持ちが育つまで待っていてくれとは言えないけれど。
予約を入れられたのなら話も早いのに。
これはあれね。早く修行空間を完成させるべきね。お姉様と二人で話せる場を設けるべきね。
「アヤメ。昨晩の話なのだけど」
「へぁ!? は、はい!」
何を緊張してらっしゃるの?
「ほら。話していたじゃない。修行空間を作ろうって」
「え? ……あ、うん。そうだね」
ガッカリした? ホッとした?
そんなに緊張していて大丈夫? 私に気を取られて魔獣に怪我でもさせられたら大変よ?
「アヤメ。私に恋することを許すわ」
「……えぇ!?」
「だから落ち着いて。私はアヤメを拒絶しないわ。私を信じてアヤメ。あなたに何かあったら困るの。今は眼の前のことに集中して頂戴。それが出来ないならピクニックは中止よ」
「……クーちゃん」
「良い子ね。大丈夫よ。私は決してあなたを遠ざけないわ。全て理解した上で側に置くの。だからね、アヤメ。どうか怯えないで。特別な事とは思わないで。主を敬愛することを恥ずべき事だなんて思わないで。今の私があなたの気持ちに応える事は無いけれど、それでもその想いを大切にして頂戴」
「……うん。ありがとう、クーちゃん」
「こちらこそ♪ 大好きなアヤメにそこまで想ってもらえて私は幸せ者よ♪」
「クー様」
御者台の方からユキノの声が聞こえてきた。
「ユキノも心配しないで。どうか信じて見守っていて」
「はい。それはもちろんです。ですが今のは」
え?
なんだか外が騒がしいわね。
停車した馬車の扉が開き、兵士の一人が声を張り上げた。
「王女殿下! 国王陛下がお呼びです!」
もう。パパったら。折角のピクニックなのに。
正門は目前よ? 王都を出るまで後少しだったじゃない。
「どうしても?」
「はっ! 至急登城されたしと!」
「残念ね。ユキノ。引き返して」
「御意」
扉を閉めて馬車は再び走り出した。
「ごめんね、アヤメ。折角のピクニックだったのに」
「ううん。王様の用事ってなんだろうね」
「さあね。見当も付かないわ」
最近呼び出しなんて無かったもの。学園で派手にやり過ぎたかしら?
「もしかして魔獣退治の依頼かな?」
「私に? 無いわよ。十年前とは違うもの」
今は一人の英雄に頼らずとも、この国は十分な戦力を有している。わざわざ王女を出陣させるような厄介事なんてそうそう起こりはしないだろう。
「なら嫁ぎ先が決まったとか?」
「……なんてこと言うのさ。お姉様のバカ」
「ぷっ」
「笑い事じゃないわ。本当にそうなってしまったらどうするの。嫌よ私。学園を中退して隣国に嫁げなんて言われたら」
「その時は……わたしが攫ってあげる」
「ユキノも一緒ならついて行くわ♪」
それはそれで楽しそうだ♪
もちろんそんなわけもいかないけどね。




