01-03.新たな決意
「さあ! クーフェリア! 遠慮することはない! こちらへ上がって来るのだ! パパの膝に! あいてっ!?」
「スパァーンッ」と良い音が鳴った。
陛下の側近が、どこからともなく取り出したハリセンでひっぱたいたのだ。
「何をするのだ!」
「オフィーリア様との約束をお忘れですか。陛下」
「しかしだなぁ! ようやく会えた父と娘だぞ! お前に人の心はないのか!」
「陛下もご納得の上でお約束を結ばれました」
「やだやだ! 余もクーちゃん可愛がるぅ~!」
うへぇ……。
「ご覧ください陛下。クーフェリア殿下がドン引きしております」
「しまったぁ!?」
愉快なパパン……。
「……パパ様」
「お、おお! クーフェリアよ!」
今更取り繕っても遅いってばよ。
「パパ様と母上はどのようなお約束を結ばれたのですか?」
面倒だから直接聞いちゃるぜ♪
「そ、それはだな……」
「クーフェリア殿下。あなた様の御母上オフィーリア様は、クーフェリア様の未来を想って王宮を離れられたのです」
……え? ママの方から離れたの? 追い出されたんじゃなかったの? そりゃあ、ママ自身はそんな事一言も言ってないけどさ……でも他の皆は……。
「ご、ごほん。どうか母を恨まんでやっておくれ」
「陛下。見当外れです。クーフェリア殿下はそのようなことお考えになってはおられませんよ」
ほんとだよ。なんで私がママを恨むのさ。
「そ、そうか。ならばよい」
まさか緊張してらっしゃる?
「パパ様」
「う、うむ! 不便は無いか? 折角の機会だ。存分に甘えていくがよい」
「その機会とは? 何故母上との約定を破られてまでお呼びになられたのですか? 今回の件には限りません。幼き頃より幾度となくお呼び立て頂いたものと記憶しております」
「……余の我儘だ。約束を一方的に反故にしたのだ」
……本当に?
「クーフェリア殿下。これは事実です」
あらま。
「しかし陛下は思い直されました。幼き殿下が事実を正しく認識し、目立つことを控えてしまわれたからです。オフィーリア様の仰っていた通りでした。才気溢れる殿下の健全な成長において、そのお立場は障害にしかなり得ぬのだと理解致しました」
……流石に持ち上げすぎじゃないでしょうか?
こちとら未だ八歳にも至らぬ未熟者でっせ?
というか昼行灯計画普通にバレてるやんけ。
【虚空少女の風騙り】 完!!
いやまだだ!!
「あなた様は王族であると同時に、我が国の誇る大英雄の娘なのです。どうぞそのお力を存分に振るってくださいませ。それこそあなた様のご両親が望む在り方なのでございます」
ママが望んでるのはそういうんじゃないと思う。
つまりそれって王族の立場は気にするなって意味だよね。かと言って、王族から外そうってわけでもないんだよね。
あくまで英雄の娘という立場もあるから、皆わかってくれるよって話だよね。
私が優秀過ぎて、継承争いに巻き込まれることを危惧していると考えたのだろう。それ故に、まわりに気を遣って全力を出せずにいるのだと。パパたちはそう考えたわけだ。
うん。それ自体は正しいよ。実際私はそう考えた。
けど違うんだよ。ママの望みはさ。
ママは私をこの国や生まれに縛り付けたくないんだよ。もちろんそれが無理だってこともわかっていると思う。だからママは私を侯爵領には連れて行かなかったんじゃないかな。
私は姫だから。英雄の娘だろうがそうでなかろうが、私には王族としての責務が待っているから。そこから逃げることだけはどうしても出来ないから。
だからせめて幼い内だけは。何も知らずに育って欲しい。そう願って、私を城から遠ざけてくれたんじゃないかな。
パパの望みは、私が自由に力を振るう英雄になることだ。
ママの求める自由は、国や宿命に縛られない真の自由だ。
そこは二人もすれ違っているんだと思う。
「今のお話を伝えるためにお呼びになられたのですか?」
「いいや。今のはこやつが勝手に口走ったことだ。お前を呼び立てたのは余だ。当然目的がある。クーフェリア。我が娘よ。今後城への自由な立ち入りを許可しよう。少し早いが誕生日プレゼントだ。母に会いたかろう」
「パパ……! 大好き♪」
「くはっ!? 聞いたか! 聞いたな! 聞いていたな! 祝いだ! 国を挙げて執り行おう! 今すぐあいたっ!?」
スパァーンッ!
あはは♪ 本当にありがとう♪ パパ♪
けどごめんね。やっぱり期待には応えられそうにないの。
私は変わらず昼行灯を目指すよ。そのうちガッカリさせちゃうね。けどしゃあないんだよ。私がなりたいのは国を背負う英雄じゃないからさ。ママに楽はさせてあげたいけどね。
パパはきっと生まれついての王族なんだよね。だからママの本当の気持ちを見逃してしまっているんじゃないかな。
そして私もだ。今の今まで気付いていなかった。考えてもみなかった。
だから……これからはもっと本気で取り組むよ。ただ燥ぐのをやめるだけじゃダメなんだ。目立たないだけじゃ、年相応に振る舞うだけじゃ、昼行灯とは呼べないよね。
私はそこを履き違えていた。私は未熟だった。
目指せ! 最強の昼行灯!
昼行灯とはただの無能にあらず!
諸々隠しつつ国も護る!
愛する両親の異なる期待! 纏めて応えてみせる!
世界一自由な影の英雄に! 私はなる!




